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Vol.66 2010年11月26日
生物多様性条約COP10の成果~いのちの共生を、未来へ

国連の定めた「国際生物多様性年」である2010年,生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が愛知県名古屋市で開催されました。合意は困難とも見られていた厳しい交渉を乗り越えて,日本の都市名「名古屋」を冠する議定書2本が採択されるなど,約3週間の会議は,大きな成果を挙げ成功裏に終了しました。COP10の成果と,議長を務めた日本の貢献について解説します。

2010年10月,COP10及びCOP-MOP5が名古屋で開催

2010年10月18日~29日,生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋市で開催されました。COP10に先立つ10月11日~15日には,生物多様性条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書第5回締約国会議(COP-MOP5)も開催。COP10には,179の生物多様性条約締約国や関連国際機関,NGO,先住民代表など1万3千人以上(スタッフ,プレス関係者を含む)が参加しました。また,地方公共団体,NGO,民間企業などによる過去最大となる約350のサイドイベントが同時開催された他,隣接する会場では一般の人々が生物多様性の考え方に触れる機会として「生物多様性交流フェア」 も開催され,11万8千人を超える来場者でにぎわいました。

会場となった名古屋国際会議場 COP10名誉大使MISIAさんが会場でオフィシャルソング「LIFE IN HARMONY」を熱唱
 
 

COP10,COP-MOP5の3つの主要な成果

COP10及びCOP-MOP5では多岐にわたる議論が行われましたが,特に注目を集めた論点は3つです。まず,COP-MOP5の中心的な議題である「カルタヘナ議定書"責任と救済":遺伝子組換え生物(LMO(Living Modified Organism))の国境を越える移動による損害に係る"責任と救済"の国際的ルール」。そしてCOP10の最重要議題が「ポスト2010年目標:生物多様性に関する世界目標(2011~2020年の10年間)」と「ABS(Access and Benefit Sharing):遺伝資源への"アクセス"及びその利用による"利益の配分"」でした。いずれの論点も参加者間で意見の対立や相違が見られましたが,日本は議長国として議論を積極的かつ粘り強くリードし,最終的に3つの論点についてすべて合意に達することができました。(なお,これら主要な論点に関しては,バックナンバー「Vol.46地球に生きる生命の条約~生物多様性条約と日本の取組」でも解説しています。)

2010年COP10⁄COP-MOP5までの道程
 

6年越しの交渉:"責任と救済"「名古屋・クアラルンプール補足議定書」採択(COP-MOP5)

今回のCOP-MOP5で採択された「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の責任及び救済についての名古屋・クアラルンプール補足議定書」は,2003年発効のカルタヘナ議定書を補完するものです。遺伝子組換え生物(LMO)の輸出入により,生物多様性の保全などへの悪影響(損害)が発生した場合,誰が責任を負うのか(責任事業者:開発企業や輸出入業者など)を特定し,この責任事業者に対して対応措置(損害の防止策や原状回復など)をとるよう命ずることを,"責任と救済" 「名古屋・クアラルンプール補足議定書」締約国の義務として定めています。カルタヘナ議定書の交渉時,"責任と救済"は,各国の意見対立が激しく合意に至ることができませんでした。しかし,"責任と救済"についての国際的なルールを必要と考える各国が,2004年の第1回締約国会議(COP-MOP1・クアラルンプール)以降6年間にわたって議論を重ねてきた結果,"責任と救済" 「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が名古屋で採択されました。

「名古屋・クアラルンプール補足議定書」の概略
 
 

2011~2020年の新たな世界目標:「愛知目標」(ポスト2010年目標)採択

戦略計画2011-2020(愛知目標)「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」との2010年目標は達成することができませんでした。この目標は,抽象的であったこともあり,各国に具体的な行動を促すことができなかったことが指摘されています。このためCOP10では,2010年以降の目標として,各国に積極的な行動を促す「明確」で「わかりやすい」世界目標の策定が目指されました。COP10で採択された「愛知目標」は,2050年までに「自然と共生する」世界を実現するというビジョン(中長期目標)を持って,2020年までにミッション(短期目標)及び20の個別目標の達成を目指すものです。個別目標は,数値目標を含むより具体的なものとすることを目指していましたが,そのうち,生物多様性保全のため地球上のどの程度の面積を保護地域とすべきかという目標11に関しては,陸域については15~25%,海域について6~20%の間で様々な提案がなされました。最終的に「少なくとも陸域17%,海域10%」が保護地域などにより保全されるとの目標に決まりました。その他「森林を含む自然生息地の損失速度が少なくとも半減,可能な場所ではゼロに近づける」といった目標(目標5)が採択されています。

 

対立と困難を乗り越えて:ABS「名古屋議定書」採択

COP10最終日 全体会合の様子COP10で最も合意に困難を極めたのが,「遺伝資源への"アクセス"とその利用から得られる"利益の配分"(ABS)」に関する「名古屋議定書」でした。例えば,議定書の適用範囲の点では,植民地時代に先進国が入手した遺伝資源も対象とすべき(遡及適用)と主張する遺伝資源の提供国(アフリカ諸国)と,先進国を中心とする利用国が激しく対立しました。遺伝資源そのもののみならず,遺伝資源から生ずる派生物の扱いなどをめぐっても意見が対立し,連日深夜まで事務レベルの非公式協議が続けられましたが,交渉は最終日まで合意に至ることができませんでした。そこでCOP10議長国である日本は,関係者の関心をバランスよく取り入れた議長案をまとめて関係者に提示。粘り強く各国に働きかけを行った結果,議長案に若干の修正が加えられた上で, 2010年10月30日午前1時29分,ABSに関する「名古屋議定書」が採択されました。

 

ABS「名古屋議定書」が世界にもたらすもの

ABS「名古屋議定書」(期待される成果)COP10で合意されたABS「名古屋議定書」は,アクセスに係る事前同意(PIC:Prior Informed Consent)や相互合意条件(MAT:Mutually Agreed Terms)に基づく公正かつ衡平な利益配分を含め,生物多様性条約の規定に実効性を持たせるため締約国が実施すべき具体的措置を決めたものです。国境をまたいだり事前同意を得ることができない遺伝資源の利用の場合に,利益配分のためのグローバルな多国間メカニズムの必要性も検討されることになりました。法的拘束力のある国際約束の採択を受けて,各国国内法や規制の整備が進められていきます。遺伝資源へのアクセスと利益配分についてのルールの透明性や明確性が確保されることは,遺伝資源の提供国,利用国の双方にとって望ましく,今後の遺伝資源の活用の促進が期待されます。

 
 

ホスト国・日本の果たした大きな役割

日本政府主催ハイレベル・セグメント(閣僚級会合)の開会式での菅総理COP10及びCOP-MOP5では,環境分野において気候変動枠組条約の「京都議定書」(1997年採択)以来の日本の都市名を冠する議定書が2本採択されました。採択に際して会場は,対立を乗り越えたという大きな感動に包まれ,議長国として政治的リーダーシップを発揮した日本に対する賞賛の声があがりました。さらに,会議をホストした日本に対して参加者からは繰り返し謝意が表明され,参加者を温かく迎えた地元名古屋のホスピタリティーも会議の成功に大きく寄与しました。また,「いのちの共生(Life in Harmony)イニシアティブ」として菅総理より表明した総額20億ドルの支援や,このイニシアティブの下で具体的な支援を行うための「生物多様性日本基金」(平成22年度:10億円)など生物多様性保全のための途上国支援も,締約国からの高い評価を得て,ABS「名古屋議定書」や「愛知目標」合意への推進力となりました。

 

2012年,COP11インドに向けて

私たちのいのちを育む生物多様性のめぐみCOP10は終了しましたが, 2012年にインドで開催されるCOP11までの2年間,日本は引き続き議長を務めます。いのちの共生を,未来へ。「自然と共生する」世界を目指し,国際社会と協力しながら,日本は,「愛知目標」の実現に向けた土台作りや「名古屋議定書」の着実な実施へ向けてリーダーシップを発揮していきます。この関連で,日本が提案している「国連生物多様性のための10年」(2011~2020年)を国連総会で採択するよう勧告することが決定されています。また,「SATOYAMAイニシアティブ」については,51か国・機関が参加する「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ」が創設され,今後活動を進めていきます。

 
 
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