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Vol.5 2008年8月13日
WTOドーハ・ラウンド交渉~自由貿易体制の共通インフラ強化~

閣僚会合の開催と決裂
7月21日~29日、スイス・ジュネーブの世界貿易機関(WTO)本部において、全加盟国153カ国の参加の下、農産品及び鉱工業品他の関税率削減の方式などの合意を目的とする閣僚会合が開催されました。1週間以上にわたって閣僚レベルでの議論が行われたにもかかわらず、会合は最終的な合意に達することなく、終了しました。 このことは、日本にとってどのような意味をもつのでしょうか。

WTOの設立と新ラウンドの開始

(1) GATTからWTOへ
第二次世界大戦後の世界貿易は、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)により規律されてきました。加盟国は他の全ての加盟国に同等の貿易条件を与えること(最恵国待遇)、輸入品と国産品を同等に扱うこと(内国民待遇)などを原則としているGATTは、国際貿易のルールとして世界経済の発展に貢献しました。GATT加盟国は、8度にわたる自由化交渉(ラウンド)を実施し、貿易の拡大に貢献しました。このGATTを発展的に解消する形で、1995年1月、WTOが設立されました。
 WTOはGATTの下で自由化交渉の対象とされていた分野の拡大を図り、更に従来より存在していたルールの強化などを通じ、世界経済の発展に貢献しています。例えば、GATTは「モノの貿易」のみをその規律対象としていましたが、WTOでは経済構造の変化を受けて重要性を増した「サービス貿易」や「知的財産権」に関してもルールを策定し、自由化交渉の対象としています。また、貿易紛争を解決する手続の強化によって、一方的な制裁措置の発動などが抑制され、紛争が迅速に処理されていることも、WTO体制で拡充された重要な点の一つでしょう。

多角的貿易体制の発展 GATTからWTOへ
 

(2) ドーハ・ラウンドの開始
「ラウンド」とは、全ての加盟国が参加して行われる貿易自由化交渉を意味します。GATT時代には、1947年にジュネーブにおいて第一回目の交渉が行われたのを皮切りに、その時々の世界経済の要請に応える形で、1994年に終了したウルグアイ・ラウンドに至るまで、合計8回のラウンド交渉が行われました。このラウンドの歴史の中では、例えば、1964~67年に行われたケネディ・ラウンドにおいては、「工業品関税の一律50%下げ」という画期的な原則が採用され、貿易の自由化に大きく貢献しました。また、ウルグアイ・ラウンドでは、サービス貿易や知的財産権など、いわゆる新分野へのルールの適用や、WTOという国際機関の設立を始めとする機構面の強化などが決定されました。
その後、このWTO体制の下で初めて開始されたのがドーハ・ラウンドです。それでは、この交渉はいかなる状況で始まったのでしょうか。

 

ドーハ・ラウンド交渉

(1) ドーハ開発アジェンダ(Doha Development Agenda)
「ドーハ開発アジェンダ」の正式名称が示すとおり、今回の交渉において最も重要な課題の一つが、貿易を通じた途上国の開発です。WTOにおける開発問題
 2008年8月現在のWTOの加盟国数は153に上りますが、そのうち5分の4を途上国が占めるに至っています。意思決定をコンセンサス方式で行うことを慣行とするWTOにおいて、これらの国々の声を無視しては物事を進めることはできません。また、途上国の中には、いわば国内産業と他国産業との競争条件を同等にすることを求めるWTOのルールや規律を遵守する上で様々な困難に直面する国が多いのも実情です。これは、権利と義務の関係の均衡の上に成り立っているWTO協定実施の実効性にかかわる深刻な問題であり、全ての参加国に適用される新たなルール作りを妨げる要因ともなっています。
 ドーハ閣僚宣言においてはこれらの途上国に対する配慮の重要性が確認され、先進国と途上国の置かれた状況の違いに配慮しつつ、多くの国の錯綜する利害を一つのパッケージにまとめようという壮大な試みが始まりました。

(2) 交渉分野
ドーハ・ラウンドでは、7つの分野において2002年1月から交渉を開始することが決まりました。それぞれの交渉分野には、交渉をまとめていくための議長が置かれ、原則として、ジュネーブに常駐する各国大使が交渉の議長を務めています。

交渉分野
内容
2008年8月現在の
議長出身国※
農業
関税・国内補助金の削減、輸出補助金の撤廃など
NZ
非農産品(NAMA)
鉱工業品及び林水産品の関税削減など
カナダ
サービス
サービスの市場アクセス、国内規制など
メキシコ
ルール
アンチ・ダンピング協定、補助金協定等の規律の強化
ウルグアイ
紛争解決
紛争解決手続了解の改正
コスタリカ
開発
途上国に対する扱い、「貿易のための援助」の促進
タイ
貿易と環境
貿易の側面から環境問題を検討
フィリピン
 

(3) 交渉の経緯(本年7月閣僚会合に至るまで)
こうした枠組みの中で、ドーハ閣僚宣言の定めた2005年1月という交渉期限を見据えつつ、実質的な交渉が開始されましたが、その後、先進国と途上国間の意見の不一致等を背景に期限は度々延長されてきました。特に、2006年7月には貿易歪曲的国内補助金や鉱工業品他の関税引下げのレベル等を巡り意見が対立し、一旦交渉は中断しました。
しかしながら、昨年1月には再び本格的に交渉が再開され、農産品及び鉱工業品他の関税を品目毎に一律に削減する方法に関して各国共通のルールを確立すること等を目指し、ジュネーブにおける交渉会合の他、様々なレベル、形態での交渉が精力的に行われました。その結果、昨年7月には議論の土台となる数字を含む農業交渉議長案、NAMA交渉議長案が提出されました。さらに本年2月、5月、7月には、争点に関して幅を持たせていた数字を徐々に収れんさせた改訂議長案が提出され、合意に向けて一定の方向性が見られるようになりました。

(4) 交渉の論点
この交渉で最も焦点が当たっている3つの論点が、1.農産品の関税削減(農業市場アクセス)等、2.国内農業保護のための補助金の削減(農業国内支持)及び3.鉱工業品及び水林産品の関税削減(非農産品市場アクセス)です。

主要論点に関する主要国・グループの立場

これらの論点に関し日本は、1.では農業の多面的機能を理由として、鉱工業品のような関税率の一律削減ではなく、現実的でかつ柔軟性を確保した削減方法を主張しています。一方、2.については、国内農家に多額の補助金を支給している米国に対し、補助金の削減により公正な価格で農産品が市場に出荷されるよう求めています。最後に3.については、国内産業の保護を理由に高関税を維持する途上国に対し、関税の削減を求めています。 いずれの論点もそれぞれの国の国益に直結する問題であり、各国の主張の隔たりがなかなか埋まらない中、農業及び非農産品の関税削減方法への合意を政治的判断に委ねるべく、本年7月21日から、ジュネーブにおいて閣僚会合が開催されました。

WTOドーハ・ラウンド工程表
 
 

閣僚会合の開催

閣僚会合の開催前、ラミーWTO事務局長はその成功の可能性を「50%」と評価しました。事実、交渉は先進国と途上国との間の激しいやりとりで開始されました。その後我が国を含む少数国会合の場等で議論の収れんが図られ、6日目には先進国と途上国の歩み寄りを促す議長調停案が提示されました。これにより、交渉全体が大筋合意へ向けて大きく前進したとの認識が参加国の間に広まりました。
しかしながら、途上国が国内農業保護のために一時的に輸入を抑制することを許容する特別セーフガード(農業分野)の発動基準について米国とインド等の途上国との間で意見がまとまらなかったことを主たる要因として、今回の閣僚会合において合意に至ることはできませんでした。

「自由貿易体制」が今や広く浸透し、空気のような存在になりつつある現代においては、それが世界経済の成長の維持に不可欠なインフラであるという事実が認識されにくくなっています。しかしながら、昨今の食糧やエネルギー価格の高騰問題においても垣間見ることが出来るように、資源小国、貿易立国である日本にとって、WTO協定がその基礎を成している多角的自由貿易体制を維持・発展させることは極めて重要であり、今後も対外経済関係に係る外交政策の基本に据えて取り組むことが必要です。
今回の閣僚会合は残念ながら合意に至りませんでしたが、日本は、今後とも、各国と連携しつつ、ドーハ・ラウンドというパッケージの合意に向けて取り組んでいくことが求められています。

 
 
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