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Vol.81 2011年12月27日
ベトナム~東南アジアの活力みなぎる国

2011年10月にベトナムのグエン・タン・ズン首相が来日しました。2009年に「アジアにおける平和と繁栄のための戦略的パートナーシップ」の共同声明を発出して以降,政治,経済,文化交流と近年ますます日本とベトナムの関係が深まっています。今回は,歴史的にも日本と縁が深いベトナムという国の概要と,日本との関係を解説します。

農業国から工業国へ

ベトナム

ベトナムは,インドシナ半島東部にある社会主義共和制国家です。南シナ海に面した国土は南北に長く,北に中国,西にラオスカンボジアと国境を接しています。日本よりやや狭い約33万平方kmの国土(九州を除いた日本の面積とほぼ同じ)で,総人口は約86%を占めるベトナム民族(キン族)と53の少数民族をあわせて8,693万人(2010年)で,その6割が30歳以下。人口は着実に増加しており,21世紀半ばに1億人に達する見通しです。宗教は日本と同様に仏教(大乗仏教)が国民の多くを占めます。また,国民の多くが農業に従事しており,主な農産物はこしょう(輸出量世界第1位),米,コーヒー豆(いずれも輸出量世界第2位)など。しかし,近年都市部を中心とした工業化が進んでおり,農村人口は徐々に減少しています。

 
首都ハノイ旧市街(写真提供:日本アセアンセンター) アオザイを着る女性(写真提供:日本アセアンセンター)
 

長く,苦難の歴史を有する国

ベトナム略史 ベトナム北部は,紀元前より漢,隋,唐といった中国王朝に支配されていましたが,938年に中国から独立しました。以後南部と北部に様々な王朝が成立しますが,1884年にフランスによって植民地化され,「フランス領インドシナ」と呼ばれるようになりました。第二次大戦では日本軍が進駐しますが,1945年8月に日本が敗戦すると,翌9月にホー・チ・ミン主席が「ベトナム民主共和国」として独立宣言。フランスなどとのインドシナ戦争,南北分離,米国とのベトナム戦争と苦難の歳月を経て,1976年にようやく南北が統一した「ベトナム社会主義共和国」が成立しました。

【コラム】ベトナムの独立と国家建設に生涯を賭けたホー・チ・ミン

ベトナム南部の中心都市ホーチミン市は,もともと南ベトナムの首都サイゴンでしたが,ベトナム戦争終結直後の1975年5月,故ホー・チ・ミン (Ho Chi Minh・1890~1969)元国家主席にちなんで改称されました。ホー・チ・ミンは,20代の頃にベトナムの宗主国だったフランスで政治活動をスタートさせ,1930年に英国領香港でインドシナ共産党を結成。1941年に祖国ベトナムに戻り,抗日・抗仏運動のリーダーとして活躍しました。第二次世界大戦後,ベトナム民主共和国の首相,国家主席としてインドシナ戦争やベトナム戦争を指導し,1969年に波乱に満ちた79年の生涯を閉じました。ベトナムの民族解放と国家建設に生涯を捧げ,高潔な人物と評されたホー・チ・ミンは,現在でも多くのベトナム国民から尊敬され,愛されています。

 
 

ドイモイ(刷新)政策による躍進

首都ハノイ旧市街(写真提供:日本アセアンセンター) ベトナムは共産党による一党支配の社会主義国ですが,1986年に開催された第6回党大会において市場経済システムの導入と対外開放化を柱としたドイモイ(刷新)政策が採択されました。以来,安定した政権運営のもと,着実に発展を続けています。経済発展に伴う貧富の差の拡大などの様々な弊害に対しても,党と政府は行政改革などにより貧困家庭支援等に積極的に対応しており,2011年1月に発足した新指導部は,2020年までに近代工業国家として成長することを目標として,引き続き高い経済成長を目指す方針を国民に示しています。

 

全方位外交を展開

2010年10月,ASEAN首脳会合の際に行われた日本・ベトナム外相会談 ベトナム外交の基本方針は,ASEAN諸国や国際社会との協調を重視した「全方位外交」です。特にASEAN,アジア・太平洋地域諸国との国交関係を重視しており,日本とは1973年に外交関係を樹立しています。1995年には長い戦争を戦った米国と国交正常化を果たし,同年にASEAN正式加盟,1998年にはAPECに正式参加しました。2008年には初めて国連安保理非常任理事国に選ばれ,2010年にはASEAN首脳会議の議長国を務めるなど,近年ますますアジア・太平洋地域ならびに国際社会での存在感が増大しています。また,中国と国境線を有し,シーレーンに面するベトナムは,アジアの安全保障面において地政学上重要な位置にある国でもあります。

 

急速な経済成長

1989年頃よりドイモイ政策の成果が見られはじめたベトナム経済は,1990年代より大きく躍進。政治的な安定と安価な労働力を背景に,海外からの直接投資も順調に増加し,2000年から2010年までの10年間で平均経済成長率は年7.26%。インドネシアフィリピンに次ぐ東南アジア第3位の人口を抱える有望な市場,そして世界の生産拠点として注目を浴びています。こうした好調な経済情勢の反面,近年は急激な物価上昇,対外債務増大などの懸念もあり,政府はマクロ経済の安定化とインフレ対策を経済政策の最重要課題に掲げています。また,2007年1月WTOに正式加盟を果たし,今後,慢性的な貿易赤字の解消や国内投資環境の成熟などの課題もあります。一方,原油,天然ガス,レアアース等,埋蔵天然資源の潜在性への期待も高まっているなど,ベトナム経済の未来はまだまだ可能性を秘めていると言えます。

ベトナムの実質 GDP成長率
 
 

ますます進展する日越関係

1973年の国交樹立後,日本とベトナムは政治・経済両面で関係を深めていきました。特に,近年経済関係が急速に拡大しており,現在日本はベトナムにとって最大の投資国(累積実行ベース)であり,中国,米国に次ぐ第3位の貿易相手国でもあります。日越の経済交流は,「日越投資協定」(2004年発効) ,「日越共同イニシアティブ」(2003年~),さらに「日越経済連携協定(EPA)」(2009年発効/ベトナムにとって初の二国間EPA)によって,今後もさらに活発化していくことが予想されます。また,日本はベトナムにとって最大の援助国でもあり,日本のODAによるインフラ整備,ビジネス環境整備,環境問題への取り組み支援,行財政改革,法整備等ガバナンス向上への支援など多方面にわたる経済協力が行われてきました。2009年度の援助供与額(円借款,無償資金協力,技術協力)は過去最高の約1,553億円にのぼっています。

ベトナムの対日貿易動向
日本の対越ODA供与実績
 
 

日本人と共通する文化的バックグラウンド

日本でもおなじみのベトナム料理「フォー」(写真提供:日本アセアンセンター) 近年は日本人の海外旅行先としても人気が高まっているベトナム。もともと米食やお箸の使用など,日本人と共通する文化・生活習慣の背景があり,フォーなどのベトナム料理も日本で広く親しまれるようになってきました。一方,現代のベトナム人には,日本のテレビドラマや「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」などのアニメが広く受け入れられており,クルマやバイク,家電製品など「メイド・イン・ジャパン」製品は一種のステイタス・シンボルとなっています。メーカー名である「HONDA」はオートバイの代名詞として使われているほどです。日越外交樹立35周年を迎えた2008年にはベトナムで開催された「日越友好音楽祭」や日本で開催された「ベトナムフェスティバル」などのイベントが開催され,翌年には皇太子殿下がベトナムをご訪問されました。2010年は両国の古都であるハノイ(タンロン)建都1000年と奈良遷都1300年を記念し,それぞれの国で多くの交流行事が開催されました。

【コラム】歴史の中の日越関係

ホイアンに現在も残る「日本橋」(写真提供:日本アセアンセンター)

13世紀後半,ベトナムは日本と同様,元朝の侵攻(元寇)を受けましたが,地の利を活かした巧みなゲリラ戦を展開し,撃退しました。16~17世紀には御朱印船で訪れた日本の貿易商人たちによって,中部の港町ホイアンに日本人町が形成されるほど活発な交易関係にありました。日本人町には最盛期には1,000人以上が住んでいたと言われていますが,徳川幕府の鎖国政策により衰退しました。現在は当時の日本人によって建造されたと伝えられる橋(日本橋)や町の郊外にある日本人の墓によって当時をしのぶことができます。

 
 

「戦略的パートナーシップ」でますます進展する日越関係

ズン・ベトナム首相と握手する野田総理(写真提供:内閣広報室)
被災者のために折り鶴を折るベトナムの大学生

日越関係のベースとなるのが,「アジアにおける平和と繁栄のための戦略的パートナーシップ」です。この「戦略的パートナーシップ」は,政治的な信頼関係構築,政府間対話の実施,経済関係強化,ドイモイへの日本の支援,国民間の相互理解・友好親善,さらに地域・国際場裡における協力を含んだ幅広い二国間の協力関係を謳ったものです。2011年10月にはズン首相が来日し,日本と原子力発電所建設,レアアース開発に関する協力内容を確認する文書を取り交わし,あわせて日越EPAによるベトナムからの看護師・介護福祉士受け入れにも基本合意しています。また,東日本大震災直後より,ベトナム政府とベトナム国民は多くのお見舞い・励まし・支援を届けてくれました。2011年6月にベトナム共産党サン書記局常務(当時)が,同年10月にはズン首相がそれぞれ来日中に被災地を訪問し,被災者を見舞っています。これからも日本とベトナムは,アジアのパートナーとして,互いを思いやり,助け合いながら,さらに強固な二国間関係を築きあげていきます。

 
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