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外務省員の声

文化外交最前線
―第5号―

2004年7月25日
近藤誠一  
はじめに

 「第3号」でイラクへのスポーツ協力を取り上げましたが、いよいよアテネ・オリンピックに出場する柔道のハディール・ラーゼム選手とコーチが外務省招待で来日しました。7日まで講道館などで合宿をします。アテネでイラクの旗を揚げるよう応援しましょう。

<お詫びと訂正:前号で、京都の金戒光明寺を浄土宗総本山と書きましたが、大本山の間違いでした>

今月のテーマ:普遍的価値と文化の多様性

<存在するものにはすべて価値がある>

 日・ASEAN交流年であった昨年、ASEAN10カ国合同による舞踊劇「ラーマーヤナ」を東京で観ました。その時「この世にあるものには、すべて存在の意味がある」という台詞に気づきました。一昨年ロンドンで娘をミュージカル「ライオン・キング」に連れて行った時のことを思い出したからです。生まれたばかりで好奇心旺盛なシンバに父親の王ムファサが世の中の様々な現象を説明している時、黒い不気味な鳥が空を飛んでいきます。怯えるシンバに、父は「この世にあるものには、すべて存在する意味があるのだよ」と教えました。

 何気ない言葉ですが、いつの間にか自分のものになってしまいました。例えば家の中に蜘蛛がいて娘が怖がる時は、殺さず、そっとつまんで外に出して言います。「この世に存在するものには、皆それなりの意味があるのだよ」と。

<ダーウインの進化論と今西錦司の棲み分け論>

 ここで思い起すのが、進化論と棲み分け論の論争です。西欧の近代文明に影響を与えた理論のひとつに、ダーウインの進化論(「種の起源」1859年)があると思います。競争により適者が生き残ることで種全体が進化するという理論は、進歩史観につながりました。進歩は一本道であるので、現状の違いは発展段階の違いである。その中で西欧文明こそリベラル・デモクラシーという普遍的価値を体現し、先頭に立って世界を好ましい方向に引っ張っていくという信念を生みました。

 このように人類の思想全体に大きな影響を及ぼした進化論に挑戦したのが、今西錦司の「棲み分け」論(1941年)と、梅竿忠夫の『文明の生態史観』(1957年)です。学問的正確さを捨象して要約すれば、これらは、競争でなく共存によっても進化はするし、また進化は地域ごとに主体と環境の相互作用によって同時並行的に起こる(即ち進化は一本道ではない)と主張しているのです。

<西欧近代主義と非西欧の抵抗>

 進化か共生かは、単なる学問上の論争ではなく、現実の国際関係でも大きなテーマです。生存競争による進化論を信じる西欧の普遍思想は、時として犠牲を厭わぬ使命感、時として相手の都合を無視した一方主義を生みます。好むと好まざるとを問わず、この力が過去300年の世界の歴史を作ってきました。

 これには、植民地主義の被害者たる途上国に根強い抵抗があります。それは最近「文化の多様性」保護の主張という形をとっています。個々の文化には固有の価値があって優劣はなく、その共存は社会のダイナミズムの源泉として尊重されるべきであるという議論です。70年代に移民が急増するカナダや豪州で、国家統合の維持という政治目的から登場した「多文化主義」と同じ概念です。少数民族問題など微妙な国内問題とも絡みますが、最近はグローバル化の加速とアメリカの一極支配が進む中で、自国の文化的アイデンティティーに危機を感じている諸国が使う議論です。

 ユネスコが現在文化の多様性保護に関する条約を作ろうとしている背景には、こうした途上国の危機感と、それを利用するフランスの政治的考慮があります。グローバル化の下での競争が今後も続くことを考えれば、地球上の誰もが自分の文化に誇りとアイデンティティーをもって生きていけるために、文化の多様性の保護が益々重要になることには疑いありません。

 こうした状況の下では、「棲み分け」論や、「ライオン・キング」や「ラーマーヤナ」の「存在するものは皆意味がある」という台詞は、多くの人々の共感を得られるのではないでしょうか。「この世の文化は、すべて存在する意味がある、だから保護すべきだ」ということを条約にするのは当然かも知れません。

<文化の多様性と相対主義の罠>

 しかし多様性を保護することによって、才能や努力が十分報われず、怠惰な者が救われる保護主義を助長し、社会の活力が失われるという「相対主義の罠」の危険を避けることも必要です。自由競争、民主主義を普遍的価値として信ずるアメリカが、多様性条約に難色を示しているのももっともです。

<近代と普遍性>

 ただもし米国主導の西欧近代合理主義に対して、文化の多様性という概念で挑戦がなされているとしたら、しかも近代合理主義の生みの親であるデカルトの国フランスがそれを主導しているとしたら、これまで西欧が信じてきた近代主義の「普遍的価値」とは一体何だったのでしょうか?近代主義という中立的でかつ普遍的な価値は依然存在するが、ヨーロッパがそれを植民地主義の正当化に使い、またアメリカという特殊な文化がそれに付着して輸出され、あるいはアメリカの企業がそこに自らの利益を刷り込み、両者を一体として押し付けるから、結果として近代主義そのものへの抵抗が生まれているのでしょうか?それとも近代主義といわれてきたものは所詮普遍的なものではなく、西欧というひとつの文化の強者の論理に過ぎなかった(弱者になった途端にフランスが反発し始めた)のでしょうか?

 近代合理主義は18世紀の産業革命を経て植民地主義、そして奴隷制度をもたらしましたが、その拠って立つ自由主義、普遍主義の論理故に自らそれらを廃止しました。娘が通っていたパリの英国学校の教科書には、英国が自主的に奴隷制廃止のイニシアティヴをとったことを誇らしげに書いてありました。アメリカは60年代の公民権運動など、多文化主義の道を進めつつ、スーパー・パワーとして益々普遍主義を前面に出しています。国内の多様性こそがアメリカの理念に普遍性を与え、その普遍性がアメリカの政策に正統性を与えるというのがこれまでの説明でした。

<『分断されるアメリカ』>

 しかしそのアメリカ自身が、ヒスパニック系国民の急増に「アイデンティティー」の危機を感じていることを鋭く指摘し、普遍的な国家たることを止めて、アングロ・プロテスタントに徹しようというハンティントンの問題提起『分断されるアメリカ』は、衝撃的とも言えるものです。70年代のカナダや豪州の採ったマルチカルチュラリズム政策に逆行するものとさえ言えます。

 これは上述のように、アメリカニズムが、近代の普遍的価値を実現しつつも、それに固有の文化を加えたものなので、その部分に参加しないもの(ヒスパニック)は排除しても良いということなのか、あるいは冷戦が終わり、リベラル・デモクラシーが勝利した途端に「歴史」が終わって普遍性を失い、アメリカはアングロ・プロテスタントという、ひとつの文明に過ぎなくなったので、多様性のひとつとしてそれを防衛しなければならないということなのでしょうか。文化多様性条約をめぐる今後の交渉を左右しうる疑問です。

今月の資料
1993年に発行した「生物多様性条約」は、文化多様性条約を考える上で興味ある材料を提供してくれます。そのテキストの一部(前文、第一条、第八条)を同封します。第八条(h)は、生態系や種の保存のために、外部からの侵入に対しかなり断固とした措置を認めています。グローバル化で消滅の危機に瀕している文化を保護するためにも同様の措置(マクドナルドの追放)が許されるのでしょうか?
「生物多様性条約」は電子データがないため掲載できません。ご了承下さい。)
今月の引用
フランシス・フクヤマも進歩の「一本道」論者です。
「人類は、さまざまな美しい花を咲かせる無数の芽というより、むしろ一本の道をひと続きになって走る幌馬車の長い隊列に似てくるだろう」 (『歴史の終わり』三笠書房(下)p.222)。
今月の数字
外務省が毎年米国で行っている対日世論調査の最新版(平成16年2-4月に実施)の結果です。日本が信頼できる同盟国であるとの回答が極めて高いレベルとなりました。以下が「信頼できる」と答えた率のトレンドです(過去の下記グラフ参照)。

  99年 2000年 01年 02年 03年 04年
一般 61% 60% 61% 67% 67% 68%
有識者 87% 87% 85% 91% 91% 89%
日本は米国の信頼できる友邦か否か(「信頼できる」と答えた割合)

今月のクイズ

: 上記の米国における対日世論調査で、今回初めて、日本が他の国と比べてどの程度米国と価値観を共有していると見ているかを問いました。では、主要5カ国(日、英、独、仏、中国)の順位はどうだったでしょうか。
(正解は次号)

前回のクイズ(ユネスコの無形文化遺産傑作として、「端午の節句」を登録すべく競い合っているとされる2つの国はどこか)の答は、韓国と中国です。

後記

このニュース・レターは、文化交流部長が仕事を通じて感じたことを、個人の資格と責任で書いたものであり、外務省の公式見解ではありません。ご意見やコメントは以下のいずれかにお寄せください。

郵便:100-8919 千代田区霞ヶ関2-2-1 外務省広報文化交流部総合計画課
Fax:03-5501-8126
E-mail:seiichi.kondo@mofa.go.jp


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