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Vol.50 2009年12月8日
変わるAPEC~経済危機と新たな成長戦略

第17回APEC首脳会議が2009年11月、シンガポールで開催され、鳩山総理、オバマ・米大統領、胡錦涛・中国国家主席、メドヴェージェフ・ロシア大統領を始めとする各国・地域首脳が参加しました。世界的な経済危機への対応で地域協力が重要さを増すなか、2010年には日本でAPECが開催されます。APECの意義と役割について考えます。

2009年シンガポールAPECで議論された「成長戦略」

成長の持続と地域の連繋強化をテーマに行われた2009年のシンガポールAPECでは、世界的な経済危機への対応として、「成長戦略」が最大のテーマとなりました。会議では、より社会的側面を重視し、成長の果実が広く行き渡るようにするとの考えに基づいた「あまねく広がる成長」(Inclusive Growth)や、気候変動やエネルギーを含む環境面に配慮した「持続可能な成長」(Sustainable Growth)の重要性について、APEC地域での共通認識として確認されました。この結果、アジア太平洋地域において、より内需を拡大し、均衡のとれた成長を達成するために、「あまねく広がる成長」や「持続可能な成長」を含めたより包括的な成長戦略を作ることとし、その具体的内容については、2010年の日本APECで議論されることになりました。また、アジア太平洋地域の連繋強化に関して、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結、保護主義への対抗、地域経済統合などの議論が行われました。

 
 

APECは世界最大規模の経済フォーラム

世界の中のAPECそもそも、APECとはどのような経済的枠組みなのでしょうか。APECは、アジア太平洋地域のほぼ全ての主要国・地域が参加する"世界最大規模"の経済フォーラムです。4大陸にわたる参加国・地域を合わせると、APECは全世界の4割の人口と半分以上のGDPを占めることになります。「貿易・投資の自由化」「貿易・投資の円滑化」「経済・技術協力」を主な活動とし、テロ対策や感染症対策など「人間の安全保障」も主要な課題となっています。活動の中でも、毎年11月頃に開催される首脳会議は、各国・地域の首脳が一堂に会し、直接意見交換をするとても貴重な機会です。

 

冷戦終結とAPECの発足

2009年シンガポールAPECで、意見交換する鳩山総理とラッド豪首相APECは、オーストラリアのホーク首相(当時)の提唱により、1989年に発足しました。当時はドイツで「ベルリンの壁」が崩壊し、第2次世界大戦後の世界を二分した東西冷戦が終結するなど、国際社会はとても大きな転換期を迎えていました。冷戦構造下では、国際社会は「共産主義」と「資本主義」というイデオロギーによって、いわゆる「東側」と「西側」に大別される協調関係を保ってきましたが、冷戦後の世界では、これに代わる新たな国際協調の枠組みを築いていく必要がありました。そこで急速に議論され始めたのが、地理的に近い国・地域が集まって、1つのグループとして力を発揮していく「地域統合」でした。当時、ヨーロッパではすでに欧州連合(EU)の前身である欧州共同体(EC)が発展し、アメリカ大陸では北米自由貿易協定(NAFTA)が締結されるなどしており、続くアジア太平洋地域での経済協力の枠組みとして、APECは誕生しました。APECに参加する国は当初12でしたが、現在では、チャイニーズ・タイペイ(台湾)や中国の特別行政区である香港、中南米の国々などを含む21の国・地域にまで拡大しています。

世界の中のAPEC
 
 

APECのオープンで緩やかな協力関係

APECは、参加国・地域の「自主性」と「協調性」を尊重しています。このため、メンバーを法的に拘束することはせず、「緩やかな政府間協力の枠組み」という性格を維持しています。APECの会合では、APECとしての方針を決定する場合など、決して多数決は行わず、全メンバーの合意(コンセンサス)を原則としています。さらに、アジア太平洋地域内だけでなく、域外の国・地域に対しても、貿易・投資の自由化などの成果を分かち合う「開かれた地域協力」を基本姿勢に掲げています。これらは、EUやNAFTAのような地域統合の形とやや異なる特徴と言えます。

 

APECとビジネス界の協力

また、ビジネス関係者の意見をフォーラムに反映できるという点も、APECの大きな特徴です。APECには、ビジネス界を代表する民間の委員(各国・地域から3人以内を選出)で構成するAPECビジネス諮問委員会(ABAC)があり、自由で開かれた貿易と投資を達成するためにはどうしたらいいか、首脳や関係閣僚などに提言を行っています。外務省の海外在留邦人数調査(2008年)によれば、ビジネスなどの理由で海外に居住する日本人110万人のうち7割以上が、APEC域内で活動しています。この数字からもわかるように、日本経済にとって、APECメンバーの貿易・投資関係、さらにAPECビジネス諮問委員会は、とても重要な役割を担っていると言えます。

とっても便利!APECビジネス・トラベル・カード

貿易や投資をスムーズに行うためには、国境を越えて活動するビジネス関係者の移動をスムーズにすることが欠かせません。このため、APECでは、APECビジネス・トラベル・カード(ABTC)という独自の制度を設けています。ABTCは、適正な経済活動を行っている一定の要件を満たしたビジネス関係者に対して、ABTC制度に参加している国・地域の査証(ビザ)を免除したり、入国の際に専用レーンを利用できるようにしたりして、入国審査の手間と時間を軽減しています(日本は2003年4月からABTC制度に参加)。このABTCは、カードを「使う側」である APECビジネス諮問委員会(ABAC)の提言で実現されたものです。

 

自由で開かれた貿易と投資に向けて

APECは、大きく分けて2つの側面から域内の貿易・投資を促進してきました。1つは、域内の関税・非関税障壁だけでなく、サービス、投資などの分野でも障壁をなくすこと。もう1つは、貿易や投資に関する手続を簡易化したり、基準を調和させたりして、ヒト・モノ・カネの移動をスムーズにすることです。これらを着実に前進させるため、1994年のAPEC首脳会議(インドネシア・ボゴール)で、先進国・地域は2010年まで、途上国・地域は2020年までに、自由で開かれた貿易と投資を達成することを目指すボゴール目標が採択されました。続く1995年の首脳会議(日本・大阪)では、ボゴール目標を具体化するための"道筋"として、関税手続や規制緩和などの一般原則と枠組みを定めた大阪行動指針(OAA)が採択され、その後も個別の行動計画が策定されています。

 
 

時代とともに進化するAPEC

1989年のAPEC発足から約20年、APECは国際情勢の変化に対応する形で、その役割も徐々に変化してきました。もとは経済分野での広域的な協力を目的とし、政治色を排していたAPECですが、世界中を震かんさせた2001年9月11日の米国同時多発テロ事件を境に、人間の安全保障という観点からも地域協力のあり方を考えるフォーラムへと進化してきました。具体的には、2003年、「テロ対策タスクフォース」が設置され、テロ対策の促進・調整、テロ対策に資する能力向上支援の検討などの話合いが行われています。また、新型インフルエンザなどの感染症対策や気候変動問題、食料安全保障などについても、APECが提言を行い、地域の情勢変化に対応するフォーラムへと変わってきています。

APECの歩み
 

リーマンショックで加速する自由貿易圏構想

2009年シンガポールAPECで閣僚会議に出席する岡田外務大臣さらに、近年では、米国証券大手「リーマン・ブラザーズ」の経営破たんに端を発する金融危機をきっかけに、地域の経済連携を強化する「アジア太平洋の自由貿易圏」(FTAAP)の実現に向けた本格的な検討も始まっています。これは、アジア太平洋地域で、一体的に貿易や投資、経済、金融政策に取り組み、安定した地域経済を実現していこうとするもので、2009年11月のシンガポールAPEC首脳会議では、ビジネス環境の改善と連携強化の方策について、総合的なアプローチによって地域経済統合を加速させていくことで合意しました。どのような道筋でFTAAP構想を実現していくかについては、すでに動き出している経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)のあり方も含めて、これから議論していくことになります。

APEC改革~事務局長の公募制スタート

時代の変化とともにAPECの役割が重層化する中で、APECでは専門性を高める改革も進んでいます。例えば、APECの事務局長は、これまで1年交代で会合を主催するホスト国・地域から派遣されてきましたが、効率よくAPEC活動を継続するため、2010年1月からは、公募で選ばれた専任の事務局長(任期3年)を置くことになりました。このほかにも、事務局に地域経済の専門知識を持つスタッフを集めた「政策支援ユニット」を設立するなどし、専門性を高めるためのさまざまな工夫が行われています。

 
 

“Change and Action” 2010年APECの日本開催へ

2009年11月のシンガポールAPEC閣僚会議このように、時代とともに徐々に重層的な役割を担うようになってきたAPECは、先進国・地域の「ボゴール目標」の達成年である2010年に、ひとつの大きな節目を迎えます。その2010年、日本はAPECの議長を務めることになります。これから約1年間、全国各地でさまざまなAPEC関連会合が開催されますが、日本は議長としてリーダーシップを発揮し、ボゴール目標の達成状況に関する透明性・信頼性の高い評価作業を進め、成長戦略の具体化に関する議論をまとめていきます。2010年APECのテーマは"Change and Action"(チェンジ・アンド・アクション)。2011年の議長である米国とも連携して、APECの再構築を図り、新しい価値を見出すため、日本は全力を尽くしていきます。

 
 
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