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外務省員の声

文化外交最前線
―第1号―

2004年2月23日
今月のテーマ:文化交流を日本社会活性化の起爆剤に

<日本社会を覆う「閉塞感」?>

 いきなり重苦しいテーマですが、4年ぶりに日本に帰って感じるのは、日本は何となく元気がなく、モラルが低下し、知的閉塞感に満ちているような気がすることです。そしてそれが日本からの知的発信を弱め、対外イメージを悪化させているのです。

 最近の少年犯罪や自殺の増加などの暗いニュース、学校教室の荒廃や地下鉄の中などでのモラルの低下、組織のスキャンダル、原発や石油タンク事故、JRの事故、ロケット打ち上げ失敗など技術面での信じられない失敗は、日本社会の箍が緩んでいるとしか思えません。夢や目標を失い、プライドや意地をどこかに置き忘れ、職人気質を忘れてしまったようです。最近の中国脅威論は自信喪失の裏返しです。出生率の低下の要因のひとつはひとびとの将来への信頼の低下です。

<80年代のアメリカと酷似>

 でも歴史を振り返ればこれは社会のシステムと世界の流れとの間にズレが生じたときに起こる現象と見るべきでしょう。1970-80年代のアメリカを想起させます。アメリカは双子の赤字に苛まれ、生産性は低下し、スリーマイル・アイランドでの原発事故(79年3月)、イランの人質救出作戦(「砂漠の嵐」作戦)の失敗(80年4月)、湾岸でのスターク号事件(87年5月)など考えられない事態が続き、社会には閉塞感が満ちて、今の日本と酷似していました。犯罪率は増加し、他国を悪役に仕立てました(ジャパン・バッシング)。

 しかしアメリカは見事に復活しました。では日本復活の鍵は?それは精神的活力の源である「自己の強いアイデンティティー」です。アメリカにはこれらがありました。

<戦後日本の経済重視政策>

 戦後日本は安全保障はアメリカに任せ、文化はとりあえず後回しにして、国の資源を経済再建に優先配分しました。優秀な学生は理工学部に送り、経済成長という目に見える、数字で測れる価値を国民の努力と成功の基準にしました。国民性の研究は、勤勉、協調心、忠誠心など経済発展に役立つもののみを強調するにとどめ、民族としての誇りを正面から取り上げ、次世代に教えることを怠りました。戦争の過ちとは何であったのか、日本人の精神力の誤用をどうして許してしまったのかを正面から議論することの辛さと政治・外交的困難さゆえ、「精神力」そのものを語ることを止めたのです。「君が代」や「日の丸」がタブー視されたのと同じように。

 国民の自尊心や生き甲斐は役所や会社でひたすら働くことを通して国家主導の経済発展に貢献することに見出されました。滅私奉公が美徳になり、「個」の才能の発露と幸福は、自分の組織での「出世」という狭いところに押し込まれました。何かを忘れていると思いつつ、「戦争に負けた後の」「とりあえず」の方針として受け入れ、「エコノミック・アニマル」と自嘲することをその免罪符としました。

<パラダイム・シフト>

 経済が成熟し、国民が物質的に豊かになってもこの惰性が続きました。経済が躓いたとき、ふたつのことが明らかになりました。第一に、いつのまにか経済のパラダイム・シフトが起こっていたのです。「国家」(ステート)の役割は産業政策から構造改革へ、「会社」の目標は市場拡大からリストラへと変質し、その結果「役所」や「会社」に滅私奉公することは人生の目標として成り立たなくなりました。改革とリストラはそれまでの「会社人間」を容赦なく切って捨てたのです。個人は自立して市場価値をつけることで生きる糧を得るものであること、「国」はそういう自分達がつくるものであり、中央政府はそのための権限を授託した相手であるという「発想の転換」が要求されています。

<アイデンティティーの弱体化>

 しかしこの頭の切り替えは思うようにはいきません。過去の栄光と惰性がその障害になっています。また経済が複雑骨折を起こしていて、新たなパラダイムが機能する枠組みがまだ十分できていないことも一因です。しかし頭の切り替えを進めるに当たって最も重要なのは、アイデンティティーに裏打ちされた自信です。活力ある社会では、各個人がその社会(国)にアイデンティティーを感じ、それを誇りに思い、その社会(国)の目標を共有し、それに貢献することに志を感じています。しかし「精神力」を語ることを避け、「国」を「中央政府」と同一視してきた日本人は、いつの間にか本来のアイデンティティーを失っていたのです。

<無痛文明?>

 アイデンティティーを失い、誇りをもつものがなく、目標を見つけられぬ状況では、若者に志をもてという方が無理です。経済以外のことを考えてこなかったため、経済のパイが伸びないと、人間関係はゼロ・サム・ゲームとして捉えられ、嫉みや足の引っ張り合いが起こります。これは本来争いを嫌う日本人の誰にとっても苦痛です。そこで食うに困らぬ物質的豊かさの中で、ひとは他人との対話を避け、ごく少数の友人と携帯電話・メールでコミュニケートし、ひとりでテレビゲームやパチンコという機械を相手に勝つというあまりに小さな「目標」に没入することで、この苦痛から逃れているのではないでしょうか。幸い日本は科学技術面でこうした需要を満たすことが容易にできます。そこに森岡正博教授のいう『無痛文明』が生まれたのではないでしょうか。

 日本人がアイデンティティーを見出し、目標を定め、それを達成すべく努力することに志を感じるようにするにはどうしたら良いでしょうか。「それは政府が・・・」というのは古いパラダイムでの話です。国民が決め、政府がそれを支援するのがこれからの国の運営のあり方です。それは生活に「文化」を取り戻すことです。

<文化は贅沢ではなく生活の一部>

 さきほど日本は戦後種々の理由から「文化は後回しに」したと言いました。その結果文化は経済的に余裕ができてから、引退して時間ができてから楽しむもの、あるいは純粋な「趣味」であって社会の主流ではないものという観念ができてしまいました。本来文化・芸術は貧しくとも人間の生活に必要なものです。昨年フランスのラスコーの洞窟壁画を見てその精神的迫力に仰天しました。毎日の飢えと寒さに苦しんだクロマニヨン人が、なぜあれだけの芸術を残したのでしょうか?フランスに『あわれなジャン』La Goualante du Pouvre Jeanというシャンソンがあります。エディット・ピアフの歌で、ジャンという男が貧乏ながら恋に生きるという話です。人間は貧しくとも恋をするのです。金がなくとも恋が生きる力を与えてくれるのです。同様に貧しくともひとは文化から生きる力を得るのです。いつの間にか日本人は生活における文化の力、重要性を忘れました。

 文化を社会にもっととり込むことで、アイデンティティーと誇りを取り戻し、社会の目標を作り直し、そこに志を感じることができるはずです。それには人文科学の教育を強化し、文化・芸術をもっと身近なものにすることです。

<クール・ジャパンは本物>

 文化を突破口にすることにすでに成功し、世界に伍して活躍している多くの先駆者がいます。村上隆氏らの美術家、村上春樹氏らの小説家、上原彩子さんらの若手ピアニスト、宮崎駿氏らのアニメ、マンガやポップ・ミュージック、マラソン、水泳、柔道などで世界を制覇したスポーツ選手などです。彼らは、個人として文化、スポーツの分野で才能を伸ばし、世界に飛び出してのびのびと自分を主張し、認められたのです。何より重要なのは日本の素晴らしい精神文化が彼らの成功の基礎にあることです。

 日本がもっと文化を社会システムに取り込めるようになれば、こうした若く才能ある芸術家、スポーツ選手が日本でもっと活躍できるようになり、彼らに続く才能が現れ、国民ひとりひとりがそれを毎日の生活の中で鑑賞し、心の充実を得る術を実につけ、自信を回復し、社会と経済を活性化させるでしょう。

 国民が文化を生活の一部に取り込むことで精神力を回復できるような仕組みをつくり、障害を除去するのが政府、自治体の重要な役目です。外務省の役割は日本文化の魅力を効果的に発信することですが、その前に、日本人自身の自信を回復させること、そしてそれが内向きのナショナリズムに発展しないようにするために、国際文化交流という外からの刺激を活用すること・・・それが私の当面の課題のひとつです。

今月の資料

 最近の日本人の心理状態を物語るものとして、内閣府(旧総理府)の「国民生活に関する世論調査」を調べてみました。平成5年と15年の10年間の変化をみると、国民の中で生活の満足度と充実感を失い、将来はさらに生活が悪くなると考えるひとが増えました。しかし同時に今後の生活においては、より多くのひとが「物の豊かさ」より「心の豊かさ」や「ゆとり」を求め、「収入」より「自由時間」を求めています。そして今後力を入れたい分野として「レジャー・余暇生活」を挙げたものが一番多かったのです。文化がもっと日常生活に組み込まれる余地があるということではないでしょうか。これらを示す調査結果を整理したものを同封しました。

今月の引用

文化・芸術がもつ意味につきインスピレーションを与えてくれた文献のひとつです。
「美は、社会にとって、人間にとって、あらゆる生きものにとって、飾りや添え物ではない。生命の存続に欠かせない大切な役割をもっている。だから、花が美しく咲いているように、私たちも、人為を超えたもっと大きなもののリズムに身をゆだねることが必要だろう。」(絹谷幸二著 『ウソ力の鍛え方』 日本経済新聞社(19-20ページ))
今月の数字

 諸外国の国際文化交流関係政府予算規模

(国) (文化交流関係予算) (事業団体予算)
日本 273億円(2003年度) 国際交流基金:  184億円(2002年度)
米国 709億円(2003年度)  
英国 3120億円(2003年度) British Council : 924億円(2002年度)
フランス 1809億円(2003年度)  
ドイツ 749億円(2003年度) ゲーテ・インスティテュート : 298億円(2002年度)


 [注:国により「文化」のとらえ方、制度に大きな違いがあり、単純な比較は困難。しかしそれぞれの数字の説明は長くなるのでここでは割愛。日本の数字は外務省文化交流部予算(266億円)に文化庁の予算985億円のうち「国際文化交流の推進」として掲げられているもの(6億6千万円弱)のみを加えたもの。]

今月のクイズ

:最近外務省はJETのCIR(全国都道府県庁および政令指定都市の市役所に配置されている若い外国人)に対してアンケート調査を行いましたが、そこで『世界で一番知られている日本人は誰か?』という質問に対する答えとして最も多かったのは次のうちどれでしょうか(注意:アンケート対象者は日本在住のひとたちです)?

 a. 小泉首相 b. 昭和天皇 c. 吉田茂元総理 d. オノ・ヨーコ
 e. ポケモン f. ゴジラ g. 盛田昭元ソニー会長
(正解は次号)

後記

このニュース・レターは、文化交流部長が仕事を通じて感じたことを、個人の資格と責任で書いたものであり、外務省の公式見解ではありません。なおご意見やコメントは以下のいずれかにお寄せください。

郵便:100-8919 千代田区霞ヶ関2-2-1 外務省広報文化交流部総合計画課
Fax:03-5501-8126
E-mail:seiichi.kondo@mofa.go.jp


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