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外務省員の声

文化外交最前線
―第10号―

2005年1月4日
近藤誠一  
はじめに

 Season's Greetings 謹んで季節のご挨拶をさせて頂きます。 

 最近めっきりこの挨拶文が増えているように思います。相手の宗教や習慣を問わず、また最近身内にご不幸のあった方々にもお届けできるものだからでしょう。キリスト教のみならず、ユダヤ教徒や旧正月を祝う中国系の人々などが混在するアメリカではかなり前からありました。世界の誰にでも通用するということから、グローバル化の下で広がっているのでしょうが、若干味気ないのも事実です。世界に普遍的に妥当し、便利な基準(文明)を求めれば求めるほど、地方独自の文化・伝統の味が出せないというジレンマに直面するということでしょうか。

今月のテーマ:アジアとは何か

<小泉総理の私的懇談会>

 昨年12月7日、総理官邸において、「文化外交の推進に関する懇談会」第一回会合が開かれました。総理の下で文化交流を論ずる有識者懇談会としては、竹下内閣(1988-89年)と細川・羽田内閣(1993-94年)に次ぐものです。憲法や教育基本法の改正など、国家の大計を論じていく今、改めて日本国民にとって文化のもつ意味、それが外交面で果たす役割を論じ、国民と共に考えていくのは時宜を得ていると思います。青木保教授を座長とし、総理のご指示で外国籍の方々を含む学界、文化・芸術、スポーツ分野で活躍中の多彩な人材に加わっていただきました。春に報告書が出される予定です。
 (官邸ホームページhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/bunka/ 参照)

<東アジア共同体構想>

 今年の12月、マレーシアで初の「東アジア・サミット」が開催されます。EUやNAFTAの拡大・深化が進む中、首脳たちが最近急速に浮上している東アジア共同体構想についてどのような話をするか、世界の関心も高まりつつあります。東アジアの範囲は未定ですが、仮にASEANと日中韓の13カ国としても、その歴史、文化、宗教、政治体制、経済の発展段階いずれをとっても極めて多様です。東アジアの文化的アイデンティティーが不明確なまま、EUのように、貿易や金融などの機能を中心として「共同体」がつくれるのか否かには大きな疑問があります。

<アジアとは何か>

 そもそもアジアとは一体何なのでしょうか。2つの問題があるような気がします。ひとつは、アジアという概念がヨーロッパ人によって作られたものであるとともに、その対象範囲が変化してきたことです。「アジア」の語源は、アッシリアの碑文にあるasu(日いづる所)が転訛してassiaになり、それがギリシャに伝わってEuropaに対するAsiaになった由です。しかし今使われている地理的意味でのアジアという語はマルコ・ポーロの『東方見聞録』(13世紀)にはなく、16世紀前半になって初めて地図に現れるとのことです。

 したがって「オリエント」と同様、「アジア」は西欧人が自分以外の他者としての文明を指したもので、一種の「負」の表象(非合理的、神秘的、停滞など)であったとみることもできます。もちろんそうしたステレオタイプに与しない知識人もいました。例えばデカルトは、「おそらくペルシャ人のなかにも支那人のなかにも、フランス人に劣らぬ賢者が存在するであろう」と述べ、パスカルは、「貴下は『支那は欠く』と主張される。しかしながら『支那は明瞭を欠くかも知れないが、発見すべき明瞭さが存在している。この明瞭さを発見し給え』と御答えする」と述べています(後藤末雄『中国思想のフランス西漸』)。しかし欧米にとってアジアは基本的に「他者」でした。そしてアジア人にとっては、西欧からの侵略の危機に立たされるまでは、自分が「アジア」という意識はなかったはずです。

 しかし歴史的経緯や、諸々の学説はともかく、最近アジア人が自らを単に「西欧ではないもの」という否定的なものとしてではなく、主体的な存在として認識し、漠然としてはいるもののアジア的価値観なるものを語るようになってきたのではないでしょうか。ではアジア人が共有する価値とはどのようなものでしょうか。

<鈴木大拙と岡倉天心>

 前号で、西洋思想の特徴として鈴木大拙が「二元性」を挙げているのを引用しました。これに対して彼は東洋の思想は二つに分かれる前の「渾然として一(いつ)」の状態にあると言っています。荘子の「混沌」に当たるそうです(『東洋的な見方』)。

 「アジアは一つ」と述べる岡倉天心は、「究極普遍的なるものを求める愛」が「すべてのアジア民族に共通の思想的遺伝であり、かれらをして世界のすべての大宗教を生み出すことを得させ、また、特殊に留意し、人生の目的ではなくして手段をさがし出すことを好む地中海やバルト海沿岸の諸民族からかれらを区別するところのものである」と言います(『東洋の理想』)。
 しかしこれらはいずれも哲学的、抽象的過ぎてよく分かりません。

<アジア文化協力フォーラム>

 昨年11月中旬、香港でAsian Cultural Cooperation Forum(ACCF)の第2回会合が開かれました。東アジア各国から文化大臣クラスが参加しましたが、注目されたのは中国の孫家正文化部長が、地方の省の文化担当責任者22人を率いて参加したこと、そしてそこでのテーマのひとつが、来るべき東アジア共同体形成を念頭に置いた、アジア共通の価値観の再認識だったことです。そこで中国は「古き国際的文化秩序」に代わる「公平な、新たな文化的秩序」確立の必要性を説き、世界に貢献すべきアジアの重要な価値として、対決でなく「対話」、孤立でなく「相互作用」、反発でなく「寛容」、相互尊重、平等、調和的共生、多様性の中の一体性などを説いたのです。これが中国が考えるアジア的価値なのでしょう。

 西洋的合理主義と東洋的思想を二項対立的にとらえること自体「西洋的」の謗りを免れませんが、敢えていろいろな場で感じた両者のアプローチの違いを別添のリストに列挙してみました。左が西洋的思想、右が東洋的思想です。実際はいずれの文化にも両方の要素があり、また個人の中にも両方の要素が混在しています。それぞれの項目を両端にもつスペクトラムとすれば、西洋人は比較的左寄りで、東洋人はおしなべて右よりと言えるのではないでしょうか。アジアのアイデンティティーを考えるときの何らかのヒントになるかも知れません。

<アジアにおける日本の特殊な位置>

 アジアとは何かを考えるときのもうひとつの問題は、アジアの価値に対する日本人の複雑な立場です。150年前「西欧の衝撃」に直面した日本は、植民地化を免れるためのアジアの団結を説きつつ、切迫した状況の中で、結局自らを「先進的西欧」にみたて、「遅れたアジア」を支配するという構図をとることになりました。しかしそれは福沢諭吉が言ったような完全な「脱亜入欧」ではなかったのです。

 これがその後の日本人のアイデンティティーに微妙な影を落としているのではないでしょうか。孫文が神戸における講演で話した有名な言葉「日本は世界文化に対して西方の覇道の番犬となるか、はたまた、東方王道の干城となると欲するか」(1924年)は、今でも重い問いかけです。そしてこれは日本人の意識調査にも現れています(下記「今月の数字」参照)。いわゆる「歴史問題」と裏腹のこの点は、日本が東アジア共同体のイニシアティヴをとっていくに当たって、十分に念頭に置かねばなりません。さらに日本の安全が米国との緊密な同盟によってこそ最も安定的に確保されているという現実もあります。

 総理の懇談会がこの問題を考える際のヒントを与えてくれることを期待します。

今月の資料

 小泉総理の下にできた「文化外交の推進に関する懇談会(PDF)」の説明文書を同封します。

今月の引用
「アラビアの騎士道、ペルシアの詩歌、中国の倫理、インドの思想は、すべて単一の古代アジアの平和を物語り、その平和の中に一つの共通の生活が生い育ち、ちがった地域にちがった特色のある花を咲かせてはいるが、どこにも明確不動の分解線を引くことはできないのである。・・・しかしながら、この複雑の中なる統一をとくに明白に実現することは、日本の偉大なる特権であった。・・・日本はアジア文明の博物館となっている。」(岡倉天心「東洋の理想」講談社学術文庫p. 19, 20, 22)
今月の数字

 アジアの主要国での世論調査の結果です。多くのアジア諸国が、アジアとくに中華系の国に親しみを抱いているのに対し、日本人にとって最も親しみがもてる国はアメリカとイギリスなのです。

 親しみを感じる国・地域(電通「価値観国際比較調査」1996年より)

  日本 中国 タイ シンガポール インドネシア インド
1位 アメリカ 香港 中国 マレーシア マレーシア 日本
2位 イギリス シンガポール フィリピン 香港 日本 シンガポール
3位 中国 台湾 マレーシア インドネシア シンガポール アメリカ


今月のクイズ

: 今年(2005年)はある国との外交関係を記念する文化行事を行います。それは次のどれでしょうか?
(1)日米和親条約締結150周年 (2)日中国交正常化35周年 (3)日韓国交正常化40周年 (4)日露戦争終結100周年 (5)日英同盟締結100周年

前回のクイズ(尺八の指孔の数はいくつでしょうか?)の正解は、表に4つ、裏に1つの計5つです。



後記

このニュース・レターは、広報文化交流部長が仕事を通じて感じたことを、個人の資格と責任で書いたものであり、外務省の公式見解ではありません。ご意見やコメントは以下のいずれかにお寄せください。

郵便:100-8919 千代田区霞ヶ関2-2-1 外務省広報文化交流部総合計画課
Fax:03-5501-8126
E-mail:seiichi.kondo@mofa.go.jp


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