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Vol.46 2009年10月9日
地球に生きる生命の条約~生物多様性条約と日本の取組

"地球に生きる生命の条約"とも呼ばれる「生物多様性条約」。その第10回締約国会議(COP10)が2010年10月、愛知県名古屋市で開催されます。地球上でつながるすべての「いのち」を守るための国際的な枠組みと日本の取組について解説します。

生物多様性とは?~地球に生きる豊かな生命

地球に生命が誕生してから約40億年。この間、海、川、森、大地のあらゆる場所で、実に多種多様な生命の営みが生まれ、進化と絶滅を繰り返してきました。科学的に明らかな生物種は約175万種ですが、このほかに今なお未知の生物を含めると、地球には約3,000万種にも上る生物が暮らしていると言われています。こうした多種多様な生き物と、それらがつながってバランスが保たれている生態系、さらに生物が過去から未来へと伝える遺伝子の個性までを含めた生命の豊かさを、生物多様性(Biodiversity)といいます。

生物の多様性(3つの多様性)
 
 

生物多様性の恵み

私たち人間は、地球に暮らす多様な生物の一員として、ありとあらゆる分野で豊かな自然の恵みを受けています。住んでいる国や地域にかかわらず、衣服や食料、住居、医療、文化・芸術や教育、生活環境や防災、経済産業の分野に至るまで、すべての人間の生活は「生物多様性の恵み」の上に成り立っており、これらを自然が人間にもたらす「サービス」と捉えて、「生態系サービス」と呼ばれています。

自然の恵み(生態系サービス)

ミレニアム生態系評価

私たち人間が「自然の恵み」として享受している生態系サービスは、国際的にはその機能に着目して大きく4つに分類されています。これは、国連の呼びかけで2001年に実施されたミレニアム生態系評価(MA)という国際調査に基づいています。

  1. 基盤的サービス:水や土壌などの生息環境を形成する機能
  2. 調整サービス:空気の浄化や洪水の抑止など環境変化や汚染を緩和する機能
  3. 供給サービス:食料や木材、燃料、医薬品などを供給する機能
  4. 文化的サービス:レクリエーションの機会や文化・精神面での充足を与える機能

 
 

忍び寄る生物多様性の危機

ところが今、この生物多様性が重大な危機にさらされています。それは主に、資源の過剰利用、土地改変、外来生物の持ち込み、気候変動、環境汚染など、私たち人間の活動が引き起こしてしまったもので、私たちの身近なところでその悪影響が出始めています。例えば、沖縄県ではハブを駆除するために外国から持ち込まれたマングースが、ヤンバルクイナなど固有種を減少させ、滋賀県ではブラックバスが琵琶湖の生態系を壊しています。地球温暖化は高山植物やサンゴ礁などの希少種の生息域を狭め、絶滅危惧種を増やしています。自然界ではすべての生物がつながり、大きな循環のなかで生きています。生態系は何かひとつが少し変化しただけで、全体のバランスが大きく崩れ、さまざまなところへ影響を及ぼしてしまうのです。

生物多様性の危機
 

包括的な国際条約の必要性

生物多様性をめぐる世界の動き生態系の変化は20世紀に入って加速度的に起きるようになったと言われていますが、それが顕著に表れてきたのは1970年代頃からでした。当時、世界各国が急速な工業化を遂げたのに伴い、酸性雨、自然破壊、地球温暖化、野生生物の絶滅といった問題が深刻化。これに対応する形で、国際社会はワシントン条約ラムサール条約などの国際条約を成立させました。その一方で、特定の地域・種の保全だけでは、複雑につながっている動植物の生息環境や生態系の保全には、不十分であることも認識されるようになりました。こうして、生物に関する包括的な枠組みとして、1992年、ブラジル・リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)に合わせ、生物多様性条約が採択されました。

 
 

生物多様性条約の3つの目的

生物多様性条約の目的は3つあります。1つ目は、地球上の多様な生物を生息環境とともに保全すること。2つ目は、生物資源を持続可能であるように利用すること。3つ目は、遺伝資源の利用から生ずる利益を、公正・衡平に配分することです。例えば、先進国の製薬会社が、途上国の熱帯雨林に生息する生物の遺伝資源を利用して新しい医薬品開発を行った場合、製薬会社は特許をとるなどして利益を上げることができますが、その遺伝資源が存在する途上国側には何の恩恵もありません。こうしたことから、利益を公正かつ衡平に配分するための国際的な枠組作りが、COP10での合意を目標に進められています。

 

締約国会議(COP)とカルタヘナ議定書

生物多様性条約の締約国は、2009年9月末現在、191か国に拡大しています。具体的な行動計画などを話し合う締約国会議(COP:Conference of Parties)は1994年にスタートし、これまでに9回開催。生態系に悪影響を及ぼす恐れのある遺伝子組換生物(LMO)の国境移動に一定の規制を加えるカルタヘナ議定書を採択したほか、「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という2010年目標を設定するなどしてきました。COPは扱うテーマの広さから関係機関も多岐にわたり、締約国のほかに、国際機関、環境NGO、民間企業、さらには自然と共生する文化習慣を受け継ぐ先住民族など、多様なアクターがオブザーバー参加するようになっています。

 

2010年のCOP10は名古屋で開催

多種多様な生命を育む森と渓流そして、次回、第10回締約国会議(COP10)は、2010年10月に愛知県名古屋市で開催されます。前回のCOP9(2008年5月)以降、北海道洞爺湖サミットでは首脳宣言で生物多様性の重要性が確認され、2009年7月のイタリア・ラクイラサミットでは「生物多様性に関するシラクーザ宣言」がG8環境大臣会合から報告されています。こうした国際的な機運の高まりのなかで開催されるCOP10で、日本は議長国を務めることになります。

 

COP10の論点(1)ポスト2010年目標の設定

COP10での議論には3つのポイントがあります。第1に、COP6(オランダ・ハーグ)で設定された「2010年目標」の達成状況を評価し、これに代わる新たな目標を設定することです。2010年目標は「生物多様性の損失の速度を2010年までに著しく減少させる」というものですが、すでに「達成できない」とする見方が大勢を占めています。また、この目標は抽象的過ぎて具体的な手法が提示されていない、達成状況を客観的に評価する手法がない、といった指摘がされています。このため、いわゆる"ポスト2010年目標"では、明確で各国の積極的な行動を促すような目標を掲げる必要があります。そのためには、全ての人々が共通に追求する中長期(2050年)、短期(2020年)の目標の議論とともに、その目標を達成するための分野ごと、テーマごとの個別目標を、達成手法、数値指標を含めて議論していく必要があります。

 
 

COP10の論点(2)遺伝資源の利益分配に国際合意

第2に、遺伝資源の「利用」と「利益の分配」について、途上国と先進国の双方が、生物多様性の恩恵を得られるような国際体制を作っていくことです。前述の医薬品開発の例のように、現在、先進国側が途上国に生息する生物の遺伝資源を使って利益を上げた場合、途上国への利益の還元はありません。しかし、熱帯雨林など途上国の豊かな自然の中に原生する生物の遺伝資源が基になって得られた利益は、先進国と途上国の双方に還元されなければならず、そのための国際的な体制をこれから作る必要があります。途上国は、先進国の「特許制度」について、「途上国の同意なしに特許権を付与しない」といった改正を求めていますが、先進国がこれに応えるには限界があると言われています。双方の意見を集約する形で、どこまで途上国の遺伝資源の利益を守ることができるかが、COP10での大きな課題です。

 

COP10の論点(3)カルタヘナ議定書に「責任と救済」のルール

3点目は、カルタヘナ議定書に関して、輸入された遺伝子組換生物(LMO)が自然界に放出されて悪影響(損害)が発生した場合に、誰が「責任」を負い、どのような「救済」がなされるべきかについて、国際的なルールとして明確にすることです。遺伝子組換生物は、人類に大きな便益をもたらす可能性がありますが、その一方で、生態系に対して悪影響が生じるおそれが指摘されています。生態系の変化とその要因を正確に把握するのはとても難しいことですが、一度失われた生態系はそう簡単には取り戻せません。地球規模の目標とともに、現実的な取組が極めて重要となってきます。

 

日本の里山から世界へ~SATOYAMAイニシアティブ

生物多様性の保全上、重要な役割を担う里地里山日本には「里地里山」という言葉がありますが、日本人は昔から集落近くの森林で、薪や木材、山菜や鳥獣などをとって暮らす生活を送ってきました。四季折々の自然の恵みに感謝し、決して食料や燃料を取りすぎず、一定のサイクルでうまく資源が循環する仕組みを作り上げてきました。このような日本の人間と自然が共生する知恵をベースに、世界各地にも存在する自然共生の知恵や伝統を合わせて、自然資源の持続可能な管理・利用のため共通の理念を構築し、世界各地における自然共生社会の実現にいかしていく取組を、環境省が中心となり、国連大学高等研究所(UNU-IAS)などと共に、「SATOYAMAイニシアティブ」として推進しています。生物多様性条約は「地球に生きる生命の条約」です。国際生物多様性年でもある2010年、またそれ以降に向けて、日本はすべての「いのち」を未来へつなぐ取組に積極的に貢献していきます。

 
 
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