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Vol.67 2010年12月13日
2010年日本APEC~21世紀のアジア太平洋地域の将来像

2010年11月,第18回APEC首脳会議が横浜で開催され,アジア太平洋地域の21か国・地域の首脳がAPECの将来像「横浜ビジョン」を示しました。日本,米国,中国という3大経済大国が参加する世界最大の地域協力枠組みであるAPECの将来像は,どのようなものでしょうか。2010年,日本で開催されたAPECの意義とその成果について解説します。

"Change and Action"~2010年日本APEC開催

自由で開かれた貿易と投資を達成するという「ボゴール目標」の,先進国・地域にとっての達成期限の年である2010年,「Change and Action」のテーマのもと,アジア太平洋経済協力(APEC)の各種会合が日本全国12都市で開催されました。日本は,議長としてそれぞれの会合での議論をリードし,11月に横浜で開催された首脳会議では,アジア太平洋地域の将来像「横浜ビジョン」を示した首脳宣言が採択され,大きな成果をあげることができました。APEC首脳会議は,各国・地域の首脳が毎年一堂に会する貴重な機会でもあります。菅総理は,来日した米国中国ロシアカナダ韓国チリペルーの首脳と会談を行い,二国間関係やアジア太平洋地域の課題などについて意見を交わしました。

2010年日本APEC主要会合開催マップ
 
 

APECとともに歩む日本~「平成の開国」

日本はこれまで,政治的にも経済的にも,APECの国・地域ときわめて緊密な関係を築いてきました。今回のAPECにおいて,菅総理は,今後も日本が貿易・投資の自由化・円滑化を進め,世界の成長センターであるAPECとともに成長の道を歩んでいくというメッセージを発出。「日本が平成の時代に改めて開国する,横浜におけるAPECは,APECの歴史としても我が国の歴史においても大きな新しい1ページになる」と述べ,「国を開く」強い決意を国内外に向けてアピールしました。同時に,「競争力のある農業」を目指して国内の農業改革を推進することも言明し,農業の再生と開国を両立させるという日本の方針を示しました。

日本から見たAPEC地域との経済関係
 

「ボゴール目標」の達成評価と「横浜ビジョン」

首脳宣言「横浜ビジョン」を発表する菅総理2010年日本APECでは,まずボゴール目標の達成評価(PDF)が行われました。2010年の評価対象は,日本,米国,カナダ,豪州ニュージーランドの5つの先進国の他,評価に自発的に参加したシンガポール,中国香港,チリ,メキシコなど8つの途上国・地域。議長である日本は,透明性,信頼性のある評価を行うため,経済協力開発機構(OECD)や世界貿易機関(WTO)など国際機関の知見なども援用しつつ作業を進めました。今回の評価対象の13か国・地域は,さらに取り組むべき課題が残っているものの,ボゴール目標達成に向けて顕著な進展を遂げたとの肯定的な評価が出されました。ボゴール目標達成評価を受けて,2010年日本APECでは「地域経済統合」,「成長戦略」,「人間の安全保障」を中心にアジア太平洋の将来像について議論を行い,首脳宣言「横浜ビジョン~ボゴール,そしてボゴールを超えて(PDF)」を採択しました。

 
 

APECの将来像(1) 地域経済統合~緊密な共同体へ

横浜ビジョンが描くAPECの将来「横浜ビジョン」が目指すAPECの将来像は3つのキーワードで表すことができます。まず,APECは,貿易・投資の自由化・円滑化をさらに進め,より深化した地域経済統合を促進することで,「緊密な共同体」を目指します。その実現のため重要となるのが,アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP | エフタップの構築です。今回のAPECでは,FTAAPに向けた道筋として,環太平洋パートナーシップ(TPP)協定やASEAN+3など,アジア太平洋地域で現在進行中の広域経済連携の取組をさらに発展させると同時に,投資,サービス,国際物流円滑化といったAPECの分野別取組を継続していくことが確認されました。また,FTAAPは,非関税障壁や規制改革など「次世代型」の貿易・投資の問題に対処すべき「包括的な自由貿易協定として追求」されることとなりました。

 

APECの将来像(2) 成長戦略~強い共同体へ

2つ目のキーワードは,より質の高い持続的な成長を目指す「強い共同体」です。「均衡ある成長」,「あまねく広がる成長」,「持続可能な成長」,「革新的成長」そして「安全な成長」というAPECが目指す成長の姿を示した,APEC初の長期的かつ包括的な成長戦略(PDF)が策定されました。APEC成長戦略を実施するための行動計画も提示され,人材・起業家育成やグリーン成長,人間の安全保障などのそれぞれの分野で事業に取り組み,アジア太平洋における「成長の質」を高めていくこととなりました。
2010年日本APECでは,こども特派員が大臣会合を取材するなど,一般からの多くの参加もありました。
APEC成長戦略

APEC初!「女性起業家サミット」開催

APECの「あまねく広がる成長」のためには女性の経済活動の促進が必要不可欠──。そんな日米両国の思いが結実したのが,2010年10月1日に岐阜市で開催されたAPEC初の「女性起業家サミット」です。これは2010年3月の日米APEC協力に関するプレス・ステートメントを受けて日米両国が共同開催したもので,サミットの冒頭では中山経済産業大臣政務官,菊田外務大臣政務官の挨拶の後,前原外務大臣とクリントン米国国務長官からのビデオメッセージが放映されました。サミットには,APEC21か国・地域の約330人もの女性起業家が参加。それぞれの創業及び事業拡大に関する知見や経験の共有を図りました。参加者は,ネットワーク作りについても活発に議論を交わし,サミットの成果が政策提言(PDF)としてまとめられました。

 
 

APECの将来像(3) 人間の安全保障に向けた協力~安全な共同体へ

3つ目のキーワードは,人々が自由に安心して経済活動を行うことができる「安全な共同体」。貧困の削減,自然災害対策,テロ対策など多岐にわたる人間の安全保障上の課題へのさらなる取組強化に加え,今回は,APEC初の食料安全保障担当大臣会合が新潟市で開催され,農産物の主要な輸出者と輸入者を含むAPEC地域の強みを活かして食料安全保障にも協力して取り組むことが確認されました。APEC食料安全保障担当大臣会合では,「持続可能な農業の発展」と「投資,貿易及び市場の円滑化」という2つのテーマについて議論を行い,日本が提唱する「責任ある農業投資」(RAI)イニシアティブへの支持などが盛り込まれた閣僚宣言や,ワークショップの開催予定などを明記した行動計画が採択されました。

 

地域と世界の貿易自由化への貢献

閣僚会議で議長を務める前原外務大臣「緊密な共同体」,「強い共同体」,「安全な共同体」──2010年日本APECでは,これら3つの共同体への道筋を前進させるため,途上国・地域の人材養成や技術普及を含む経済・技術協力(エコテク)活動の強化や,世界規模の貿易自由化交渉であるWTOドーハ・ラウンドの進展及び保護主義の抑止についても話し合われました。これらに関し,APEC閣僚会議において声明が取りまとめられ,ドーハ・ラウンド交渉を可能な限り早期に,バランスのとれた野心的な形で妥結するとの決意を再確認するとともに,保護主義の抑止のため,2008年にAPEC首脳が表明したスタンドスティル(輸出規制を含む新規の保護主義的措置を導入しないこと)を2013年末まで延長することが合意されています。

 

APEC共同体への今後の道筋

2010年日本APECは,「地域経済統合」,「成長戦略」,「人間の安全保障」という主要な論点で具体的な成果を得ることができました。これら3つのテーマは,各作業部会・会議において共通の検討課題とされ,それぞれの会議の成果を踏まえ,11月の首脳会議でAPECの将来像「横浜ビジョン」が提示されました。「横浜ビジョン」は,APECが21世紀の新たな好機と課題に応えていくための確かな土台です。日本は,2011年のAPEC議長である米国と緊密に連携しながら,「横浜ビジョン」の具体化や成長戦略の実施に努め,アジア太平洋地域の自由で活力あふれる共同体形成に積極的に貢献していきます。

2010年日本APECに参加した21か国・地域の首脳
 
 
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