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Vol.85 2012年3月21日
宇宙ゴミを減らせ!~国際的な宇宙空間の利用とルール作り

宇宙開発・利用が盛んになるにつれて,地球軌道上の宇宙空間を漂う「ゴミ」問題がクローズアップされるようになりました。この宇宙ゴミ問題は人工衛星や宇宙飛行士にとって深刻な脅威となっています。今回は宇宙ゴミ問題に焦点を当て,宇宙開発・利用に係わる各国の国際協力・ルール作りなどについて解説します。

地球軌道上に宇宙ゴミ増加中!

2011年9月の米国の衛星「UARS」,10月のドイツの観測衛星「ROSAT」,そして2012年1月にロシアの火星探査機「フォボス・グルント」と,人工衛星などが地上に落下するニュースが大きな話題となりました。遺棄された人工衛星やその打ち上げに使用されたロケット,またそれらの爆発・衝突によって生じた破片,宇宙遊泳中の宇宙飛行士が手放してしまった工具や手袋などは「宇宙ゴミ(Space Debris)」と呼ばれ,近年その急増によって地上への落下や宇宙機との衝突などのリスクが高まっています。特に2007年の中国のミサイルによる人工衛星破壊実験,2009年の米国とロシアの人工衛星同士の衝突事故によって地球周回軌道上を漂う宇宙ゴミが飛躍的に増加したと考えられています。

地球軌道上の人工物体数推移
※NASAデブリプログラムオフィスの資料をもとに作成

なぜ宇宙ゴミは危険なのか?

宇宙空間を漂う宇宙ゴミのイメージ

現在,米国の監視ネットワークがとらえている地球軌道上にある4インチ(約10cm)以上の物体は約22,000個。そのうち約1,000個は各国が運用中の人工衛星で,残りの約21,000個以上の物体は宇宙ゴミです。また,1~10cmの小さな宇宙ゴミはおよそ50万個と推定されており,さらに1cm以下の微少な粒子はなんと数千万個以上存在すると考えられています。ほとんどの宇宙ゴミは地表から2,000km以下(地球低軌道)の高度を漂っており,秒速約7~8kmという早いスピードで地球の周りを周回しています。すなわち1cmほどしかない宇宙ゴミでも,宇宙機や遊泳中の宇宙飛行士に衝突すれば大きな被害をもたらすことになります。宇宙ゴミは人類の宇宙活動にとって,大変深刻な脅威となっています。

 
 

宇宙空間の開発と利用に関する国際的なルール

宇宙空間の開発と利用に関する国際協力の歩み宇宙ゴミが漂っている宇宙空間はどの国の主権も及ばない空間です。しかし人工衛星など各国が宇宙空間を利用するようになると,そこには各国間で守るべきルールが必要になります。1959年,国連は常設委員会として宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)を設置。COPUOSは本委員会とその下に設置された法律小委員会と科学技術小委員会によって構成された組織です。1960年代に米ソ間の宇宙開発競争が本格化する中,COPUOSの法律小委員会によって「宇宙条約」が作成され,1967年に発効しました。宇宙空間という人類のフロンティアにおける“憲法”ともいうべきこの条約では,「宇宙空間の探査・利用の自由」「領有の禁止」「平和利用」「国家への責任集中」などが定められており,その後,細目協定として「宇宙救助返還協定」「宇宙損害責任条約」「宇宙物体登録条約」などが作成されました。最近では,2007年にCOPUOSで宇宙ゴミの発生抑制を目的としたスペースデブリ低減ガイドラインが採択されています。

 

国際的な宇宙協力のシンボル国際宇宙ステーション(ISS)

分離後のディスカバリー号から撮影されたISS ©JAXA/NASA国を超えた宇宙協力の象徴的存在が,国際宇宙基地協力協定(旧協定1992年発効/新協定2001年発効)のもと,高度400kmの地球周回軌道上に建設された国際宇宙ステーション(ISS)です。この計画には日本,米国,欧州連合(EU)カナダ及び後に参加したロシアの5極15か国が参加しています。日本は実験棟「きぼう」を主体として運営しており,これまで宇宙ならではの微少重力空間を利用して,新薬開発や新材料創生などに係わる最先端科学の実験が行われてきました。このISSも当然,「宇宙ゴミ」衝突のリスクにさらされています。1998年以来,「宇宙ゴミ」の衝突を回避する操作を行っており,宇宙飛行士が緊急避難することもありました。

国際協力で進められているISS計画
 
 

ISSを宇宙ゴミ衝突の危険性から守るために

日本実験棟「きぼう」 ©JAXA/NASA宇宙ゴミの急増とISS自体の組立が進んで断面積が大きくなったこともあり,2008年以降には,米国の監視ネットワークからの衝突警報が倍増しています。ISSは,これまでに作られた宇宙機の中で最も厳しく保護された構造を有しています。例えば,居住空間や外部高圧タンクは1cm程度の小さな宇宙ゴミが衝突しても耐えられるようになっていますし,衝突警報があれば,「宇宙ゴミ」との衝突を回避する操作も可能です。しかし2009年にはISSの宇宙ゴミ接近の発見が遅れ,宇宙飛行士が緊急帰還船ソユーズに避難する事態が発生し,2011年6月には日本の古川宇宙飛行士らが脱出用ロケットに一時退避するという事態も起きました。ISS自体の安全性向上はもちろん,衝突のリスクを低減するためには宇宙ゴミそのものを減らす努力も必要不可欠です。

 

「宇宙ゴミ」問題を最重要課題ととらえている国連宇宙平和利用委員会(COPUOS)

COPUOSの様子 ISSや各国の宇宙活動にとって深刻な脅威となる宇宙ゴミの問題は,「宇宙の平和利用」を話し合う場であるCOPUOSにおいても,現在最大の関心事となっています。日米露など71か国から構成されるCOPUOSでは,2003年から,宇宙ゴミの発生抑制を目的として「スペースデブリ低減ガイドライン」が審議され,2007年に採択されました。また,2010年,科学技術小委員会のもとに「宇宙活動の長期的持続可能性」作業部会が設置され,さらに検討が進められています。 翌2011年同作業部会に4つの専門家会合が設けられ,「地上における持続可能な開発のための持続可能な宇宙利用」「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」「宇宙天気」「宇宙運用」「宇宙状況監視」「規制体系」「新規参入者に対するガイドライン」の7分野にわたり,宇宙活動を長期的に持続可能な形で行うための幅広い内容を審議しています。この作業部会は,2014年に本委員会に報告書を提出する予定です。なお,2012年6月から2年間,宇宙航空研究開発機構(JAXA)堀川康技術参与が日本人初のCOPUOS本委員会議長に就任予定で,また同じくJAXAの小原隆博氏が,「宇宙活動の長期的持続可能性」作業部会の専門家会合の一つ「宇宙天気」専門家会合の議長を務めています。現在,日本は宇宙ゴミ対策をはじめとする宇宙活動を長期的に持続可能な形で行うための議論をリードするポジションにあると言えるでしょう。

宇宙活動の長期的持続性検討体制
 
 

宇宙活動に関する国際的な行動規範案を議論

記者会見を行う玄葉外務大臣現在,世界各国で宇宙ゴミ回収・除去のための計画も考えられていますが,最も重要なことは,これ以上宇宙ゴミを増やさない努力をすることです。前述の国連での動きとは別に,EUが主導して,宇宙空間における責任ある行動のため国際的な規範を作る動きも2008年から関係国間で進められてきました。この行動規範案では,「宇宙物体の破壊の自制」「衛星衝突回避のための通報・協議のメカニズム」といった,宇宙活動国間の透明性向上や信頼醸成のための規定が盛り込まれています。日本はこのようなイニシアティブを支持しており,2012年1月,玄葉外務大臣は,EUの行動規範案をベースにした国際的な議論に積極的に参加し、さらに関係国がこの議論に参加するよう努力することを表明しました。

 

国際的な宇宙協力における日本の貢献

野田総理を表敬訪問した古川・星出両宇宙飛行士(2012年1月) 写真提供:内閣広報室 日本はアジアで唯一のISS計画参加国です。2008年,日本実験棟「きぼう」が,土井隆雄宇宙飛行士が搭乗するスペースシャトル「エンデバー」によって打ち上げられました。「きぼう」は土井飛行士以降も,若田飛行士,星出飛行士が組み立てに携わり,2009年7月に完成。その後,野口飛行士,古川飛行士がISSに長期滞在しており,古川飛行士は日本人として最長の167日間滞在しました。また,ISSのデータ通信には日本のデータ中継技術衛星DRTS「こだま」が活用されています。国際的な宇宙協力に技術的にも外交的にも多大な貢献をしてきた日本は,宇宙ゴミ問題をはじめとするこれからの宇宙開発の課題にも,関係国との連携を図りながら積極的に取り組んでいきます。

 
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