わかる!国際情勢 トップページへ

Vol.47 2009年10月28日
インフルエンザ・パンデミック~WHO(世界保健機関)の役割

2009年4月に北米大陸で発生した新型インフルエンザは、瞬く間に世界中に拡散し、6月11日(ジュネーブ時間)、WHO(世界保健機関)は21世紀に入って初めてインフルエンザ・パンデミック(世界的大流行)を宣言しました。国境を越えて拡大するインフルエンザに対し、WHOが果たしている役割と国際社会の取り組みについて解説します。

人類史上繰り返されるパンデミック

新型インフルエンザとは、インフルエンザウィルスがヒトと動物(鳥、豚等)の間で感染を繰り返すうちにウィルスがヒトの間で流行しやすい型に変異したものを言います。人類は、新型インフルエンザに対する免疫を持っていないため、感染が拡大してインフルエンザ・パンデミックが引き起こされます。パンデミックは、1918~19年のスペイン風邪、1957~58年のアジア風邪、1968~69年の香港風邪など、過去10~40年の周期で発生してきました。WHO設立前に発生したスペイン風邪では患者数は世界人口の25~30%に及び、死者は4千万人に達したと言われています。こうしたことからWHOは、パンデミックはいつ発生してもおかしくなく、国際交通が飛躍的に発達した現代社会においては、瞬く間に全世界に被害をもたらすおそれがあると警戒してきました。

今年のインフルエンザワクチンの型はどれ?

毎年冬になると、インフルエンザの予防接種をする人も多いと思いますが、このインフルエンザは季節性インフルエンザと呼ばれ、毎年流行しているインフルエンザに対する予防接種です。ワクチンが開発されていない新型インフルエンザに対する予防接種とは異なります。でも、これまで流行った沢山の季節性インフルエンザ(香港型、A型など)の中から、私たちは一体どの型のワクチンを接種しているのでしょうか?実はこれ、毎年、WHOが決めています。WHOの専門家たちが、各国の研究施設から寄せられた情報を元に、毎年のインフルエンザの流行を予測しています。そしてそれにあった種(たね)ウィルスをワクチン製造業者に分配し、ワクチンが製造されているというわけです。

 

すべての人々が最高の健康水準に達することを目指して

感染症対策(ポリオの予防接種)を受ける子ども(提供:WHO)そもそもWHOは、1945年、国連設立のために集まった51の国により、保健分野における国際専門機関設立の必要性が話し合われ、1948年、世界保健機関憲章の発効をもって設立されました。「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」(憲章第1条)を目的とし、現在は193の国と地域が加盟しています。インフルエンザなどの感染症対策のほか、非感染性疾患(生活習慣病)、母子保健、医薬品、保健医療システム、水・衛生、食品安全など、極めて幅広い分野で権威ある国際機関としてルール作りや各国保健当局への技術指導などを実施しています。

 
 

パンデミックに向けた危機管理体制の強化

インフルエンザ・パンデミックに対する警戒感が特に高まったのは、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行と強毒性の鳥インフルエンザ(H5N1)のヒトへの感染からです。2005年には鳥インフルエンザによる感染者の死亡が急増し、WHOの危機管理に関する役割に注目が集まりました。そして2007年、全面的に改定された国際保健規則が発効し、インフルエンザなどの感染症、化学汚染、放射能汚染など、国境を越えて急速に拡大し、人々の健康に重大な影響を及ぼす事案について、加盟国の保健当局がWHOの枠組みの下で対処するためのネットワークが構築されました。加盟国は、こうした事案について48時間以内にWHOに報告することが義務づけられています。WHO事務局長は、国際的に重大な事態と判断されれば、その分野の専門家からなる緊急委員会を招集します。

鳥インフルエンザ(H5N1)発生国及び人での発症事例(2003年11月以降)

動物インフルエンザが変異して、ヒト・ヒトに感染すると新型?

インフルエンザウィルスには、ヒトの間で毎年のように流行する「A香港型」「Aソ連型」等の「季節性インフルエンザ」がありますが、鳥や豚等の動物の間でもいろいろなかたちのインフルエンザウィルスが存在し、これらは「鳥インフルエンザ」「豚インフルエンザ」等と呼ばれています。こうした動物のインフルエンザがヒトからヒトに感染しやすいかたちに変異すると、「新型インフルエンザ」と呼ばれます。新型インフルエンザは、季節性インフルエンザと違ってほとんどの人に免疫がなく大流行するので、警戒しなければならないのです。すっかり耳慣れた「フェーズ」ですが、これは2005年にインフルエンザの感染拡大状況を示す警戒水準として設定されたものです。動物のインフルエンザが変異して、ヒトからヒトに持続的に感染していることが確認されると「フェーズ4」となり、「新型インフルエンザ」の発生になります。そして、大陸・地域を超えた拡散が確認されると最高位の「フェーズ6」となり、「パンデミック」となります。なお、H5N1型鳥インフルエンザは、現段階では主にトリからヒトに感染しており、ヒトからヒトへの感染はごく限定的であることから、「フェーズ3」とされています。

 
 

WHOが発出する「フェーズ」「深刻度」「勧告」

WHO事務局長は、この緊急委員会の検討結果を踏まえ、警戒水準レベル=フェーズの決定をおこなうと同時に、感染による症状や毒性の強さなどから「深刻度」についても明らかにします。さらに、フェーズや深刻度などを基に各国に対する「勧告」を行うことができます。「勧告」は、国際保健規則で定められており、「医学的検査」「予防接種」「渡航制限」「国境封鎖」「隔離」などの措置を、「実施すべき」または「実施すべきではない」といったかたちを取ります。なお、「勧告」以外にも、「抗ウィルス薬の使用上の注意として予防投与はしないように」、「ワクチンは医療従事者やリスクの高い人々に」「豚インフルという名称は使わないように」と言ったアドバイスを出すこともあります。

インフルエンザ・パンデミックに関わるWHOの発表
 

情報共有ネットワークが効果を発揮

WHOの新しいネットワークが初めて効果を発揮したのが2009年の新型インフルエンザ(H1N1)です。WHO本部の危機管理センターには各国から報告された感染の状況が集約され、WHOの発する情報や緊急委員会の議論には世界中の関心が集まりました。最終的に6月11日にフェーズ6=パンデミックが宣言されましたが、同時に、H1N1型ウィルスの深刻度は「中度」であり、大多数は軽症であるが一部で重症例もあり注意を怠ってはならないと呼びかけつつ、「渡航制限や国境封鎖を実施すべきではない」との勧告を行いました。このように、WHOや各国政府が適切な判断や対応を取るためには、各国からの迅速な情報提供がきわめて大きな役割を果たします。

 

途上国の情報収集・分析体制が鍵を握る

新型インフルエンザの被害を最小限に食い止めるためには、まず、ウィルスの変異や新型ウィルスの発生をなるべく早い段階で発見することが重要です。未知のウィルスを確認するためには、体系的な情報収集体制と、相当高度な分析能力を必要としますが、現状では、多くの途上国において、十分な水準の設備と技能が備わっているとはいえません。このため、途上国の公衆衛生状況やウィルスの調査・分析を行う体制を整えることが急務と考えられます。この観点から日本は、近隣であるアジア地域に重点を置いて、情報収集(サーベイランス)の体制を強化したり、H5N1型のような病原性が高く、危険なウィルスを扱うことのできるレベルの研究所を整備することで、ウィルスの耐性・変異などをいち早く調査・分析できる体制を整えることが重要であると考えています。現在、日本は、鳥インフルエンザ(H5N1)が多く発生しているベトナムやインドネシアなどで、研究所の拡充、専門家の育成などの支援に取り組んでいます。

 
 

ワクチンはインフルエンザ対策の要

高い予防効果が認められているワクチン接種もうひとつ、インフルエンザ対策として有効なのがワクチンの予防接種です。予防接種によって、インフルエンザに感染しても重症化を防ぐことができます。新型インフルエンザワクチンは、新型ウィルスに感染したヒトのウィルスサンプル(検体)から作られるため、製造までに約半年を必要とします。しかし、ワクチン生産量には限りがあり、資金のない途上国は、ワクチンを入手することが極めて困難となります。このため、9月17日、米オバマ大統領は自国のワクチンの10%を途上国に提供することを表明し、英、仏、豪、独も支援を表明しました。日本も、これら主要先進国と歩調をあわせ、9月24日、緊急に実施すべき措置として約11億円の新型インフルエンザワクチンのための資金協力を発表しました。

 

アジアに対する日本の支援~抗ウィルス剤、住民啓発

こうしたワクチン支援の他に、日本は、鳥・新型インフルエンザ対策に関する対アジア支援として抗ウィルス剤100万人分をシンガポールに備蓄し、50万人分をASEAN各国に配布しました。また、日本はユニセフなどの国際機関を通じて途上国での住民啓発活動を支援してきています。予防方法や感染した場合の対応などについて草の根レベルで啓発活動を行うことは、有効な対策の一つであり、高く評価されています。こうした日本の支援は、2009年3月までに総額3.25億ドルに上っており、米国に次ぐ援助となっています。

参考:日本の支援実績(2005年以降)





 

パンデミックに立ち向かう国際社会

新型インフルエンザは国境を越えて急速に広がるため、国際社会の一致した取組が必要です。今回の新型インフルエンザ(H1N1)対策として、WHOと国連は、途上国が必要とする支援を調査してきましたが、2009年9月、今後1年間で総額14.8億ドルの資金が必要であるとの見解を示しました。この資金により、ワクチンと抗ウィルス剤の途上国への配布、途上国における対策の強化などを行う必要があるとしています。ワクチン製造を巡る課題や途上国の体制整備などを克服し、今後発生が想定される新型ウィルスや人類に深刻な影響を与えうるパンデミックに対し、WHOが一層効果的に機能することが望まれます。

 
 
メルマガ登録希望の方はこちらからお申込みください。
ご意見ご感想もお待ちしています。 (外務省国内広報課)
このページのトップへ戻る
目次へ戻る