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外務省員の声

文化外交最前線
―第7号―

2004年8月27日
近藤誠一  
はじめに

 小夜(さよ)には小夜のしらべあり
 朝には朝の音(ね)もあれど
 星の光の糸の緒(を)に
 あしたの琴は静(しづか)なり      島崎藤村 「明星」『若菜集』より


今月のテーマ:音の世界―その1

<東大寺での法要>

 「琵琶には楽譜があるのですか?」 私はまだ冷めやらぬ感動の中で聞きました。8月14日夜、奈良の東大寺大仏殿で行われた「イラク戦争万国犠牲者追悼琵琶楽法要」が終わった直後のことです。イラクで亡くなったすべての国籍の人々を弔った後、土佐琵琶が「壇ノ浦」と「花吹雪(敦盛)」を浪々と演じました。

 「花吹雪」は、一の谷の合戦で熊谷直実が、いともた易く組み敷いた敦盛の兜をとって首を取ろうとしたとき、そのあまりに幼く美しい公達の姿に、「あしたに我子を死なしめて、夕べ人の子の首をかく」武士の因果を嘆き、戦のあと出家して、敦盛をはじめ源平合戦で死んだものすべてを弔い続けたという話です。黒を基調としながら艶やかな和服姿の奏者の黒田月水さんは微笑みながら「楽譜は無いんです」と答えてくれました。

<西洋音楽の普遍性>

 初対面の琵琶奏者にこのような若干不躾な質問をしたのには訳があります。西洋音楽が世界に広まった理由はその合理性にあること、そしてその合理性は、12平均律の採用と、それを正確に表現し伝達する手段として考え出した五線譜による記譜法にある、とマックス・ウエーバーが言っていることが頭にあったからです。

 12平均律とは、1オクターブ(人間の耳に最も心地よい響きをもつ和音で、音の振動比が1:2のもの)をド、レ、ミ・・・シの7音階と、ド#のように全音の間にある半音5つを足した計12の音程に、完全に等分しています。ひとつひとつの半音は1/2の12乗根の振動比となります。
 古来各民族が音楽を合理化しようと努力しましたが、結局西洋が進めた平均律は、転調や移調が自由に行え、また西欧音楽の特徴である「和音」の自由な進行が円滑に行えます。例えば私の好きなベートーベンのピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」はニ短調で始まる第一楽章から第二楽章は変ロ長調に転調します。そこに何の問題(音程のズレによる不快な和音など)も生じません。

 12平均律は、すべての長調・短調が演奏できるという、極めて実用的なシステムなのです。バッハは「平均律クラビーア曲集」でそれを実証しました。そして五線譜のおかげですべての音の音程と長さが正確に表現され、誰でもその譜を見るだけで音楽を再現できるのです。だからこそウエーバーは、「近代の音楽芸術作品は、われわれの楽譜という手段がなければ、生産することも伝承することも再生することもできない、またそれなしには、何処にも、またどのようにしても、そもそも存在すること自体が不可能である」と言っているのです(ウエーバー『音楽社会学』創文社p.173)。

 西洋音楽が世界に普及し、いまや誰でも西洋音楽を演奏することができ、どこへ行っても西洋音楽を聞くことができるのは、すなわち西洋音楽の「普遍性」とでも呼ぶべき強さの理由は、ここにあるのです。

<文明開化と西洋音楽>

 それでは、日本音楽が5音階、すなわち1オクターブの中に例えばド、レ、ミ、ソ、ラ(琉球音楽の場合は、ド、ミ、ファ、ソ、シ)の5つの音程しかもたず、和音でなく旋律中心で、また誰もが初めての曲をひとりでも簡単に習える楽譜をもたないのは、発達が遅れた、ローカルなものに過ぎないということなのでしょうか?

 そこで、「文明開化」に励んだ江戸末期・明治初期の先祖が、西洋科学技術同様「普遍性」のある西洋音楽をどのように受け止めたのかを見てみます。1860年の遣米使節(咸臨丸)は、米国船上で軍楽隊の歓迎を受け、ハワイでピアノと歌を聴いたという点では、本物の西洋音楽を最初に聴いた日本人と言えるでしょう。彼らの印象は、「音声和少ナク極メテ野鄙ナリ、聞クニ足ラズ」、「犬のほゆるか如し」「大にこっけいあり」など芳しくなかったようです(『遣米日記』など。中村浩介『西洋の音、日本の耳』より間接引用。以後「<中村>より」と記します)。

 しかし岩倉遣欧使節になると次第に理解が進み、ボストンの音楽会を「伶人律ヲ調ス、響キ行雲を?(とど)メ瀏(りゅう)リョウタリ、万余ノ謡人相和シ、窈窕(ようちょう)トシテ白雲ヲ奏ス・・」と記しています(久米邦武編『米欧回覧実記』16巻)。

<明治の文豪たち>

 明治の文豪も、咸臨丸の使節同様、最初は西洋音楽の和声や器楽に戸惑ったものの、耳が慣れるに従ってかなりの速さでそれを評価したということができそうです。例えばあの永井荷風も「西洋の音楽は単音の日本音楽のみを聞いて居た耳では騒々しいばかりで、少しも美感を誘わなかった。・・・流行唄とか・・・卑属の音楽の方が却って面白かった。然しさう言う音楽は・・・すぐ飽きて来て、それ以上のものを要求するやうになった。それで私は今度は純粋のオペラの方へ赴いた」と述べています(『音楽雑談』 瀧井敬子「漱石が聴いたベートーベン」より間接引用)。

 そして上田敏は「・・・よく考へて見ると、此の感動力は、全く和声の妙から来てゐる」(『周』)、『異った音が幾つか集って一つの音調を生ずるのでなくては音楽にも妙はない』(『滞欧所感』)など西洋音楽の和声を完全に評価しています。彼にとってそれは文明一般にも妥当します。彼は日本人をメロディー、西洋人をハーモニーと形容した上で、「眞の文明には統一と調和とがあって、音楽の和聲に聞くやうな綜合の美が無ければならない筈であるのに。」(『文化』)と述べているからです(このパラの引用はすべて<中村>より)。

 島崎藤村の育った環境は西洋音楽とは無縁でしたが、明治学院に入った頃から次第に関心を持ち始め、小説『春』では、上田敏をモデルにした人物、福富にベートーベンのバイオリン曲を聞いたときの感動を述べさせています。そして彼自身「音楽の美なるものは抱月子の優麗なる筆を以てしても猶其妙味を十二分に説儘する能はざるものなるべし・・・」(『村居謾筆』<中村>より)とまで述べています。

<西洋嫌いも音楽には一目>

 しかも、「我々は西洋の文芸に囚われんがために、これを研究するのではない」と学生に言わせて日本の皮相な「近代」を嘆く夏目漱石(『三四郎』より)や、物 質文明の空虚さがニーチェなどを生んだと述べる石川啄木など、西欧文明を手放しでは評価していなかった文豪も、その音楽には魅せられたようです。例えば漱石の『野分』においては、上野の奏楽堂で、コンサート好きの中野は「声にも色があると嬉しく感じ」、また生まれて初めて西洋音楽を聴く高柳君はそこに「自由」や「心の豊かさ」を感じ、「遥かの向うから熟柿の様な色の暖かい太陽が、のっと上ってくる心持ち」をもちます。

 冒頭の藤村の詩も、音楽に溢れています。西洋文明の「普遍性」は音楽に極まっているということでしょうか。それなら何故琵琶などの日本音楽はいまだに五線譜を採用しないのでしょうか?この点は次回までにもっと勉強することに致します。



今月の資料

 「花吹雪(敦盛)」の琵琶の詩を、東大寺での法要のプログラムから複写させていただきました。

今月の引用

音楽教育の重要性は、西洋近代音楽成立以前の古くから唱えられていました。
「音楽・文芸による教育は、決定的に重要なのではないか。なぜならば、リズムと調べというものは、何にもまして魂の内奥へと深くしみこんで行き、何にもまして力づよく魂をつかむものなのであって、人が正しく育てられる場合には、気品ある優美さをもたらしてその人を気品ある人間に形づくり、そうでない場合には反対の人間にするのだから」 プラトン『国家』第三巻12章)
今月の数字

 海外に留学している日本人の学生は、国内の大学生に比べて、就職先選択の条件として会社の業績よりも自分のキャリアを重んじる傾向が強いという結果が出ています(株式会社リクルートの「海外留学生 就職活動調査2004)より)。
  <海外留学生> <国内大学生>
自分の経験・専門が生かせる 61.8% 30.7%
仕事の成果や実績が正当に評価される 52.1% 33.6%
順調に業績を伸ばしている 28.9% 41.4%
企業そのものや商品がブランドとして
広く認知されている
22.9% 35.4%
今月のクイズ

 今回のクイズは、宇宙飛行士毛利衛さん(日本科学未来館館長)が8月18日に日中韓の子供相手に行った講演から拝借したものです。

: 宇宙ロケットを打ち上げる際、発射の直前に発射台に大量の水蒸気を噴射します。その主な目的は次のうちどれでしょうか?

(1)発射音の振動で発射台が破壊されるのを防ぐため、
(2)発射の際の熱で発射台が溶けるのを防ぐため、
(3)噴射される熱気を吸収してまわりに広がるのを防ぐため、
(4)発射の反動を吸収して、地響きを和らげるため   (回答は次回)

 前回のクイズ世界遺産に既に登録されているただ一つの日本のお城は?)の答は、「5.姫路城」です。

 お詫び:第5号で梅棹忠夫先生のことを梅竿と誤記しました。ワープロが・・・という言い訳は致しません。大変失礼いたしました。

後記

このニュース・レターは、広報文化交流部長が仕事を通じて感じたことを、個人の資格と責任で書いたものであり、外務省の公式見解ではありません。ご意見やコメントは以下のいずれかにお寄せください。

郵便:100-8919 千代田区霞ヶ関2-2-1 外務省広報文化交流部総合計画課
Fax:03-5501-8126
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