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省員徒然草




タイ便り(最終回)バンコクの交通渋滞の中から

 タイ語でクルンテープ、天使の都と呼ばれるタイの首都バンコク。推定人口1千万人といわれる東南アジア最大のこの町は、都会の喧噪と、活気にあふれています。お隣のシンガポールやマレーシアの首都クアラルンプールのような小綺麗さには全く欠けていますが、アジアでこれほどバイタリティに富んだ町は他には東京と香港位ではないでしょうか。私はバンコクのことを「東南アジアの新宿」と呼んでいるのですが、良くも悪くもこの町にはいつも異様なエネルギーというか、生命力のようなものがあふれています。タイに在住する日本人は5万人とも6万人とも言われますが、これら日本人の間でもバンコクが好きな人と嫌いな人が比較的はっきり分かれているのは、このタイの首都の持つ個性といったものが強いせいでしょうか。

 この町には、東京のような先進国の都会の持つ殆どのものが存在します。すなわち、並び立つ高級ホテル、香港からコックを呼んだ高級中華レストラン、タイダンスが見られる一流タイレストラン、フランスレストラン、イタリアレストラン、インドレストラン、道路をうめる外車に日本車オートバイ、携帯電話を片手に忙しそうに走り回るタイ人ビジネスマン、チャオプラヤー河(メナム河)での船上ディナー、世界中から集まる観光客、数え切れないほどの日本レストランや日系デパート、日系スーパーマーケット、日本資本のコンビニストア、日本人相手のカラオケバー、エステサロン、足の裏マッサージ、日本語の貸しビデオ屋、テニスクラブ、数多くのゴルフコース・・・・。

 しかしながら、そんな先進国と変わらない暮らしぶりの横では、一杯50円のバーミー(タイ汁蕎麦)を屋台ですする労働者、天秤棒を担いで歩く卵売りの行商人、信号で車がとまるとどこからもなくやってきて窓ガラスを拭く少年たち、棒に花輪を担いで歩道を売り歩く少女・・・といった、昔ながらのタイ人の生活が今でも続いているのです。

 タイの一人あたりの平均年間所得は3000ドル(20数万円)です。冒頭申し上げたようなぜいたくな生活を享受しているのは、タイでもほんの一握りの人々や外国人だけであり、タイ人の殆どは今でも我々日本人に比べたらはるかにつつましやかな生活をしています。バンコクの郊外には、クロントイ・スラムとよばれる大スラムがあり、何万人という人々が今でも恵まれない暮らしをしています。地方に行くとタイの恵まれた自然の美しさに隠されてか、貧富の差はあまり目立たないのですが、バンコクにおいては、豊かな暮らしをしている人々が少なくないだけに、その差が心を痛ませます。タイという国は、我が国と比べると、金持ちもたくさんいますが貧しい人もたくさんいて、中間層の人々が相対的に少ないのではないかというのは私の間違った印象でしょうか。日本のように国民の9割が自分の生活水準が「中の上」の生活レベルだと信じている国とはかなり違うような気がします。

 さて、前置きが長くなりましたが、私は今、日本大使館を出て車でバンコクの日本人街とも言われるサットン通りの方へ向かっています。夕刻の大渋滞の中を一時間近くかけて、ようやくサットンの入り口にたどり着くと、道路を横切るラマ4世通りが巨大な高架道路になっており、渋滞の名所の一つであるこの交差点の車の流れを立体交差にすることによりスムーズなものにしています。このフライオーバーと呼ばれる道路橋は、実は日本の経済協力により作られたモノなのですが、この建設にあたっては、真偽はともかくとして一つの「伝説」が残されています。

 すなわち、かってこの高架橋を日本の経済協力で建設した際には、日本のタイに対する急速な経済進出を背景に、タイ国内において反日感情がつとに高まっていました。実は、この高架橋の側にもう一つ、小さな高架道路があり、それはベルギーの経済援助で建設されたのですが、この橋にはカラフルなペンキでベルギーの国旗(黒、黄色、赤の三色旗)と「タイ・ベルギー友好橋」という名前が大きく描いてあります。日本の友好橋が完成した際には、ベルギーのように日本の国旗と日本の名前を大きく橋に掲げる予定だったのですが、この橋の建設がかかるタイ人の微妙な国民感情を刺激するとして、日本の名前を大きく書き込むことをやめたというのです。確かに、本日、私がその橋の下にいって車の中から見上げてみると、ネズミ色のペンキを背景に白い文字で日本の名前が橋に書いてはありますが、ベルギー橋に比べると目立たないことは隠しようがありません。

 相手国に経済協力を行うということ、乱雑に言えば「お金をあげる」ということは、本当に難しいことだと思います。これは、人間関係でも同じだと思いますが、「くれてやる」方式は論外として、「お金をあげるから見返りになにかやってくれ」方式の経済援助が、表面的、短期的にはともかく中長期的には、相手国の我が国に対する信頼をかえって失わせ、マイナスに働くことは確実です。他方、「援助して当然」のような顔を相手側にされてしまうと、今度は国民の皆さんの税金を使っていったいなんでそんな援助を行わなければならないのかということになってしまい、元も子もないことになってしまいます。

 更に申し上げれば、今まで効果的かつ効率的に援助を行ってきて、相手国との確固たる信頼関係を築き上げてきたにもかかわらず、それがただ一度の日本側の不用意な対応や、あるいは不注意な発言で、今までの努力が水の泡になってしまうこともあります。本当に、援助を行うということは難しいと思います。

 現在、日本においては、我が国の経済援助のあり方について色々と議論が行われていると聞いています。確かに、現下の厳しい財政事情の下、右肩あがりで経済協力の予算を伸ばしていくことはむずかしいかもしれません。しかしながら、国民一人あたりの経済援助額は他の先進国と比べてもまだまだ低いと聞いています。そして、さらに現場で働いている私から一言申し上げれば、世界各国の開発途上国の人々が日本の経済援助の今後のあり方に注目している真剣さは、日本に住まれる皆さんの想像をはるかに越えるものがあるのです。タイに関して申し上げれば、この国の健全な経済発展は未だ日本からの経済協力なくしては十分になりたたない状況にあります。ここで、我が国が経済援助を止めたり、大幅に減らしたりすれば、タイ経済、更にはタイの人々の暮らしに対する中長期的影響にははかりしれないものがあります。その場合、日本が営々と長年にわたり築き上げてきた経済協力を中心とする支援によるタイ国民からの信頼と親愛が、大きく損なわれることも懸念されます。

 この4回にわたるタイ便りを通じて、私は我が国の経済協力がタイの国民にどのように裨益しているかを、ほんの一握りだけ照会させてもらいました。チェンマイのエイズ患者、南部の農民、東部国境の町に住む人々、そしてバンコクで汗水ならして働くタイ人達・・・。皆さんの税金を使って行われる経済協力という川の水は、わたりわたってこのタイの恵まれない人々、貧しい人々のところに細い水の流れになって届いています。そして、その水で喉を潤している数多くの人々、また、その水を待ち望んでいる数多くのタイ人達が皆さんからの支援を待っていることが、少しでも御理解いただけたら幸いです。

在タイ日本大使館一等書記官 新美(しんみ) 潤

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