現在ツバルは、温暖化の影響から水没が懸念される国として、世界的な注目を集めています。ツバルを始めとする太平洋の小さな島国が抱えている問題とは何なのか、今年で5回目を数える太平洋・島サミットでは、支援の方向性を考えます。
■南太平洋諸島3つの文化圏
太平洋の島々は、ポリネシア、ミクロネシア、メラネシアという3つの地域に分けられます。ポリネシアとは多くの島々という意味で、大柄な人が多いと言われています。一方、ミクロネシアは小さい島々という意味で、ポリネシアの人々に比べると体格は小柄です。また、この2つの地域の島は、火山島(ミクロネシア連邦の東部、サモア、トンガなど)と珊瑚礁の島(ツバル、ナウル、マーシャル、パラオなど)に分けられ、火山島は肥沃な土壌ですが、珊瑚礁の島は土地がやせていて降水量も少なめです。メラネシアは、黒い島々という意味で、太平洋島嶼国の中で面積の大きい上位4つの国からなっています。

■太平洋島嶼国の歴史:植民地化と独立
ツバルを含む太平洋の島国が世界史に登場するのは、大航海時代の16世紀以降です。19世紀には、欧米諸国による植民地化が進みました。20世紀には、第一次世界大戦により日本がドイツ領ミクロネシア地域を占領し、1920年以降は「南洋群島」として国際連盟から日本の委任統治が認められ、第二次世界大戦中には激戦地にもなりました。終戦後は豪州やニュージーランド、欧米諸国の信託統治領となりますが、その後1962年のサモア独立を契機に島嶼国の間に独立の気運が高まり、太平洋の島国は次々と独立を果たしました。
■日本を支持してくれる大切なパートナー
これらの太平洋島嶼国は、歴史的に親日的な国家群であり、国際社会において日本の立場を強く支持しています。このような姿勢は、多くの国際選挙において、日本の候補を支持するという形でも示されています。これは、ミクロネシア三国(ミクロネシア連邦、マーシャル、パラオ)においては、この地域に多くの日系人が暮らしていることに加え、国際連盟当時の日本による委任統治時代に、日本がこの地域の発展などに貢献したことも影響していると考えられます。また、ポリネシアやメラネシア等の独立を果たした国々は、英国、米国、豪州、ニュージーランド、フランスなどの旧宗主国一辺倒の関係から脱却し、国際社会の中で、新しい関係を築いていこうとしていることが伺えます。
■島嶼国の排他的経済水域は中国陸地面積の2倍
島嶼国は陸地面積こそ狭いものの、地域全体の排他的経済水域は、中国の陸地面積の約2倍の広さを持っています。日本のマグロ・カツオの消費量の約8割はこの水域でとれていますし、豪州からの液化天然ガス等の海上輸送路にあたるなど、日本にとって非常に重要な地域となっています。日本からの観光客も多く、パラオのように、年間の日本人観光客の数が人口(約2万人)を上回っているところもあります。
■自給自足が成り立つ豊かな島
ツバルはポリネシアの最西端に位置する、9つの環礁からなる島国です。無人島や小さな環礁を含んだ総面積は、約26 km2です。一番大きなフナフチでも縦12km、最大幅数100メートルの小さな島です。人口はおよそ9,600人。ツバルの人々は、点在する小さな島で伝統的に自給自足の生活をしていました。芋類、ココナッツ、バナナ等の農産品、養豚、鶏卵等があり、物々交換が今も行われています。漁もしますが、自分達で食べる分をとっています。

■世界が注目したフナフチの海岸侵食
食料自給率4割の日本としては、自給自足はうらやましい限りですが、ツバルでは、産業を興そうにも土地は狭く、世界の主要な市場からも遠いため、結局、経済は国内、島内だけで循環せざるを得ないという事情もあります。他にもツバルが抱えている問題があります。ツバルの首都フナフチでは、ヤシの木が倒れたり、満潮時に地面から水が湧き出して住居や道路が浸水するなどの現象が起きており、地球温暖化の影響によって水没が懸念される国として、世界的に大きな注目を集めました。ツバルは、温暖化による海面上昇で消えてしまうのでしょうか。
■海岸侵食の原因
外務省の太平洋島嶼国支援検討委員会の座長を務める大阪学院大学の小林泉教授によれば、ツバルの海岸侵食、浸水の原因は、海面上昇だけではないといいます。同教授は、その原因を (1)第二次大戦中、アメリカ軍の飛行場建設の際に土砂を掘り起こしてできたくぼみ(ボローピット)からの湧水、(2)より良い生活を求めて首都に人口が集中し、今まで人が住んでいなかった低い土地にも人が住むようになったこと(結果として満潮時や高潮によって家屋が浸水)(3)生活排水による汚染(この地域の海岸の砂は、いわゆる「星の砂」と呼ばれる有孔虫の死骸などでできていて、水質悪化によって有孔虫=砂が激減します)、などが主要な原因であるとの見解を示しています。
■近代化に伴う様々な課題
ツバルの海岸浸食や浸水は、必ずしも温暖化だけが原因ではないかもしれませんが、太平洋には、ツバルのように珊瑚礁からなる海抜が低い島が多く、海面が上昇すればその影響は深刻です。また、環太平洋造山帯に位置するこの地域はそもそも地震が多く、最近では、気候変動の影響により巨大化したサイクロンによる高潮・津波などの被害も起こっており、自然災害への対策が緊急課題となっています。さらに、豪州やニュージーランドでの季節労働から戻ってきた人々が、新たな生活スタイルを持ち込んだ結果等により生じる社会問題、例えば、以前は島にはなかったペットボトルやアルミ缶等のゴミ問題も深刻化しています。
■インフラ、人材育成、気候変動課題への対応
こうしたツバルの課題に対し、日本はこれまでも様々な支援を行ってきました。フナフチ港整備計画(無償資金協力)などのインフラ整備や、開発政策アドバイザーとして専門家を派遣し、技術移転や人材育成などを行ってきました。最近では、ツバルが気候変動に対応できるようにするために、何が必要なのかを調べるための政府調査団を派遣することを決定しました。その結果、日本は今後ツバルに対し、海岸保全、防災、代替エネルギーの3つの分野について、ODAを実施していく方針を固めました。

■海岸保全、防災、代替エネルギーが緊急課題
海岸保全というと、テトラポットを沈めたり堤防をつくったりする護岸整備事業を思い浮かべがちですが、生活排水による汚染の影響など様々な課題もあるので、現地に適した方法を慎重に見極めながら進めていく予定です。海岸は、ちょっとした海流や水質の変化で浸食されることがあるからです。防災に関しては、日本のノウハウを生かした災害に強いコミュニティ作りや、主要な情報伝達手段であるラジオ放送網を整備し、緊急時に備えるなどの対策が効果的だと考えています。また、代替エネルギーの分野では、太陽光発電を普及させることが有効だと考えています。
■太平洋・島サミットの開催
日本は、ツバルだけでなく、太平洋の島国・地域の発展に共に取り組むため、1997年、太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国・地域の全首脳を招待して第1回太平洋・島サミットを開催しました。3年に1度開催し、沖縄で開催された第4回島サミットでは、経済成長、持続可能な開発、良い統治、安全確保、人と人との交流の5分野で、3年間で450億円規模の支援と、4,000人の人材育成、1,000人以上の青少年交流を目指すことを決めました。2009年5月には北海道トマムにおいて第5回の開催が予定されています。
■現地事情に合わせた日本の支援
日本は、これまでも、現地の事情に合わせたきめ細やかな支援を行っており、例えば、サモアで大成功を収めた廃棄物管理の手法を他の地域でも導入して欲しいなどの要望も寄せられています。こうした実績を元に、日本がすべきことは何か、日本はこのサミットを通じ、今後もこの地域の安定と繁栄のため、首脳間の対話を行い、引き続き具体的な協力を積み重ねていく方針です。