わかる!国際情勢 トップページへ

Vol.56 2010年4月1日
核セキュリティ・サミット~核テロ対策の強化に向けて

世界の首脳陣が核テロ対策について話し合う「核セキュリティ・サミット」が2010年4月12~13日、米国ワシントンで開催されます。核テロリズムの脅威に対処するため、オバマ大統領の提案により開催されるこのサミットが、国際社会でどのような意義を持つのか、核セキュリティの概念や国際社会の取組とともに考えます。

史上初!核セキュリティ・サミット開催

日米首脳会談を行う鳩山総理とオバマ大統領(2009年9月)

(写真提供:内閣広報室)「(核テロリズムは)世界の安全保障に対する、最も差し迫った、かつ最大の脅威だ」――。2009年4月、米国のオバマ大統領はプラハ演説で、国際社会が直面する核テロの脅威についてこう力を込めました。オバマ大統領は、核兵器のない世界を目指すために、核物質の管理徹底や核の闇市場の破壊、国際協力の枠組みを強化するとともに、核セキュリティをテーマとしたサミットの開催を提唱しました。「核セキュリティの強化」というきわめて専門的かつ技術的な分野でサミットを開催するということは、とても異例なことです。それだけ核テロの脅威が、国際社会で大きな課題となっているあかしだと言えます。

核テロリズムの脅威とは?

核セキュリティの話に入る前に、「核テロの脅威」とは一体何を指しているのか、ここで整理しておきましょう。国際原子力機関(IAEA)は、核に関連したテロリズムが起きる可能性として、 (1)核兵器そのものを盗む、(2)核物質を盗んで核爆発装置をつくる、(3)放射線物質を盗んで「汚い爆弾」をつくる、(4)原子力施設、輸送船などを妨害・破壊する、といった4つのケースを想定しています。核兵器はもちろん、原子力発電所や民間の研究施設などに存在する放射性物質も、常に厳重に管理されていますが、これらが何らかの手段によってテロリストの手に渡る可能性は、ゼロとは言い切れません。核テロは起きた時のインパクトがほかのテロ行為に比べてはるかに大きく、万が一そのようなことが起これば、国際社会の平和と安全に与える影響ははかり知れません。

IAEAが想定する核テロリズム
 
 

核セキュリティの重要性

こうした核テロが現実に起きないようにするため、あらかじめ万全の措置を講じることが極めて重要になってきます。これが「核セキュリティ」(Nuclear Security)と呼ばれる考え方で、わかりやすく言い換えれば、「核テロ対策」ということになります。核セキュリティの概念自体は幅広いものですが、IAEAは、核物質や放射性物質が絡んだ盗取、妨害破壊行為、不法アクセス(核施設などへの無許可出入り)、不法移転(売買や譲渡など)といった不正行為に対して、未然に防止するとともに、実際に不正行為が起きていないかを検知し、さらにそれが起きた場合に適切に対応するということを、「核セキュリティ」の概念として位置づけています。この考え方が、近年、重要性を増してきているのです。

 

冷戦時代から続く核テロの懸念

しかし、核テロの脅威は、最近になって急に顕在化してきたわけではありません。歴史をさかのぼると、第2次世界大戦後、米国とソ連を中心にイデオロギー対立が世界を二分した東西冷戦時代から、核テロの脅威は存在していました。ただ、その重要性が広く認識されるようになったのは、冷戦終結後の1991年、ソ連崩壊によって旧ソ連諸国に存在していた核兵器や核物質が不法に持ち出され、世界中に拡散する懸念が高まってからでした。それから10年後の2001年、米国で国際テロ組織による同時多発テロ事件(9.11)が発生したことにより、「核テロの脅威」に対する緊張感は一気に高まりました。また、近年では地球温暖化やエネルギー問題への対策として、原子力発電の導入が世界的に推進されており、「原子力ルネサンス」とも呼ばれる時代に入っていますが、これは一方で、テロのターゲットとなりうる核物質や核関連施設が増えていることでもあり、より一層の対策強化が求められています。

 

核セキュリティ強化(1)冷戦時代からの取組

核セキュリティ強化 国際社会の取組核テロの脅威に対抗するため、国際社会が最初に取り組んだ核セキュリティに関する国際協力の枠組みとして、核物質防護条約(1979年採択)があります。この条約は、核物質を不法に入手したり、使用したりすることを防止・処罰することを目的としたもので、国際輸送中の核物質を守るために必要な防護措置をとることを義務づけています。2005年の改正では、防護の対象が国際輸送中のみならず、国内で使用、貯蔵及び輸送される核物質並びに原子力施設にまで拡大されました。また、IAEAは1975年から、核物質の防護のあり方について勧告を行う文書(ガイドライン)を作成するなどしています。さらに核兵器など大量破壊兵器の拡散防止を目的として、米国は1993年に協調的脅威削減プログラム(CTR)をスタート。旧ソ連圏に残る核兵器を、安全に管理・廃棄するための事業を実施し、大きな成果をあげています。このほか、1994年には、日本や米国などの拠出金によって、モスクワに国際科学技術センター(ISTC)が建設され、旧ソ連の崩壊により仕事を失った旧ソ連圏の核関連研究者・技術者の頭脳・知見などが、核兵器開発の懸念される国やテロリストなどに流出しないよう対策がとられました。

 
 

■ 核セキュリティ強化(2)9.11後の国際的取組

そして、2001年の9月11日の米国同時多発テロ事件以降、核セキュリティ強化の取組は、一気に加速していきます。IAEAは2002年、核テロ防止対策支援のための活動計画を作成するとともに、核セキュリティ基金(NSF)を創設。米国は2004年、地球的規模脅威削減イニシアティブ(GTRI)を掲げ、冷戦時代に米ソから各国へ研究目的に提供した高濃縮ウラン燃料などを回収する活動を開始しました。2005年には核テロ防止条約が採択され(2007年発効)、放射性物質や核爆発装置などの所持・使用を犯罪行為として禁止しました。また、米露両首脳は2006年、核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)を提唱。参加国(2010年3月現在77か国)は、実際に核テロが起きた場合にどう対処するかといった課題について、実務演習や各種セミナーなどを行い、対処能力向上を図っています。

 

核セキュリティ強化(3)国連安全保障理事会決議

安保理決議1887号が採択された「核不拡散・核軍縮に関する安保理首脳会合」(2009年9月)

(写真提供:内閣広報室)国連安全保障理事会は、2004年に安保理決議1540号を採択し、すべての国連加盟国に対して、テロリストなどへの大量破壊兵器等の拡散を禁止するための法的措置をとり、厳格な輸出管理制度を整備することなどを求めました。さらに、2009年には安保理決議1887号(核不拡散及び核軍縮に関する決議)を採択し、核テロの脅威を深刻に懸念した上で、核物質や技術支援がテロリストに利用されることのないよう効果的な措置を講じるよう、すべての国に呼びかけています。4月の核セキュリティ・サミットでは、この点も議論のポイントになると見られています。

 

日本の経験を世界へ

原子力の平和利用のための「3S」日本は第2次世界大戦後、原子力基本法(1955年制定)のもとで、原子力の利用を平和目的に限定し、原子力施設の安全性や核物質の防護体制の強化に努めてきました。原子力関連施設などに対するIAEAの保障措置も積極的に受け入れ、原子力の平和的利用に関する透明性を確保しています。2008年のG8北海道洞爺湖サミットでは、日本が原子力の平和的利用の根本原則である3S(Safeguards, Safety, Security)を提唱し、首脳宣言に盛り込まれました。IAEAの核セキュリティ基金に対しても拠出を行い、特にアジア地域の人材育成(例えば、核物質の計量管理)などに貢献してきています。2010年1月には、2006年11月に続いて東京で「アジア諸国における核セキュリティ強化に関する国際会議」をIAEAと共催しました。

 

核兵器のない世界に向けて

今回の「核セキュリティ・サミット」には、日本を始めとする原発保有国と新規導入検討国、旧ソ連諸国、核兵器国など45か国の首脳級のほか、EU(欧州連合)、国連、IAEAの3機関が参加する予定です。その中には、核兵器不拡散条約(NPT)を締結していないインド、パキスタン及びイスラエルも含まれており、大変意義深いことです。核セキュリティ・サミットでは、核セキュリティに関する既存の国際的な枠組みをいかに強化していくかが話し合われ、そして、参加国の政治的意思を集約した首脳文書が採択される予定です。NPT発効から40年の節目に当たる2010年、核セキュリティ・サミットに続く5月には、ニューヨークの国連本部でNPT運用検討会議も予定されており、今まさに「核兵器のない世界」に向けた新たな一歩が踏み出されようとしています。

 
 
メルマガ登録希望の方はこちらからお申込みください。
ご意見ご感想もお待ちしています。 (外務省国内広報課)
このページのトップへ戻る
目次へ戻る