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Vol.44 2009年8月28日
農地争奪と食料安全保障

2008年の食料価格高騰を契機に、食料輸入国の企業などがアジアやアフリカなどに対する大型農業投資を活発化させています。この動きは世界中のメディアによって"農地争奪"(land grab)という言葉で盛んに報じられ、国連食糧農業機関(FAO)は"新植民地主義"として警鐘を鳴らしています。世界の農業投資と食料安全保障をめぐる国際社会の動向について解説します。

加速するグローバルな農地争奪

世界中で加速的に起きている大型農業投資は、政府が投資元となることはほとんどなく、商社など民間企業が主体となって行われています。企業は、投資先の途上国で土地所有権を取得せず、数十年の長期貸借契約を結ぶケースが多くなっています。中国、韓国、中東諸国などの企業が活発な動きを見せていると報じられていますが、その中でもいくつかの特徴的な事例を基に、世界で今何が起きているのかを見てみましょう。

 

増え続ける人口と食料問題

13億人(2008年)という世界最大の人口を抱える中国は、急速な経済成長とともに今後約10年で人口が14億人を超えると予測されており、将来にわたって食料確保が大きな課題となっています。モザンビークミャンマーラオスなどで、米や大豆、とうもろこしなどの穀物を生産し、余剰分を中国へ輸出する予定と言われています。2025年には中国を抜いて世界一の人口(14億4700万人)に達すると推計されているインドも、各国に追随する形で食料確保に向けた農業投資を拡大しています。例えば、インド企業は、マダガスカルで米作用農地のリース契約を計画。また、エチオピアでも複数のインド企業がインド政府の支援を得て、砂糖や茶などの生産に向けた土地リースや工場設置を進めていると報じられています。

 

水資源を守るための海外農業投資

国土の大半が砂漠気候で水資源にも乏しいサウジアラビアは、食料の自給自足を目指した農業政策を早くから採用し、小麦の生産では1985年に自給自足を達成、翌年からは余剰分を輸出するまでになりました。しかし、農地を潤すのに必要な大量の水利用が、将来にわたって国内の水需給バランスに影響をもたらす恐れがあることから、1993年以降、段階的に小麦の生産削減を実施。現在は、自給自足体制も見直し、小麦供給を外国からの輸入に切り替える大幅な政策変更の方針を示した上で、タイなどへの農業投資を進めているとされています。

 

報道がもたらした社会の混乱

農地争奪に関する報道が社会の混乱を招いたケースもあります。2008年11月、韓国の企業が、マダガスカル政府から農地130万ヘクタール(国内農地の半分)を99年間無料で賃貸する契約を締結したとニュースで報じられ、これがマダガスカル国内の政府批判につながりました。マダガスカル政府は、同社がとうもろこしなどの大規模栽培事業投資に関心を示したことを受けて、土地の踏査を目的とした覚え書きを結んだものの、契約締結や土地の無償提供の事実はないと報道内容を公式に否定。しかし、この報道が一つの契機となって政争が激化し、政権交代へとつながりました。

 
 

世界的な人口増加と忍び寄る食料危機のリスク

世界各地で農地争奪が加速している背景には、世界的な食料危機への不安があります。2009年現在、世界人口67億人のうち10億人以上が栄養不足状態にあると言われていますが、アジアやアフリカの途上国を中心に世界人口は2050年には90億人を越える見通しで、このままでは安定的な食料供給の確保ができなくなることを示唆しています。さらに、穀物輸出国の輸出規制などにより、2008年に著しく高騰した食料価格は、世界金融危機の影響などで一時的に低下したものの、2009年3月頃から再び上昇に転じており、世界的な価格再高騰を懸念する声も上がっています。こうした国際情勢が、食料供給を海外に依存する国々に食料安全保障の重要性を強く認識させるとともに、民間企業を広大な農地を持つ途上国への大規模投資へと駆り立てています。

世界人口の推移
 

FAOが懸念する新植民地主義

しかし、外国企業による大規模な農地取得が、アジアやアフリカなど途上国の貧しい農民から耕作可能な土地を奪ってしまった場合、途上国にとっては投資を受け入れるメリットがないばかりか、収穫物が現地には出回らず、食料不足などの深刻な被害さえも生じてしまう恐れがあります。中東諸国の民間企業を中心に農業投資を受け入れているエジプトは、最近の法改正によって外国企業の土地所有権取得を禁止、ブラジルも農地取得に関する外資規制を政府内で一時検討するなど、農地争奪を警戒して慎重な姿勢をとっている国もあります。国連食糧農業機関(FAO)のジャック・ディウフ事務局長は、このような被投資国にとって必ずしも利益をもたらさない一部の大型農業投資を"新植民地主義"と表現し、強い懸念を示しました。

 

問われる海外農業投資のあり方

一方で、途上国への農業投資自体は、農業インフラ整備や雇用創出、生産性向上など、国の経済発展を支える重要な要素の一つであり、農業投資の増加は基本的には歓迎すべきことです。実際、モザンビーク、スーダン、ラオス、ミャンマー、キューバウクライナなどは、上記のような理由から、政府が農業投資の受け入れ促進に積極的な姿勢を示しています。すなわち、農地争奪の問題で、国際社会がまず考えなければならないのは、望ましい農業投資のあり方であり、それは投資国側の都合だけではなく、被投資国の持続可能な農業開発の視点を含めた投資でなければなりません。そして、それを世界レベルで実現していくための枠組みが今まさに必要だと、日本は考えています。

 

国際農業投資における日本の提案

日本政府は2009年7月のG8ラクイラ・サミットの機会に、責任ある国際農業投資を促進し、世界における農業の持続可能性を確保するための国際的な行動原則の策定が必要であるとして、これを実現するためのグローバルなプラットフォームを提案し、この提案はG8首脳宣言に盛り込まれました。行動原則には、透明性と説明責任、地域住民・環境への適切な配慮などの内容が含まれるべきと、日本政府は考えています。

 
 

日本と世界の食料安全保障

食料自給率が約40%の日本にとって、世界の食料安全保障はとても重要なテーマです。日本は世界で主要な農業分野のODA供与国(OECD/DAC諸国の支援総額の約2割)として、世界全体の食料増産と農業生産性向上に取り組んでいます。また、日本は農業及び食料安全保障に関するグローバル・パートナーシップ(GPAFS)の立ち上げに向けた協議を主導するなど、食料安全保障の永続的な解決に向けた国際社会の枠組作りに力を入れています。

世界と日本の食糧安全保障
 

官民連携モデルで海外農業投資を促進へ

食料安全保障の強化に向けた適切な農業投資を実現するため、日本は食料安全保障のための海外投資促進に関する会議(外務省・農林水産省)において、「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を2009年8月に取りまとめました。農業投資は、天候リスク(干ばつや水害)に加え、輸出国によって時に輸出規制が実施されるなど非常に投資リスクが高い上、アフリカなどの途上国では農産物の輸送に必要なインフラが整備されていないため、輸送コストが高くなるなど、民間資金を効果的に呼び込める状況にはありません。指針では、道路・港湾整備などの生産・流通インフラ整備への政府開発援助(ODA)の活用や技術移転、貿易保険他のサイトヘなど、公的支援ツールを総合的に活用していくことで、官民連携による海外農業投資促進を図ることが示されています。日本が目指しているのは、投資国は投資に見合った利益や食料の安定供給を確保することができ、被投資国ではインフラ整備や技術移転が促進され、互いに投資の恩恵が受けられる"win-win"の関係を実現することです。

海外農業投資官民連携モデルイメージ
 
 
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