外務省 English リンクページ よくある質問集 検索 サイトマップ
外務省案内 渡航関連情報 各国・地域情勢 外交政策 ODA
会談・訪問 報道・広報 キッズ外務省 資料・公開情報 各種手続き
トップページ 報道・広報 外務省員の声
外務省員の声

文化外交最前線
―第2号―

2004年3月20日
はじめに

 先々月試みにお送りした「文化外交最前線 第1号」に対しては、外務省ウェブサイトをご覧頂いた方々からのメールを含め、予想以上に多くの方からご意見を頂きました。 そのうちのごく少数の方にしかご返事できませんでしたので、この場を借りて御礼とお詫びを申し上げます。未熟で不完全なものでも、ともかく皆様に投げかけて行くことで、貴重なご意見を誘発し、勉強になることが分かり、続けていく勇気が出ました。

今月のテーマ:東京を唐の長安に

<弘法大師にインスピレーションを与えた長安>

 少し古い話から始めましょう。13世紀の説話集「古今著聞集」に、嵯峨天皇と空海(弘法大師)の話があります。ある日嵯峨天皇が素晴らしい書を見て、書道のライバルでもあった空海を呼び、誰の手になるものか聞きました。空海は、それは自分がしたためたものであると答えました。嵯峨天皇が「そんなはずはない、お前の腕は知っておる、お前にこのように素晴らしい書が書けるわけがない」と述べたところ、空海はその書の軸をはずし、そこに空海が長安の青龍寺というお寺で書いたと記してあるのを見せて、いぶかる嵯峨天皇に対して申しました。「唐という国は大国なので、相応の勢いがあり、こうした書が書けるが、日本は小国なのでそれなりのものしかできないのです」。天皇は大いに恥じいったということです。当時の唐の都長安には、世界中の人々にインスピレーションを与える文化の「力」があったのです。空海もそれに刺激されて立派な創作を行い、それによって外国人としてその魅力の増大に貢献もしたのです。

<アート・マネジメント能力の養成を>

 東京は当時の大国である唐の都、長安のように、世界の若者がインスピレーションを求めてやってくるような、魅力ある都でしょうか?そうでないなら、経済力、文化力からしてその資格があるはずではないでしょうか?

 日本には誰もが認める、深く質の高い伝統文化が維持されているばかりか、前号で述べたように、そのクールな現代文化は世界に飛び出し、若者を魅了しています。日本には素晴らしい才能ある人が溢れています。素晴らしい劇場や音楽会場も、展示やイベントのためのホールなどのいわゆる「ハコ」もあります。バブル経済の遺産でしょう。しかしその日本には爆発的な文化活動が生まれていません。文化の才能が社会に十分生かされていません。

 「才能」と「ハコ」がうまくつながっていないのではないでしょうか。一流のシェフとレストランの建物だけでは市民が良い料理を楽しむことはできません。文化と社会をつなげるプロデューサー、キュレーター、ディレクターたちが絶対的に不足しているように思われます。文化を社会に統合する、いわゆるアート・マネジメントが乏しいのです。そもそもこうした職種や概念をカタカナでしか表せないことが象徴的です。

 ダニエル・ベルが言っている様に、「現在の資本主義には、道徳的と言えないまでも、文化的な正当性がなくなってしまった」(『資本主義の文化的矛盾』講談社学術文庫(上)p58)こともあるでしょう。しかし他ならぬ資本主義の権化であるイギリスやアメリカで、このアート・マネジメントという概念が発達したことを想起しなければなりません。

 戦後の経済成長偏重政策のツケでしょうか?目に見え、経済効果のある「ハコ」をつくればそれで済むとの発想があったのではないでしょうか。政府や自治体が「ハコ」だけでなく、才能の支援とア一トマネジメントにもっと金を使い(もちろん中身に口は出さず)、財界や大学、NPOを含む社会がそれを支持することにより、才能がイベントとして花咲き、国民の日常生活を豊かにするという体制が必要だと思います

<「熱狂の日々」(「クラシック音楽ばんざい」)>

 この観点で、フランスの街ナントでここ10年近く行われているLa Folle Journeeという音楽祭は興味深い読みです。3日間に一カ所の複数の劇場で2-300もの大小のクラシック演奏会(1回45分程度)を開くというもので、市民が安いチケットで気軽にクラシックを楽しめるばかりでなく、そこに参加する1、200人のアーチストや批評家と交わる場も設けられます。家族連れで参加した12万人(2003年)の観客の半数以上が「クラシックは初めて」という人たちだった由です。従来の「格調があり、チケットが高くて、ちょっと近付き難いスノッブな」クラシックというイメージを大きく変えるものです。これを来年(2005年)に日本でやろうとの企画があります(タイトルは「クラシック音楽ばんざい」)。文化を市民の日常生活の当たり前の一部にするという点で、果たして東京でどのような効果があるか注目しています。

<東京にアーチスト・イン・レジデンスを>

 しかしアーチストに日本で演奏させたり、作品を展示するだけでは十分ではありません。バブルの頃高いギャラでカラヤンを呼び、ルノアールを買ったことは、それに見合った効果を社会に与えていません。アーチストたちに日本の風土のなかで創作活動をしてもらうことが必要なのです。空海も長安で作品の展示会を開いたのではなく、他の書家と交わりながら上記の書を書いたことがポイントなのです。

 内外の頭脳、才能を結集させ、相互に刺激し合い、インスピレーションを与え合いながら、伸び伸びと自己の創作活動を行うことを可能にする拠点としての、いわゆるアーチスト・イン・レジデンスを作ってはどうでしょう。すでに山口県などの地方を含め小規模のものはあるようですが、まだ国際的注目を浴び、世界の文化人・芸術家がそこに招かれることがキャリアにとってプラスになると思うようなものはないようです。イタリアには「ベラジオ研究・会議センター」、アメリカにはニューヨーク郊外のYADOO、京都にはフランス政府が設置した「ヴィラ九条山」などがありますし、韓国もソウル郊外に大規模なアーチスト・イン・レジデンスを建設中です。

 日本人は遣唐使以来、外に出て外国の良いものを学んでくることには長けていました。しかし異文化を懐に呼びこむことは不得手でした。官民あげてこうした拠点を東京につくり、内外の一流のマネージャーにその運営を任せることで、才能ある世界の若者に注目させ、才能ある日本の若者を刺激し、付近の劇場や美術館を刺激し、その創作の成果が国民の日常生活に溶け込むことが期待できます。地域研究や文化・芸術を広く含むものが理想的です。「長安」への第一歩になるでしょう。そして経済効果も期待されるばかりか、日本国民の「元気」の素にもなるのではないでしょうか?

<新しい「ホスピタリティー」の概念が生まれている?>

 最近あるセミナーにお招きを受け、今後企業が人々の暮らしに食い込んでいくための戦略として、欧州などで「ホスピタリティー」という概念が、「サービス」とは異なる価値をもつものとして注目されてきていることを知りました。「ホスピタリティー」と「サービス」はどう違うのか、日本語の「おもてなし」、「気配り」、「思いやり」という概念との関係、対価を期待するかなど、いろいろ不明な点が多いですが、日本という国、日本人という民族が世界でより良く知られ、理解され、愛されるために、どこか参考になりそうだと思い、勉強を始めました。

 実は前回ご紹介したJETのアンケートの項目に関連したものがあります。「日本に到着した直後に何に一番困ったか?」との質問に対し、「物価高」に次いで「交通機関の乗り方」と「日本人は親切だが打ち解けて話せない」が挙げられたのです。英語でいえば、日本人はkindだが、hospitableでないということで、これまでの日本人の自負(日本人は親切と思われている)が適切ではなかったことになります。最近あるアメリカの新聞の東京支局長と話したら、インタビューを受けた中国人留学生たちが、日本に何年いても本当の友達ができないとこぼしていたと言っていました。

<「思いやり」をどう翻訳するか?>

 私は直感的には日本人の「思いやり」は、対価を期待せず、相手と一体になり、かつそれを示すことにより自分自身も心が豊かになるもので、世界に誇るべき精神である、「ホスピタリティー」の見直しなど今更言い出す欧州は遅れていると思います。しかしこうした日本人の「徳」は事実でも、引っ込み思案(shyness)、心の奥にある人種偏見、家の狭さなどと総合されると、我々が思っているほど世界で好かれているわけではないのかな‥・と思ったりもします。つまり日本人の良さを、世界に通用するホスピタリティーに翻訳させる努力が必要なのかも知れません。それが「ホスピタリティー」に関心をもった背景です。

 アーチスト・イン・レジデンスを嘩功させるためにも、そして小泉総理のイニシアティブで始まった「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の成功のためにも、研究に値する概念かも知れません。長安の人々や、経済カ、文化カに加え、国際的に通用する「ホスピタリティー」があったに違いありません。

<女性と若者に期待>

 パラダイムがシフトし、戦後日本の発展に貢献してきた人たちがアイデンティティーに悩み、社会に閉塞感があるとき、文化と社会をつなぐアート・マネジメントや「思いやり」の翻訳等、いわば社会が文化資本を重視していく上で鍵を握るのは女性と若者かも知れません。OECDでの研究によれば、マクロ経済学的にも日本の今後の生産性を支えるキーのひとつは労働利用率の向上、すなわち女性の労働参加の増加です(The Sources of Economic Growth in OECD Countries, 2003 この点について『外交フォーラム』2003年8月号の拙論「日本が成長軌道に戻る目」参照)。そしてクール・ジャパンの担い手は若者です。後漢書の「雄飛」と「雌伏」の時代から、「雌飛」の時代になったとの指摘もあります(『女たちが日本を変えていく』日経ビジネス人文庫pp.28-29)。現に最近シンポジウムに参加し、発言する若い女性の数が飛躍的に増えました。これから文化交流を通じて日本社会を活性化していく担い手は女性と若者なのです。

今月の資料

 日本は財、サービス、投資、旅行者いずれをとっても大幅な「出超」であること、いわば「懐が狭い」国であることを示す資料を同封しました。また、前号のクイズのネタとなったJETのアンケート結果も提供します(同資料は、電子データが存在しないため、ウェブ上には大変恐縮ながら掲載しておりません)。

今月の引用

 文化・文明の接触・交流がダイナミックなものであることを示す一文です。
 「ある文明について、それが生きているということは、与えること、受け取ること、借用することが同時にできるということである」(フェルナン・ブローデル『地中海』浜名優美訳 藤原書店 III巻p.182)。
今月の数字

 外務省と私の部の職員数です。文化交流部はすでに女性に支えられているのです

  <全体> <女性職員の数> <女性の比率>
外務省全体(含在外公館) 5,330人 1,052人 19.7%
文化交流部 58人 29人 50.0%


今月のクイズ

:現在世界で(日本国外で)日本語を学ぶひとの数は次のどれでしょうか。

 a. 10-15万人 b. 50-70万人 c. 100-120万人
 d. 150-170万人 e. 210-250万人 (正解は次号)

 前回のクイズの答えは「a. 小泉首相」です。

後記

このニュース・レターは、文化交流部長が仕事を通じて感じたことを、個人の資格と責任で書いたものであり、外務省の公式見解ではありません。なおご意見やコメントは以下にお寄せ下さい。

郵便:100-8919 千代田区霞ヶ関2-2-1 外務省広報文化交流部総合計画課
Fax:03-5501-8126
E-mail:seiichi.kondo@mofa.go.jp


目次


外務省案内 渡航関連情報 各国・地域情勢 外交政策 ODA
会談・訪問 報道・広報 キッズ外務省 資料・公開情報 各種手続き
外務省