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Vol.42 2009年7月31日
核兵器のない世界へ

米国でオバマ政権が誕生してから、核軍縮・核不拡散に向けた機運がこれまでになく高まってきています。一方で、北朝鮮の核開発は世界の平和と安定に対する重大な脅威となっており、イラン、インド、パキスタンなどの問題もあります。日本や国際社会が、「核兵器のない世界」に向けてどのように取り組んできているのか、国際的な枠組み構築の現状と世界の動向を中心に見ていきます。

オバマ政権誕生で高まる核軍縮・核不拡散の期待

“So today, I state clearly and with conviction America’s commitment to seek the peace and security of a world without nuclear weapons.”(本日、明確に、かつ確信を持って、核兵器のない、平和で安全な世界を追求するという米国のコミットメントを宣言する)---。2009年4月5日、米国のオバマ大統領がチェコのプラハで行った演説「核兵器のない世界」(演説全文はこちら)に、世界中の注目が集まりました。東西冷戦時代、旧ソ連に対抗する形で核開発をリードしてきた米国が強い意思を表明したことで、核軍縮・核不拡散に対する国際社会の期待が一気に高まったからです。オバマ大統領は演説で、ロシアとの第1次戦略兵器削減条約(START I)の後継条約交渉開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准追求、核セキュリティに関するサミット開催などに前向きな姿勢を示しました。そして、これらの方針は今、様々な形で動き出しています。

米露の核弾頭総数の推移

「核軍縮」と「核不拡散」

「核軍縮」とは、現存する核軍備の縮小、削減、そして最終的には廃絶を目指していく取組です。「核不拡散」とは、核兵器やそれを運ぶミサイルだけでなく、開発に用いられる物資や技術が広まることを抑制したり、阻止したりする取組です。この意味で、核軍縮をタテ糸とすれば、核不拡散はヨコ糸ということができます。

 
 

9.11で現実味を帯びる“核テロ”の脅威

こうした世界的な機運の高まりに至るまでには、いくつかのきっかけがあるとされていますが、大きな要因の一つは、2001年に起きた米国同時多発テロ事件(9.11)です。9.11後、世界各地で大規模なテロの惨劇が繰り返されています。このことは、テロリストが核兵器を入手し、核テロを起こす懸念が以前よりも増していることを意味し、米国の有力者たちを核軍縮・核不拡散の一層の推進に向けて動かしたとされています。

核軍縮へと動き出した有力政治家たち

2007年1月と2008年1月、シュルツ元国務長官、ペリー元国防長官、キッシンジャー元国務長官、ナン元上院議員の4人は、米ウォールストリートジャーナル紙に「核兵器のない世界」へ向けた具体的提案を寄稿。核軍縮のために、米露がリーダーシップをとる特別な責務を有しているとして、START I の延長やCTBT批准などを提案し、大きな反響を呼びました。また、核兵器廃絶を訴える世界規模の運動「グローバル・ゼロ」(Global Zero)には、ジミー・カーター元米大統領、旧ソ連のゴルバチョフ元大統領らが賛同しています。これらも世界的な核軍縮の機運を高める一因となっています。

 

核の“憲法” 核兵器不拡散条約(NPT)

ところで、核軍縮・核不拡散を進める国際的な体制は今、どのようになっているのでしょうか。ここで、関連する条約ごとに現状と課題を整理しておきます。核問題を巡る議論のベースとなっているのは、核の“憲法”とも位置づけられる核兵器不拡散条約(NPT)です。NPTは、米国ロシア英国フランス中国の5か国を「核兵器国」、それ以外の国を「非核兵器国」とし、(1)これら5か国から非核兵器国への核拡散を防ぎ、(2)核兵器国に核軍縮交渉を義務づけ、(3)原子力(核)の平和的利用を図ることを目的としています(1970年発効)。5か国のみを「核兵器国」と認めたことは、すでに地球上に核兵器が存在しているという現実を受け入れたものであり、そのような前提に立った上で世界が着実な核軍縮・核不拡散を目指していく“憲法”のような存在です。

核兵器不拡散条約(NPT)の3つの柱
核兵器国の核兵器配備状況(2009年)
 
 

国際原子力機関(IAEA)による保障措置

NPT体制を支える仕組みが、国際原子力機関(IAEA)による保障措置です。保障措置とは、「平和利用目的」の原子力施設などが、「軍事目的」に転用されないことを厳密に確認することで、核の拡散を防ぐものです。NPTの非核兵器国は、IAEAとの間で保障措置協定を結ぶことが義務づけられていて、これにより不拡散が実現します。(もっと詳しく知りたい方はこちら

 

未だ発効していない包括的核実験禁止条約(CTBT)

さらに進んで、宇宙、大気圏、水中、地下などすべての場所で核爆発実験を禁止する枠組みが、包括的核実験禁止条約(CTBT)です。しかし、CTBTの発効には、国内に原子炉を持つ国など潜在的な核開発能力がある44か国すべての批准が要件となっており、米国、中国、インドネシア、エジプト、イラン、イスラエル、北朝鮮、インドパキスタンが批准していない現在、発効の見通しは立っていません。これまで米国がCTBTを批准してこなかった理由の一つに、世界中で核実験が行われていないかをモニタリングする国際監視制度(IMS)の信頼性に関する指摘があります。しかし、近年、IMSの有効性は確認されており、オバマ政権下での米国のCTBT批准、さらには米国が批准することによる他の未批准国への前向きな影響が期待されています。

CTBTの国際監視制度
 

兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始へ

核軍縮・核不拡散にとても大きな意義を持つことになると期待されているのが、通称「カットオフ条約」と呼ばれる兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)です。これは、核兵器に用いられる核分裂性物質の生産を禁止する条約で、新たな核兵器国の出現を防ぐだけでなく、核兵器国(米、露、英、仏、中)とNPT非締約国(インド、パキスタン、イスラエル)の核兵器生産を制限するものです。カットオフ条約は1993年の提案以降、交渉開始の見通しが立たない状況が続いていましたが、2009年5月、唯一の多数国間軍縮交渉機関であるジュネーブ軍縮会議で、交渉開始の合意がなされました。これも、今日の世界的核軍縮の流れを加速させる要因の一つとなっています。

 
 

拡散に対する安全保障構想(PSI)

このような国際的枠組み作りとは別に、有志の国々が互いに連携しながら、実施可能な手段で、核兵器などの大量破壊兵器やミサイルなどの拡散を阻止する取組が、拡散に対する安全保障構想(PSI)です。国内の関係省庁や参加各国が連携して訓練や情報交換を行い、不測の事態に備えています。PSIはNPTなどの条約に基づく取組を補完する上で重要な意義を持ちます。

日本主催のPSI海上阻止訓練「Pacific Shield 07」
 

度重なる北朝鮮の核実験とミサイル発射

以上のような体制で、国際社会の多くの国々が核軍縮・核不拡散を目指す一方で、残念ながら、その流れを遮る動きを見せている国・地域があります。その一つが、日本にとって最も現実的な「核の脅威」となっている北朝鮮です。核兵器不拡散条約(NPT)から脱退する意図を表明して核保有を宣言し、弾道ミサイル発射や核実験を相次いで実施したりするなど、日本を始め、北東アジアや世界全体の平和と安全を脅かしており、日本としてはこれを断じて容認することはできません。しかし、北朝鮮は2009年5月25日に核実験を実施し、同6月13日には「いまや核放棄など絶対にありえないものになった」とした上で、今後、新たに抽出されるプルトニウム全量の武器化やウラン濃縮作業に着手することを表明しています。国際社会が一丸となり、北朝鮮に核開発やその他の諸問題を解決するよう働きかけていくことが重要です。

北朝鮮による核実験・ミサイル発射
 
 

疑いが晴れないイランの核開発問題

また、イランは原子力の平和的利用の権利を主張してウランの濃縮関連活動を継続しています。イランは、IAEAとの一定の協力を続ける反面、国連安保理決議に違反しており、同国が原子力を軍事的目的に利用しているのではないかとの疑いを払拭するには至っていません。

イランの核問題
 

現実の安全保障環境を踏まえた核軍縮の推進

日本は人類史上唯一の被爆国として、非核三原則に基づき一切核兵器を有していません。一方で、日本の周辺には引き続き核戦力を含む大規模な軍事力が存在しています。こうした中で、日本が国民の安全に万全を期すためには、核を含む米国による抑止力の提供が引き続き重要です。こうした観点を踏まえながら、国際的な核不拡散体制を維持・強化しつつ、核兵器のない世界という到着点を目指す必要があります。また、その過程においても、国際的安定を維持できるような現実的な核軍縮の方途を、より具体的に検討すべき時期が到来しているといえます。

 

核兵器のない世界へ

核開発が世界のパワーバランスを保つ上で重要な意味を持っていた冷戦は終わり、1990年代以降、世界は核軍縮・核不拡散に向けた取組を続けています。日本は戦後、国際社会で一貫して核廃絶を主張していますが、今日の核軍縮・核不拡散への機運の高まりを捉え、さらにその取組を加速させていく必要があります。そうした具体的な取組の一つは、2009年4月に中曽根外務大臣が行った核軍縮演説「ゼロへの条件―世界的核軍縮のための『11の指標』」です。また、日本と豪州のイニシアティブで立ち上がった「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)は、世界各国の首脳・閣僚経験者等が参加し、核兵器のない世界に向けて現実的かつ具体的なロードマップを示すべく活動しています。これらを通じて国際社会の信頼を醸成し、2010年5月に米国ニューヨークの国連本部で開かれるNPT運用検討会議の成功に向けて役割を果たしていきます。将来の世代を含む人類全体への重要な貢献となるよう、日本は国際的な核軍縮・不拡散体制の強化を働きかけていきます。

 

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