わかる!国際情勢 トップページへ

Vol.20 2008年12月17日
海賊問題と国際社会の取組

ソマリア沖で海賊事案が多発し、この海域を運行する各国の船舶に甚大な被害を与えています。この状況は、日本の国民生活に直接影響を与える問題です。海賊被害の現状と日本の取組について解説します。

ソマリア沖・アデン湾で海賊が急増している

海賊行為は、かつては、マラッカ・シンガポール海峡に多く出没していましたが、主に周辺国の対策により、最近は大幅に減少しています。ところが最近、ソマリア沖・アデン湾での海賊事案が多発・急増しています。2003~07年のデータを見ると、東南アジアでは5年間で半数以下になっているのに対し、ソマリア沖・アデン湾・紅海では08年の年内の発生件数が07年の倍以上に増加しています。

海賊事件の発生状況
 
 

ソマリア沖・アデン湾の特徴

ソマリア沖・アデン湾は、スエズ運河を経由して、アジアとヨーロッパを結ぶ重要な海上交通路に当たります。スエズ運河を通過する船は必ずこの海域を通過しなければなりません。さらに、イエメンとソマリアの間に位置するアデン湾は、両岸との間の距離が400kmと狭い一方、1,000kmもの長さがあるという地理的な特徴も関係し、海賊が多発しています。

ソマリア沖の海賊事案が多発している海域
 

海賊の急増はソマリアの無政府状態が原因

海賊発生の最大の要因は、ソマリアの無政府状態です。日本の1.8倍の面積を持つソマリアは、海洋資源と石油資源が豊富な国で、1960年に北部がイギリスから、南部がイタリアから独立しました。ソマリアはソマリ族という民族の単一民族国家ですが、多数の氏族が存在しています。91年に中央集権的な政権が崩壊してから、各氏族間の対立が内戦に発展し、現在に至るまで全土を実行支配する政府が無く、激しい混乱が続いています。近年のソマリア海域における海賊事案の頻発は、無政府状態が続くソマリアの不安定な情勢に起因していると考えられます。

 

年間2,000隻の日本関係船舶が通行

このソマリア沖の海賊は、遠い海で起こっている他人事ではなく、日本にとっても深刻で、実質的な影響のある問題です。現在、年間約1万8,000隻のタンカーや貨物船などがこの海域を航行しています。そのうち、日本の船舶の数は年間で約2,000隻。1日平均5~6隻に上り、日本企業が運航する船舶が襲撃された事例も、ここ数年で急増し、2008年は既に3隻が被害に遭っています。この海域は、自動車を始めとする日本の輸出品をヨーロッパへ運んだり、欧州の製品を輸入したりする際の航路に当たる日本の海上交通路の大動脈です。特に日本から海外に輸出する自動車は総輸出台数の2割がこの海域を通過しています。つまり、海賊問題によりこれらの海上輸送の安全が脅威にさらされることになるのです。

ソマリア沖の通航実態
 

輸送コストの上昇と国民生活への影響

海賊事案が多発している海域では、輸送船舶の保険料が急騰し、1隻にかかる輸送コストも上昇します。これらのコストが商品の価格に直接反映され、結果として、消費者である国民一人一人に転嫁されることになりかねません。既に、危険を回避するためアデン湾を通らず、アフリカ大陸南端の喜望峰を回るルートに航路を変更している船舶もありますが、時間にして約6日、燃料費にして約1.2億円の増加が見込まれるため、経済的な損失は計り知れません。さらに、最近では海賊は喜望峰ルートの経路であるケニア沖にまでその行動範囲を広げており、アデン湾を迂回するだけでは海賊から逃れられないようになってきています。

 

海賊の身柄を拘束しても・・・

海賊の横行は、日本だけでなく国際社会全体に影響を与える問題です。現在ソマリア沖・アデン湾では、各国、EUNATOなどの国際機関が艦船を派遣して、海賊対策にあたっています。国連海洋法条約では、公海における海賊船舶の拿捕などが認められているため、各国が海賊の身柄を拘束することも可能です。しかし、身柄を拘束しても、その後どの国において、どのように裁くのかという問題があり、やむなくソマリア領域で犯人を解放したケースもあります。長期的にはこのような場合に備えるための関連法整備等を検討する必要があります。

 

国連安保理決議の採択

2008年6月に、国連安全保障理事会は、ソマリア沖の海賊・武装強盗行為対策に関する決議第1816号を全会一致で採択しました。10月には、各国に軍艦等を派遣することを促すことなどを含む決議第1838号を採択。前者の決議では、ソマリア暫定連邦「政府」の要請に基づき、ソマリア沖の海賊の抑止のため、各国が一定の条件でソマリア領海内に進入することおよび同領海内であらゆる必要な措置を用いることを許可する内容も含まれています(この措置を執るためには、各国は事前に国連事務総長に通報する必要があります)。12月には決議第1846号が採択され、上記措置が12ヶ月延長されました。こうした安保理決議には、国際社会は引き続き海賊対策を行っていく方針であることが明らかにされています。

 

海賊対策には情報共有、地域協力が効果的

日本は、過去において、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の作成を主導した経験があります。ReCAAPでは海賊対策における情報共有、地域協力の重要性を掲げ、東南アジア海域の海賊対策において重要な役割を果たしています。アジアとアフリカでは状況や周辺国の事情が異なるので、この経験をそのままアフリカに応用することはできませんが、現在、アフリカ地域において地域協力のための枠組み作りが検討されています。

海賊対策
 

日本が行う人材育成支援の重要性

加えて、ソマリア暫定政府の治安維持能力や国境管理能力を向上させることも、中期的に行っていくべき海賊対策の1つです。日本はソマリアに対し、国際移住機関(IOM)国連開発計画(UNDP)などを通した拠出を行っています。さらに近隣国に対しては、イエメンやオマーンなどの海上取締官を日本に招き、海上保安庁による研修を実施しています。海賊対策のポイントは、沿岸国の取締能力の強化にあります。海賊の能力が増強され、遠洋での被害も目立ってきている昨今、人材育成のための周辺国への支援は今後ますます重要となってきます。

 
メルマガ登録希望の方はこちらからお申込みください。
ご意見ご感想もお待ちしています。 (外務省国内広報課)
このページのトップへ戻る
目次へ戻る