外務省 English リンクページ よくある質問集 検索 サイトマップ
外務省案内 渡航関連情報 各国・地域情勢 外交政策 ODA
会談・訪問 報道・広報 キッズ外務省 資料・公開情報 各種手続き
トップページ 報道・広報 外務省員の声
外務省員の声

文化外交最前線
―第3号―

2004年4月29日
近藤誠一  
はじめに

 4年ぶりに日本で桜を鑑賞し、心打たれました。日本人は何故これほどまでに桜に惹かれるのか・・・無常観、もののあはれ、美意識・・・などと考えながら、その答えは分からぬままに、ただ桜を愛せることそのものに幸せを感じました。

今月のテーマ:日本に残る「目に見えない価値」

<オリンピックで国旗を>

 先日外務省はイラクのオリンピック委員会会長であるアル・サマライ氏を招待しました。日本オリンピック委員会(JOC)と協力して、イラクがアテネ・オリンピックなど国際競技で良い成績を挙げることができるよう、いろいろな支援をするためです。イラクが参加を目指す重量挙げや陸上競技の用具(バーベルや槍等)を贈ったり、柔道やレスリングの選手たちが本番前に安心して練習ができるよう日本での強化合宿に招いたりすることが合意されました。アテネでの入場式の制服も日本製となります。

 戦前のベルリン・オリンピック(1936年)で前畑が、戦後のロス・アンゼルス全米選手権(1949年)で古橋が日の丸をメインポールに揚げたことが、敗戦に打ちひしがれていた日本国民をどんなに勇気づけたかを思い起こし、是非国家再建の苦しみにあえぐイラク国民に、アテネの空にはためくイラク国旗を見てほしいとの願いからです。水や電力、道路などのインフラも必要でしょうが、国を造るのは所詮イラク人たちです。彼らの勇気を鼓舞し、忍耐のための希望を与えることも同様に重要なのです。

<武道がひとに伝えるもの>

 アル・サマライ氏には、イラクのオリンピック委員会事務局長で空手6段のオディシオ氏が同行しました。彼が小泉総理に言ったことが印象的でした。世界で行われている空手はすっかり欧米のスポーツ化してしまったが、イラクでは日本古来の正統な空手を教えている、それは勝つことを目的とするのではなく、精神を磨き、お互いを尊重することを目的とするものであるからと。それを受けてアル・サマライ氏は述べました。それこそ宗派や肌の色を異にするイラクの若者たちが再建のために団結する上で何より必要なものであると。

 それより少し前、やはり外務省がアフガニスタンやコスタリカなど世界の若き柔道家10人ほどを招待したとき、彼らが口々に言ったのは、柔道が教えてくれるものは欧米のスポーツとは違う、それは勝つことではなく、何かに自分をコミットすることであり、哲学であり、人格形成であり、他人の尊重であり、平和の精神を磨くものであるということでした。そしてその場にいたロス五輪金メダリストの山下泰裕氏が、ジャック・ロゲIOC会長(元ベルギーのヨットのオリンピック代表)の言葉を紹介してくれました。それは、人間は神ではない、だから残念ながら間違いを犯すものだ、スポーツでも然りで審判も間違いを犯す、だから柔道では間違いを犯した審判にも敬意と尊敬を失わない、そこがサッカーなど欧米のスポーツと違うのだ、というものでした。競争に勝つことが目的化している欧米のスポーツと日本の武道の違いは、練習と鍛錬を通していかなる国民にも伝わることを示しているのです。

<寺や古典芸能が残しているもの>

 さる中国の文人から、京都の東福寺(1255年建立)を訪れて感動した話を聞きました。紅葉で有名なこの禅寺では、聖一国師による開山以来、同師の中国での先師無準の生誕記念日を祝っているのです。宋時代に全盛期を迎えた禅宗は、元の征服によって滅亡しましたが、それは日本に伝わり、今日まで発展し続けているということなのです。

 能に『経正』という、琵琶の名手であった平家の公達の話があります。一の谷の合戦で自刃して果てたのを悼んで、京都の仁和寺で供養が行われます。そこへ彼が愛用していた「青山」という琵琶が供えてあるのを知った経正の亡霊が現れ、懐かしみながらそれを弾き、夜遊の舞を舞いますが、戦場で戦ったものの宿命として修羅道の苦しみが襲いかかります。こうした自分の姿を恥じた経正は、灯を消し、闇に消えます。

 修羅道といえば、もうひとつの能『八島』を思い起こします。旅の僧の前に義経の亡霊が現れ、八島の合戦で落とした弓を拾うべく海中に馬で乗り入れたエピソードを物語っているうちに修羅の時刻が訪れます。義経は再び修羅の苦患に喘ぎ、能登の教経の軍勢との壮絶な戦を演じるうちに春の夜が明けます。「敵と見えしは群れゐる鴎、鬨の声と聞えしは、浦風」の音へと変わります。

 戦乱の時代にも文化を愛したものがいた。その者も、そして欧米ならば勝利のヒーローとして崇められる義経もまた勝利したからこそ無常感を味わい、戦にかかわったものとしてともに修羅に落ちて苦しみ続けるのです。武士は血に飢えた非人道的な戦士という欧米のイメージを吹き飛ばす物語です。人を斬らねばならぬ武士ゆえの苦悩が600年間語り伝えられているのです。

<アニメの魅力>

 年の初めに大阪で何人かのJETのひとたちに会いました。あるアメリカ人は宮崎駿さんのアニメ「千と千尋の神隠し」や「もののけ姫」の奥に繊細な美意識と自然観、複雑で深いストーリー性を感じて魅入られた、それが訪日の契機となったと述べました。

<言葉や画像は目に見えぬ真実を伝える触媒に過ぎない>

 ひとは目に見えないものの価値を理解するのは得意ではありません。物質的豊かさと刹那的享楽に世の中の関心が集まり、テレビやインターネットがマーケットの動きやディスカウント情報を目に見える数字として伝える今は特にそうです。いつの間にかひとは自分のメッセージを伝えるため、1秒でも長くひとの目を釘付けにすることばかりに工夫を凝らし、カネと暴力とセックスに溢れる画像やプリントに依存するようになりました。目に見えるものですべてを語ろうとしています。しかし所詮目に見えるもので表現できることは少ないのです。そのことに気づかぬひとが増えています。

 日本の武道は制限された体の動きの奥に目に見えぬメッセージをもっています。東福寺の建物とささやかな行事は750年の歴史を物語ります。能や狂言の極めて限定的な動きとストーリーには、無限に近いメッセージが秘められています。目や耳を圧倒するものより、わずかな「ことば」や「しぐさ」、「音」、「香り」によって初めて目に見えぬものの価値が伝わるのです。さくらや蜻蛉のはかない命が無常感を伝えてくれるように。

 それが日本文化の真髄であり、それは今でも健在なのです。中国の文人、イラクの空手家、コスタリカの柔道家、柔道を知るベルギー人、そしてアニメを見るアメリカ人がそれを教えてくれたのです。

<日本外交に幅と厚みを>

 これからの日本外交では、こうした文化・スポーツ分野での協力を強化していきたいと思います。それはグローバル化の下でもてる資源を欧米流の経済開発と改革に集中させざるを得ず、その結果アイデンティティー喪失のジレンマに苦しんでいる途上国のひとびとの心に勇気と希望を与えるからです。そして文化・スポーツを通して伝えられる「目に見えぬ価値」を日本はまだふんだんにもっているからです。アニメなどの現代文化は新しい技術を駆使することで、その新たな発現手段を見つけたのです。

 アフガニスタンのカブール大学の学長は、日本は現代の唯一の希望である(Japan is todayユs only hope)と述べました。文化は日本外交に幅と厚みを与えてくれるのです。

今月の資料

 最近我が国がイラクに対して行った文化・教育・スポーツ面での支援のリストを同封します。そしてそれを行う手段のひとつである文化無償協力とはどのようなものかについての資料も、参考にして頂ければ幸いです。

今月の引用

 目に見える経済成長に心を奪われることへの警句は、大昔からあります。
 「富がわれわれの求める善でないことは明らかであろう。富は何かのために役立つもの、それ以外のもののために存するものでしかない。」(アリストテレス『ニコマコス倫理学』岩波文庫p.23)
今月の数字

日本への留学生の数は昨年目標の10万人を超えました。その国別内訳です。

中   国 70,814人 (64.7%)
韓   国 15,871人 (14.5%)
台   湾 4,235人 (3.9%)
マレーシア 2,002人 (1.8%)
タ   イ 1,641人 (1.5%)
そ の 他 14,945人 (13.6%)
109,508人 (100.0%)


今月のクイズ

: 前回のクイズでは、世界(日本国外)で日本語を学ぶひとの数を聞きました。正解はe. 210-250万人です。では、日本語を学ぶひとが多い国はどこでしょうか?上位5カ国を挙げて下さい。
(正解は次号)

後記

このニュース・レターは、文化交流部長が仕事を通じて感じたことを、個人の資格と責任で書いたものであり、外務省の公式見解ではありません。なお本ニュース・レターは外務省ホーム・ページにも掲載されています。http://www.mofa.go.jp/mofaj/ ご意見やコメントは以下のいずれかにお寄せ下さい。

郵便:100-8919 千代田区霞ヶ関2-2-1 外務省広報文化交流部総合計画課
Fax:03-5501-8126
E-mail:seiichi.kondo@mofa.go.jp


目次


外務省案内 渡航関連情報 各国・地域情勢 外交政策 ODA
会談・訪問 報道・広報 キッズ外務省 資料・公開情報 各種手続き
外務省