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Vol.57 2010年5月6日
EPAにおけるサービス貿易と人の移動

日本は,2002年にシンガポールとのEPA(経済連携協定)を締結して以来,これまでに11の国・地域とEPAを締結し,5つの国・地域と交渉を続けています。EPAと言えば,自動車などの「モノ」の輸出入の促進が思い起こされますが,「モノ」以外にも「サービス」の貿易や,人の移動なども幅広く扱っているのがEPAです(ニュースでも度々取り上げられているインドネシアやフィリピンからの看護師・介護福祉士候補者の来日もこの一環です)。こうしたEPAやサービス貿易が,日本経済にとってどのような意味を持つのか考えます。

拡大するEPA(経済連携協定)

EPA(経済連携協定)とはEPA(Economic Partnership Agreement)とは,主に二国間で,貿易や投資の自由化・円滑化を進め,幅広い経済関係の強化を目指す協定です。世界中の国の間での貿易自由化を目指すWTO(世界貿易機関)における取組がある一方で,EPAで進む貿易の自由化はとても幅が広く,モノだけでなく,投資やサービス,さらには「人」の国境を越えた経済活動なども対象としています。WTOの場合,「最恵国待遇」の原則(いずれかの国に与える最も有利な待遇を他のすべての加盟国に対しても与えなければならないとの原則)によって,基本的には加盟国が一律の関税率となりますが(例外はあります),EPAの場合は,二国間や複数国間の独自の交渉によって,それよりももっと踏み込んだ自由化が可能となります。このため,近年,EPAはWTOのラウンド交渉を補完する取組として,世界中で締結が進んでいます。

 

日本のEPAの現状

日本は2002年に初めてシンガポールとEPAを締結して以来,主にASEAN諸国とのEPA交渉に力を注いできました。現在,11の国・地域との間でEPAが発効しており,さらに5つの国・地域と交渉を続けています。EPAを締結することで,日本企業が海外に進出しやすくなったり,日本の輸入先が増えて,より安定した食料やエネルギーの確保ができるようになったりします。また,両国間で経済分野の相互依存関係が深まることで,二国間関係の発展にもつながります。つまり,日本と外国がEPAを積極的に結んでいくことで,世界の中で日本が活動しやすい環境を整備することができるのです。

日本のEPAの現状(2010年4月現在)
 
 

貿易は「モノ」から「サービス」へ

貿易といえば,野菜や自動車など「モノ」の輸出入がまず思い出されますが,これ以外にも日々国境を越えて取引されているものがあります。それが「サービス」です。サービス貿易は,貿易の歴史の中では比較的新しい貿易の形で,1980年代以降,先進国を中心に第1次,第2次産業から第3次産業へのシフトが進むにつれて,「モノ」だけでなく,「サービス」も含めた貿易の自由化が議論されるようになりました。「サービス」の大きな特徴は,いわゆる「モノ」と違って,生産と消費が同じタイミングで起きるという点にあります。モノは生産後,しばらくの間ストックしておいて,好きなときに消費することが可能ですが,サービスの場合はそうはいきません。このため,サービスを国際的に取引しようと思ったら,電話や電子的方法で国境を越えてサービスを提供したり,サービスの消費者が海外に行ったりするのでなければ,海外に拠点を設置したり,サービス提供者が移動したりする形でサービスを提供する必要が出てきます。こうしたサービス貿易には,4つの形態があるとされています。

サービス貿易の4形態

「自然人」とは誰のこと?

WTOやEPAの交渉では,一般的な意味での人(人間)のことを「自然人」と呼んでいます。これは法律用語で,権利や義務の主体である個人を意味する「自然人」(natural person)と,会社など法律上の主体である「法人」(juridical person)とを区別しているものです。さらに,EPAでは,WTO協定に倣い,協定を結んだ相手国の国籍を持つ人に加え,相手国の永住者を含むこともあります。本記事中の「人の移動」は,いずれも「自然人の移動」を指しています。

 
 

多岐にわたるサービス貿易分野

ところで,サービス貿易には一体どのようなサービスが含まれるのでしょうか。WTOでは,貿易で扱われるサービスを,実務(弁護士や会計士の仕事やコンピューター・サービスなど),通信,金融,運送,観光・旅行などの分野に分類しています(詳しくはWTO事務局のサービス分類を参照してください)。実にさまざまな分野が含まれていることがわかりますが,国ごとに得意とするサービス分野はそれぞれ異なるため,EPA交渉における関心分野も国によって異なってきます。日本は,主にコンピュータや電気通信,建設,流通,金融,海運などに関連する規制の緩和・撤廃などを強く要望しています。こうした幅広い国際的な経済連携を実現するために,日本は外務省を中心として,経済産業省,総務省,国土交通省,金融庁などと連携して,政府全体として取り組んでいます。

 

EPAにおける「人の移動」

日インドネシアEPA、日フィリピンEPA「人の移動」の概要EPA交渉では,モノやサービスの貿易自由化に加えて,「人の移動」についても協議を行っています。「人の移動」はサービス貿易の形態の一つである「自然人の移動によるサービス提供」が発展したものです。ビジネスマンの円滑な移動に加え,インドネシアとフィリピンからの看護師・介護福祉士候補者の来日は,日・インドネシアEPA(2008年発効),日・フィリピンEPA(同)に基づく「人の移動」の事例の一つです。EPA交渉は通常,最初に日本と相手国が要望を出し合うところからスタートし,何度も交渉を重ねながら,少しずつ互いに譲歩を引き出していきます。日・インドネシアEPAと日・フィリピンEPAのケースでは,両国からの要望の中に看護師・介護福祉士候補者の送り出しがあり,インドネシア人・フィリピン人の看護師・介護福祉士候補者を,日本の入管法が規定する「特定活動」として,新たに受け入れることにしました。

 

EPAで日系企業のビジネス環境整備

日本はEPAの締結交渉において,日本から輸出される自動車部品や電子関連部品など,鉱工業品輸出の関税枠の撤廃などを主に提案してきました。この結果,日本人ビジネスマンなどの「人の移動」に必要な手続きの簡素化などに加えて,相手国との往復貿易額(輸出入額)の9割以上を無税にするEPAを締結することができました。これにより,例えば,現地に生産拠点を置いている日系企業が,国際競争力をより高めやすくなるなど,日本側のビジネス環境整備が今後更に進むことになります。EPAは協定を結んだ国双方にとって,経済的なメリットをもたらすように作られているのです。

 

重要性を増すEPAとサービス貿易

このように,EPAは二国間などでの経済的な結びつきを強めるために,とても重要な役割を果たしています。さらには,経済分野での連携を土台にした政治的な関係強化を,いくつもの二国間で進めていくことによって,東アジアやアジア太平洋など広域での連携・協力体制強化へとつなげていくことができると期待されており,日本はEPAを今後も積極的に進めていく考えです。日本の貿易額全体に占めるサービス貿易の割合は製造業に比べると少ないですが,日本経済の7割をサービス産業が占めている現状を考えると,サービス分野の海外市場へのアクセス拡大はこれからの日本にとって,とても重要なテーマでもあります。サービス貿易の自由化は,例えば関税率が10%から0%になるようには,目に見えないかもしれません。しかし,日本にとって国境を越えたサービス取引がスムーズにできる環境は,EPAの締結・発効とともに着実に整ってきています。

 
 
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