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Vol.70 2011年3月22日
難民問題とは?~国際社会と日本の取組

最近の中東・北アフリカにおける治安情勢の悪化により,リビアからチュニジアやエジプトなどへと国境を越えて逃れる人々が日々増加しています。現在,世界各地には難民や国内避難民と呼ばれる人々が数多く存在しており,2011年は,そうした人々を国際社会が支援するため策定された「難民の地位に関する条約(難民条約)」の採択(1951年)から60年,日本が同条約に加入してから30年の節目にあたります。そこで今回は,世界の難民問題の解決をめざす国際社会と日本の取組について解説します。

「難民」って何だろう?

AI Mazrak Camp(イエメン)平和に暮らしていた人々が,突然,紛争や暴力などにより住み慣れた土地を追われてしまう──「難民」とは一般的に,政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有し,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができない,または,望まない者(難民条約上の難民)を指します。近年は,国境を越えず国内にとどまって避難生活を送っている「国内避難民(IDP:Internally Displaced Persons)」も増加しています。その他いずれの国の国籍・市民権も認められていない「無国籍者」も世界には650万人以上存在しており,これらの人々も,難民と同じく支援なしには生活することがきわめて困難な状況にあります。こうした難民などの発生は重大な人権・人道問題であるだけでなく,地域や国際社会の平和と安全を脅かす要因ともなります。実際,避難先の住民と難民などとの間で新たな紛争やトラブルが生じるケースが頻発しています。

 

「難民問題」の歴史

難民問題が国際社会の問題として取りあげられるようになったのは,第一次世界大戦後,ロシア革命やトルコ帝国崩壊によって大量の難民が発生して以降です。第二次世界大戦後には,より大量かつ広範な地域で難民が発生し,国際社会は,設立間もない国連を中心に難民問題に取り組んできました。まず,1949年に中東のパレスチナ難民の救済を目的とした国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA:United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East)が設立され,続いて翌1950年には,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees)が設立されました。1951年,より深刻化した難民問題に国際協力によって対処するために,「難民の地位に関する条約」が作成されましたが,この条約は,1951年1月1日以降に発生した難民には適用されないという問題を抱えており,1967年,条約を補足する「難民の地位に関する議定書」が採択されました。この条約と議定書をあわせて,一般に「難民条約」と呼ばれています。

 
 

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の役割

洪水被害の中を進むUNHCRのトラック(チャドと中央アフリカの国境にて)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は,パレスチナ難民を除く世界各地の難民の保護と支援を行う国連機関です。現在の保護・支援対象者は世界中に3,600万人以上おり,UNHCRは日本を含む世界126か国で活動を展開しています。世界各地の難民に対する国際的保護の付与,水・食糧,住居,教育の提供等の生活支援に加え,難民問題の恒久的解決(自発的帰還,現地定住,第三国定住)を図る活動,さらに世界中で円滑に難民の保護・支援が行えるよう,難民条約の締結促進に向けた未締結国への働きかけなどを行っています。UNHCRのスタッフは,難民キャンプや国境地帯などで,しばしばテロや誘拐の危険と隣り合わせの中,支援活動に従事しています。世界の難民支援に取り組むこうしたUNHCRの活動に対しては,1954年と1981年にノーベル平和賞が授与されました。

 

難民問題の「今」と国際社会の挑戦

当初,UNHCRの難民問題への取組は,第二次世界大戦によって生じた難民を念頭においたものでした。しかしその後も,イデオロギーや民族・宗教などに起因する紛争が世界各地で勃発し,難民問題は大規模化しました。特に,1990年代の地域紛争により発生したクルド難民,ルワンダ難民,コソボ難民,東ティモール難民などは,難民問題に新たな局面をもたらしました。近年の難民問題の特色の1つとしては,自然災害や経済危機など複合的な要因が絡んで難民問題が「長期化」する傾向があげられます。また,「国内避難民の増加」も重要課題となっており,今やUNHCRが支援対象としている国内避難民の数は,難民の約1.5倍と大きく上回っています。かつては,国境を越えていない国内避難民は,国家主権の壁により,国際機関などの直接の支援を受けることが難しい状況にありました。しかし,現在は,人権・人道の見地から,国際社会は,難民同様に国内避難民の保護・支援に乗り出しています。

世界の難民・国内避難民発生状況
 
 

「終わりの見えない」難民問題

UNHCRのデータによると,2009年,世界で避難生活を強いられている難民や国内避難民などは約4,330万人に及びます。そのうち難民の出身国でもっとも多いのはアフガニスタン(約289万人),次いでイラク(約179万人)です。また,半世紀以上にわたって避難生活を送るパレスチナ難民は約480万人にのぼります。こうした終わりの見えない難民問題に対して,国連世界食糧計画(WFP)国際移住機関(IOM)赤十字国際委員会(ICRC)などの国際機関やNGOなどは,役割分担しながら,世界各地で難民や国内避難民などの避難生活を支え続けています。

難民・国内避難民におけるUNHCRの支援対象者の変遷
 

日本の難民問題への積極的な取組

UNHCRへの拠出上位5か国・機関日本は,難民などに対する人道支援を国際貢献の重要な柱の1つと位置付け,「人間の安全保障」を重視した外交を推進しています。例えば,UNHCRに対しては世界で第2位の拠出国(2010年)です。また,国際協力機構(JICA)を通じて,スーダン,アフガニスタン,カンボジア東ティモールなどで故郷に帰還した難民や国内避難民が平和で安定した生活を送ることができるよう,長期的な復興開発支援と平和構築にも尽力しています。2000年には日本政府の支援によりUNHCR駐日事務所に国際人道援助緊急事態対応訓練地域センター(eセンター)が開設されました。ここでは,主にアジア・太平洋地域の国際機関,NGO,政府などの職員を対象に,人道支援の現場での安全確保のための訓練を実施しており,これまでの受講生は延べ2,700人以上になっています。

日本,JICAとUNHCRの緊密なパートナーシップ

グテーレス高等弁務官と緒方貞子JICA理事長日本の難民支援に対する取組は,UNHCRより高く評価されており,UNHCRのトップである高等弁務官は,毎年来日して日本政府と難民政策に関する意見交換を緊密に行っています。1991年から2000年にかけて,UNHCR高等弁務官としてアフガニスタンなど数多くの難民問題に尽力したのは,現在JICA理事長を務める緒方貞子さんでした。現在,日本の難民支援において,JICAは,UNHCRなどの国際機関やNGOと連携しながら,緊急の人道支援から難民帰還後の復興開発支援までの切れ目のない支援実施に大きな役割を果たしています。

 
 

2010年,難民受け入れへ大きな一歩

日本が本格的に難民の受け入れ問題に取り組むことになるきっかけは,1970年代後半,ベトナム戦争後のインドシナ難民の発生でした。日本が受け入れた約11,000人のインドシナ難民の多くが,現在も神奈川,埼玉,兵庫などの地域に定住しています。また,難民条約締結後の1982年以降は,条約難民を500名以上受け入れています。そして,2010年度から,アジアで初めてとなる第三国定住による難民の受け入れを,パイロットケースとしてスタートしました。タイの難民キャンプで暮らしていたミャンマー難民を毎年約30名,3年間で約90名を受け入れていく予定です。

来日したミャンマー難民に聞く

2010年10月より,5家族27名が,定住支援プログラムを受講「難民である私たちを受け入れてくれて,日本語を学ぶ機会を与えてくれて,とても感謝しています」「日本で生活して,日本のことがすっかり好きになりました」──第三国定住支援パイロットケースの初年度に来日したのは,ミャンマーからタイに逃れ,長期間にわたって難民キャンプ暮らしをしてきたカレン民族の5家族です。来日前から日本文化や日本語についての事前研修を受けていたためか,日本到着後も比較的スムーズに新しい生活をスタートできたようです。来日から半年あまりを経て,日本語の習得に苦労しながらも,「将来はよい仕事に就いて働きたい」,「子ども達にはよい教育を受けさせたい」と喜びと意欲に満ちた表情で話してくれました。子どもたちも,近隣の学校への体験入学を通じて,たくさん友達ができ,日本の生活を楽しんでいるようです。

 

官民の力を合わせて多彩でシームレスな難民支援を!

UNHCRと連携して事業を展開する日本のNGO
日本はUNHCRなどと協力して難民支援に一層取り組みます。

2010年,日本の国際NGO6団体が,UNHCRと共にスーダン,ミャンマーなど海外の難民支援の現場で活動しました。また,民間企業と共同でリサイクルに取り組み,難民キャンプへ届ける学校が現れるなど,国内の教育機関や民間企業がそれぞれのスタンスで難民支援を実施するケースが増えてきました。また,日本のNGOが海外において迅速で効果的な緊急人道支援を行えるように,NGO,経済界,政府が共同して設立したジャパン・プラットフォーム(JPF)を通じて,NGOがスーダンやアフガニスタン,スリランカなどで難民・国内避難民を支援する活動を実施しています。今,国際社会が注目する日本の難民支援。今後も日本は,様々な角度から難民問題解決への努力と挑戦を続けていきます。

 
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