現在,アフリカ東部の「アフリカの角(つの)」と呼ばれる地域では,過去60年間で最悪の干ばつによる,重大な食糧危機が発生しています。内戦により治安が悪化したソマリアなどでは,この飢饉によって難民・避難民が増大し,近隣国にも深刻な影響を及ぼしています。今回は「アフリカの角」地域の現状及び国際社会と日本の支援について紹介します。
■「アフリカの角(つの)」とは?

「アフリカの角(Horn of Africa)」とは,インド洋と紅海に向かって“角”の様に突き出たアフリカ大陸東部の呼称で,エチオピア,エリトリア,ジブチ,ソマリア,ケニアの各国が含まれる地域です。エチオピアは古代王朝から続くアフリカ最古の独立国として知られ,ソマリアも古代には交易等で栄えた豊かな土地であったと考えられています。エチオピアを除く各国は,欧米の植民地時代を経て,1960年代以降に次々と独立しました。現在,この地域は約20年続くソマリアの内戦,エチオピアとエリトリアの紛争など,多くの不安定要因を抱えています。そして,こうした政情不安定に加え,干ばつなどの気象・自然要因によって,膨大な数の人々が貧困や飢餓に苦しみ,難民の数も増加しています。特にソマリアは世界の最貧国として多くの人道上の問題を抱えており,近隣のアフリカ諸国だけでなく,世界中がこの地域の動向を注視し,大きな関心を寄せています。
■暫定「政府」が置かれたソマリアという国

ソマリアは,日本の2倍弱の国土面積を有し,アフリカ諸国きっての長い海岸線を有する国です。1960年,英国領ソマリランドとイタリア信託統治領ソマリアが統合され,ソマリア共和国として独立しました。しかし,1991年に政府が瓦解し,北部旧英国領は「ソマリランド」として独立宣言。同時に国内の部族間で内戦が激化し,現在に至るまで全土を支配する政府が存在しない状態が続いています。また1998年には北東部の部族が自治権を主張し,「プントランド」を樹立しました。2005年,周辺諸国の仲介で,暫定連邦「政府」(TFG)が樹立(日本は未承認)されましたが,現在に至るまで全土を実効的に支配するには至っていません。こうした長年の内戦状態とTFGの弱体は,ソマリアを海賊やテロリストの温床にしており,ソマリア国民のみならず,国際社会にも深刻な脅威を与えています。
■ソマリア周辺各国の情勢
ソマリア以外の各国を見てみましょう。エチオピアとエリトリアはもともと一つの国家でしたが,1993年のエリトリア分離独立後,両国間で国境紛争が発生しました。2000年6月の停戦までに,両国合わせて約7万人の死者を出し,現在も両国軍が対峙する緊張状態が継続しています。ケニアは比較的政情が安定しており,エチオピア・エリトリアの国境紛争,ソマリア,スーダンの内戦等,周辺地域の和平調停等に積極的に関与し,多数の難民も受け入れています。小さな港湾国家ジブチも政情は安定しており,ソマリアなどからの難民を受け入れています。ジブチには旧宗主国のフランス軍のほか,「9.11」同時多発テロ事件後に米軍も基地を設置しており,中東・アフリカの安全保障に大きな役割を果たしています。なお,日本はソマリア海賊への対処のため,2009年より自衛隊の護衛艦2隻とP-3C哨戒機2機を派遣しており,2011年6月には,ジブチに自衛隊の活動拠点を設けました。
■「アフリカの角」の干ばつ・飢饉の現状

もともと「アフリカの角」地域は気候的に干ばつに悩まされがちな地域でした。しかしながら,現在,2010年秋以来の干ばつにより過去60年で最悪と言われる飢饉が発生しています。国連人権問題調整事務所(OCHA)によれば,2011年9月9日現在,ソマリア,ケニア,エチオピア,ジブチにおいて約1,330万人が緊急人道支援を必要としており,うち約84万人が難民です。特にソマリアの状況は劣悪で,ソマリアとの国境に近いケニア・ダダーブ難民キャンプには,1日約1,000人の難民が押し寄せています。このような状態が続き,飽和状態となったキャンプではさまざまな人道危機が起きています。こうした飢饉被害の背景の一つには長期にわたるソマリアの内戦があり,この国の治安の安定化も国際社会の大きな課題と言えます。
■国連から国際社会への緊急支援要請

2011年7月12日,深刻化する「アフリカの角」の干ばつに対して,国連の潘基文事務総長は次のような声明を発表し,国際社会に「アフリカの角」支援を強く要請しました。『アフリカ東部におけるこの数十年で最悪の干ばつにより,1,100万人以上が生命の救助のための支援を必要としており,自分は国連機関を招集して対応振りを検討,この危機の悪化を防ぐためにあらゆることをしなければならないとの点を確認した。』
この後,安全保障理事会(安保理)のほか,OCHAや国連世界食糧計画(WFP)なども相次いで声明を出し,国際社会の支援を強く呼びかけました。
■「アフリカの角」支援に大きく動き出した国際社会
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2011年7月以降,各国から「アフリカの角」支援の声明が次々と表明され,米国,英国,フランスなど主要国の閣僚がダダーブ難民キャンプ訪問しました。8月8日にキャンプを訪れたバイデン米国副大統領夫人は,ケニア大統領など政府関係者と会談し,1億ドルの追加支援を表明しました。しかし,国連が「アフリカの角」地域に対して必要とした支援額24.8億ドルのうち,9月9日までに各国からコミット(支援表明)された金額は14.4億ドルで,約10億ドルが不足しています。国連総会開催中の9月24日,ニューヨーク国連本部で「アフリカの角」に関する閣僚レベル・ミニ・サミットが開催されました。この会合で潘事務総長,「アフリカの角」4か国首脳等が干ばつ対応支援を呼びかける演説を行い,日本をはじめ多数の出席国が「アフリカの角」地域への支援を継続していくことを表明しました。
■「アフリカの角」の干ばつに対する日本の支援
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2011年1月から,日本はWFP,国連児童基金(UNICEF),国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)等の国際機関を通じて,「アフリカの角」の干ばつに対して約9,000万ドルの支援を実施しました。さらに7月12日の潘事務総長の支援要請後に,WFPと協力した食糧支援として500万ドル,ジャパンプラットフォーム(JPF)を通したNGOの活動支援として約140万ドル,またケニアとエチオピアの難民キャンプ向けに発電機,テント等の物資支援約110万ドル相当の緊急支援を決定しました。そして,前述の「アフリカの角」に関する閣僚レベル・ミニ・サミットに出席した日本の玄葉外務大臣は,新たに約2,100万ドルの食糧支援の実施を表明しました。合計して約1億2,000万ドルに及ぶ日本の「アフリカの角」に対する支援額は,米国,英国,EU,オーストラリアなどとともに世界のトップ5の一角を占めています。
■日本とアフリカ諸国のさらなる連帯のために
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日本は,2007年以降,ソマリアの安定のために「治安の強化」,「人道支援・インフラ整備」の二本柱で総額約1億8,400万ドルの支援を実施してきました。また,ソマリア沖・アデン湾で発生している海賊から船舶を守るため,2009年より自衛隊の護衛艦2隻(船舶護衛),P-3C哨戒機2機(不審船の情報提供等)を派遣しています。東日本大震災の際に,決して豊かではないアフリカ諸国からさまざまな支援が日本に届き,アフリカの人々から日本人への連帯の気持ちが表明されました。次は日本が恩返しをする番です。近隣のアフリカ諸国をはじめ,国際機関やNGOとも連携しながら,日本は「アフリカの角」における干ばつ被害への支援を継続していきます。