2012年10月1日にマレーシアのアブドゥル・ハリム・ムアザム・シャー第14代国王王妃両陛下が,国賓として来日されます。今回は,日本の経済発展から学ぶ「東方政策」を開始して2012年で30年目を迎えるマレーシアと,王室を通じた日本との深い縁について紹介します。
■2度目の即位となるアブドゥル・ハリム・ムアザム・シャー国王陛下の来日
連邦制の立憲君主国であるマレーシアでは,国や文化の象徴である国王は,国教であるイスラム教の祭主の立場も兼ね,絶大な尊敬を国民から集めています。また,国王の就任は,任期5年の持ち回りで行われるという,世界でも珍しい制度がとられています。マレーシアを構成する13の州(ほかに3つの連邦直轄区)は,それぞれが小さな王国や直轄の植民地であった歴史的経緯があり,うち9つの州の首長であるスルタンの互選による輪番制で国王が決められます。2011年12月に即位した第14代国王アブドゥル・ハリム・ムアザム・シャー陛下(84歳)は,1970年から75年まで第5代国王に就任されており,2度にわたって国王になるのはマレーシア史上初めてのことです。
■日本の皇室との深いゆかり
天皇皇后両陛下はこれまで3度マレーシアを訪問され,マレーシアからも3度にわたって歴代の国王王妃両陛下が来日されており,マレーシア王室と日本の皇室はとても親密な関係にあります。1970年に天皇皇后両陛下(当時は皇太子同妃殿下)が昭和天皇の名代としてマレーシアをご訪問された際には,病気の国王に代わって現国王(当時は副国王)が公式行事を主催されたという縁もあり,36年ぶりに2度目の国王即位を果たされたアブドゥル・ハリム・ムアザム・シャー国王陛下による今回の国賓としての来日をきっかけに,両国の友好親善関係がより一層深まることが期待されています。
■多様な生態系,多様な民族文化
東南アジアの中央に位置するマレーシアは,マレー半島とボルネオ島の北部から成る国土の約7割を熱帯雨林が占め,自然の織りなす生物多様性で知られています。タイ,インドネシア,シンガポール,ブルネイ,フィリピンと国境を接していて,ASEANの主要国でもあります。日本の約0.9倍の国土に約2,860万人(2011年現在)が暮らし,うち67%がマレー系,25%が中国系,7%がインド系で構成される多民族国家です。イスラム教のほかにも仏教やヒンズー教,キリスト教など信仰の自由が認められており,言語はマレー語(国語)や中国語,タミール語,英語などが用いられ,それぞれの民族が持つ生活習慣の多様性は,マレーシアの「力の源」とも言われています。

■2020年までの先進国入りを目指して
旧宗主国の英国から平和的な独立を果たして以来,与党連合が政権を担ってきたマレーシアは,経済面でも安定した成長を遂げてきました。かつては豊かな天然資源を生かしてゴムやスズなどの輸出に頼っていましたが,外国資本を積極的に導入することで著しい工業化を果たしました。自動車産業においては国産車が国内シェアの約半分を占め,アジア諸国やヨーロッパにも輸出されています。さらに,中国の小売業,中東・アフリカの石油生産など,企業の海外進出も増加しました。現在は,2020年までの先進国入りを目指す長期開発政策「ビジョン2020」の達成に向けて,規制緩和や国際競争力を強化。2010年からは環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉に参加しています。
■日本との強い経済・文化的つながり
古くは16世紀にマラッカを経由してキリスト教や鉄砲が日本に伝わったとされ,第二次世界大戦を経て独立したマレーシアは,日本との経済・文化的なつながりを強めてきました。日本にとってマレーシアは,LNG(液化天然ガス)の約2割を輸入しており,輸出・輸入ともに第9位(2010年)の重要な貿易相手国です。マレーシアから見ても日本は,LNGや半導体などによる第3位(2010年)の輸出先であり,第1位(2010年)の輸入相手国として電気機器や一般機械,自動車などを輸入しています。2006年に日・マレーシア経済連携協定(EPA)が発効したことで経済関係はさらに緊密化し,日本からマレーシアに進出している企業は約1,400社(2011年現在),在留邦人は1万人以上(2011年現在)になります。また,文化面においても,「おしん」など日本のドラマや音楽,アニメなどといったポップカルチャーは,マレーシア国内で深く浸透しています。
■「東方政策」が両国の友好関係の基盤に
マハティール首相(当時)が1981年に提唱した東方政策(ルック・イースト・ポリシー)は,日本や韓国の労働倫理や経営哲学などを学ぶことによって,自国も経済発展を目指していく構想です。1982年からこれまでの間に,マレーシア政府から日本に派遣された約14,000人の留学生や研修生が,日本政府の受入れ協力の下,大学や企業などで学んできました。これらの人材がマレーシアの経済発展に寄与したのはもちろん,東方政策は両国の相互理解や友好を促進する上での基盤となっています。また,東方政策の集大成として,2011年9月,日本式の工学教育を行うマレーシア日本国際工科院(MJIIT)がマレーシア工科大学内に開校し,ASEANにおける工学教育の拠点を目指し,日本からも講師の派遣や円借款(66億9,700万円を限度)による機材供与などを通じ協力しています。
■未来に向けて,より緊密なパートナーとして
2012年は東方政策のスタートから30周年にあたり,4月にはアニファ・アマン外相が来日,6月には鳩山由紀夫総理特使がマレーシア日本国際工科院(MJIIT)の開校式に出席したほか,マレーシア国内でも様々な記念イベントが開催されています。両国の首相が2012年3月に交換した祝賀メッセージで,野田首相は「良好かつ緊密な二国間関係は,この東方政策により培われた両国間の『絆』に支えられていると言っても過言ではない」,ナジブ首相は「友好的な,かつ,誠意ある関係が,将来にわたり強化され,及び拡充され続けることを切に望みます」と両国の関係強化に言及しました。今後も両国は,より緊密なパートナーシップのもと,未来に向けて絆を深めていきます。