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Vol.33 2009年4月6日
ユネスコ(UNESCO)~人類共通の遺産を守るために

ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、世界中の建造物や自然保護区などを世界遺産に登録し、人類共通の遺産として世界各国の保護活動を促進しています。ユネスコはどのような経緯で世界の遺産を守る体制を整備し、今後はどのような取組を進めていくのでしょうか。世界遺産が直面している課題とともに考えます。

古代エジプト遺跡水没の危機と世界遺産条約

水没の機器を免れたアブシンベル神殿1960年代、エジプトのナイル川にアスワンハイダムの建設計画が持ち上がり、アブシンベル神殿に代表される「ヌビア遺跡群」が、水没の危機に瀕していました。エジプト、スーダン両政府からの要請を受けたユネスコは、ヌビア遺跡救済キャンペーンを展開し、遺跡の移築と保護を世界中に訴えました。呼び掛けに応じた多くの国の協力により、遺跡はダム建設の影響を受けない高い場所に移されました。このキャンペーンがきっかけとなり、世界的に価値のある遺跡、建造物、自然を、一国だけでなく人類全体の遺産として保護していくための国際的枠組みの必要性が認識され、条約を作る機運が高まりました。そして、1972年、ユネスコ総会で世界遺産条約が採択され、日本をはじめ186か国が締約しています。(※本文中の締約国数や遺産件数などについては、いずれも2009年3月末現在の数字を引用しています)

 
 

ヨーロッパに多い世界遺産

世界遺産条約の締約国は、世界的に価値があると考えられる国内の遺産を、世界遺産委員会の事務局であるユネスコに推薦します。推薦された遺産は、外部の専門機関による調査を経て、その結果を踏まえて世界遺産委員会が審査し、どの遺産を世界遺産リストに登録するかを判断します。世界遺産には、建造物群、遺跡、文化的景観などの「文化遺産」(679件)、地形、景観、生物の生息地などの「自然遺産」(174件)、これら両方の要素を含む「複合遺産」(25件)の3種類があり、いずれも有形の不動産878件が対象になっています。地域別に世界遺産の分布状況(下図参照)を見ると、ヨーロッパに多く、アフリカ、大洋州、中南米に少ないことがわかります。

世界遺産の分布
 

危機にさらされている世界遺産

世界遺産は、条約の締約国が自らの努力で保護することを前提としています。しかし、締約国によっては自国の力だけでは十分に保護ができず、世界遺産に登録されながらも、地域紛争、自然災害、都市開発、観光開発、商業的密猟などによって、重大な危機に直面している遺産もあります。ユネスコの世界遺産委員会は、当該国の了承を得た上で、これらの遺産30件を「危機にさらされている世界遺産リスト」(危機遺産)に登録。世界各国の協力を重点的に募ったり、世界遺産基金から調査研究や保存修復活動の支援を行ったりしています。危機遺産は、保存修復状況が改善されると、危機遺産リストから削除されます。

危機にさらされている世界遺産例
 
 

危機遺産を脱したカンボジア・アンコール遺跡

アンコール遺跡はカンボジア和平成立直後の1992年、世界遺産に登録されると同時に危機遺産に登録されました。各国が一斉に遺跡修復に乗り出す中、より効率的な調査・研究と修復を行うため、日本はフランスと共同でアンコール遺跡救済国際会議(東京会合)を開催。国際調整委員会を設置して、援助国間の保存修復活動を調整することや、観光開発、水質汚染、地盤沈下といった諸問題を協議していくことなどを決めました。日本をはじめ約30か国からのプロジェクトチームが寺院の修復や人材育成を実施し、地雷の撤去作業も進んだことなどから、アンコール遺跡は2004年に危機遺産から脱しました。

 

多様化する世界遺産の価値

世界遺産条約には186か国が加盟していますが、加盟国の増加に伴い、世界遺産にもより幅広い価値が求められるようになってきました。条約成立時は、ヨーロッパの石造建築物のように、完全に往時の姿のままで残っている遺産を中心に登録が行われていましたが、日本の神社仏閣のように伝統的建築法を何世紀にもわたって継承し、木材などを組み直しながら保存してきた木造建築物などにも、世界遺産にふさわしい価値があることが、次第に認知されるようになりました。

 

増え続ける世界遺産

世界遺産条約の成立後、リストに登録される世界遺産は増え続け、登録数は878件(うち日本は法隆寺や屋久島など14件)に上っています。このため、世界遺産条約については、「ユネスコがすべての世界遺産の保全管理が適切に行われているかを十分に把握できない」「先に登録された遺産に類似した別の遺産は新規登録が難しい」「新規登録の世界遺産にばかり注目が集まってしまい危機遺産の保護が進まない」といった課題を抱えていることも指摘されています。

 

政治的対立や開発政策への影響

アラビアオリックス世界遺産が政治や開発の問題へと発展するケースもあります。カンボジアとタイの国境山岳地域に位置する「プレアビヒア寺院」(カンボジア、2008年登録)は、その登録をきっかけとして、両国間の国境紛争を巡る政治的対立が深まり、残念ながら死傷者の出る武力衝突が起きています。また、オマーンにあるアラビアオリックス(アラビア半島の砂漠など乾燥地帯に生息する偶蹄目ウシ科の動物)の自然保護区は、1994年に世界遺産登録されましたが、オマーン政府は石油・ガス開発の促進のために、この自然保護区を世界遺産リストから削除するよう求めました。ユネスコの世界遺産委員会は最終的にオマーンの選択を認め、この保護区をリストから削除しました。登録された世界遺産が初めてリストから抹消される事態となりました。

 

形がない文化遺産の保護

寺院や城塞のように「形」のあるものだけでなく、伝統的舞踊、音楽、演劇、工芸技術、祭礼など、人々の営みの中で受け継がれているものについても、消失の危機から守り、次世代に伝えていく必要があります。日本には昔から伝統芸能や技術を「無形の文化財」とする考え方があり、文化財保護法(1950年施行)により、それらを保護する仕組みを整えてきました。いわゆる人間国宝(重要無形文化財保持者)という制度もその一環です。日本はこの経験を活かして、2003年のユネスコ総会で採択された無形文化遺産条約の策定に大きな役割を果たしました。2009年秋には、締約国からの推薦に基づき、無形文化遺産代表リストへの登録がスタートする予定です。

 

日本が進める文化遺産国際協力

文化遺産とは、有形無形を問わず、その地域に生きる人たちのアイデンティティの象徴であり、かつ後世へと大切に守り伝えていくべき人類共通の貴重な遺産でもあります。しかし、アジアなどの途上国には修復・保護が急務であるもかかわらず、十分な対策がとられていない貴重な文化遺産がまだたくさんあります。そういった文化遺産の保護をより効果的に支援するため、日本は文化遺産国際協力推進法を2006年に施行。国内の政府機関、教育研究機関、NGO、民間助成団体などによる文化遺産国際協力コンソーシアムを設立し、各国の文化遺産と保護などに関する情報共有や連携強化を図りながら、保存修復事業を実施しています。外務省では、ユネスコに文化遺産保存日本信託基金無形文化遺産保存日本信託基金を設置し、世界各国の有形無形の文化遺産を守るための様々な事業を実施しています。

 
 

人類共通の遺産を守るために

エジプト・ヌビア遺跡の救済キャンペーンを契機に、文化遺産保護のための国際的協力体制を整備してきたユネスコは今、増え続ける世界遺産や登録数の地域間格差、危機遺産の効果的な保全修復活動、政治的対立や開発政策への影響など、新たな課題に直面しています。さらに、保護の対象となる文化遺産は無形にまでその範囲を広げ、有形とは異なる新たな手法が問われています。ユネスコの世界遺産委員会は2009年2月、「世界遺産の将来に関するワークショップ」をパリで初めて開催し、専門家らによる意見交換をスタートさせました。日本をはじめとする国際社会は、世界遺産条約締約40周年にあたる2012年を一つの節目とし、かけがえのない人類共通の遺産を守るための議論を加速させていきます。

 
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