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Vol.174 2018年10月12日
日本のサイバー外交 ― 自由,公正かつ安全なサイバー空間を目指して

近年のインターネットの発展に伴い,「サイバー攻撃」はますます複雑化,巧妙化しています。国際的なルール作りの必要性が議論される中,国際社会は,そして日本は,どのような取組を行おうとしているのでしょうか。今回は,サイバー空間をめぐる国際情勢と,日本が展開する「サイバー外交」について紹介します。

インターネットの普及とサイバー空間

現代に生きる私たちにとって,インターネットは,情報をやり取りする場にとどまらず,多様なサービスを利活用したり,コミュニティを形成したりするなど,ひとつの新しい社会領域として認知されています。もともとインターネットは,大学や研究機関,企業などが,学術・研究のために開発したところからスタートしており,相互の信頼をベースに発展してきたネットワークでした。それが1990年代に入ると,パソコンの普及とともに一般に広がり,様々なサービスが生まれました。さらに近年では,スマートフォンの普及やSNS・動画配信サービスの発展,IoT家電,人工知能(AI),ロボットの登場など,めまぐるしい進化を遂げ,子どもから高齢者まで幅広い世代が,「サイバー空間」を日々の活動の場として利用しています。

 

サイバー攻撃の脅威

しかし,インターネットの著しい発展は,私たちに大きな恩恵をもたらすと同時に,「サイバー攻撃」という新たな脅威をもたらすことにもなりました。サイバー攻撃とは,何らかの意図や悪意を持った者が,特定の国家や企業,団体,個人に対して,コンピュータ・ネットワーク上で行うクラッキング行為(※)のことです。サイバー攻撃が問題視され始めた当初(2000年代)は,個人のハッカーによる「愉快犯」的犯行がほとんどでしたが,その後次第に,組織化した犯行グループによる,金銭目的の「経済犯」が増加。さらに近年では,その規模も影響も拡大し,政治的・社会的意図に基づいて社会に混乱をもたらしたり,国家の安全保障を脅かしたりするケースが多数報告されており,その一部については,国家の関与が指摘されているものもあります。
(※)クラッキング行為 コンピュータ・システムに侵入したり,データを破壊,改ざんしたりするなど,コンピュータを不正に利用すること。

日本政府・民間企業に対する国内及び海外からのサイバー攻撃関連通信量
 

サイバー攻撃から“身を守る”難しさ

サイバー攻撃の事例として,私たちの記憶に新しいところでは,2017年5月,世界各地の病院や企業,銀行に被害をもたらしたランサムウェア(身代金要求型ウイルス)「ワナクライ」や,日本で2015年5月に起こった,日本年金機構における不正アクセスによる情報流出事案などが大きなニュースとなりました。サイバー攻撃は,匿名性が高く,攻撃側が圧倒的に有利であり,地理的な制約を受けることが少なく容易に国境を越える,といった“やっかいな”特性を持っています。いくら国内で取り締まりを強化しても,一国のみで対応できる範囲は限られています。サイバー攻撃への対策は,国際社会共通の切迫した課題であり,今こそ国際社会全体との連携や協力,「ルール作り」の必要性が高まってきているのです。

 

サイバー空間に関する国際的動向

このような状況を背景に,欧州評議会(CoE)によって2001年に策定されたのが,「サイバー犯罪に関する条約(略称:サイバー犯罪条約)」です。この条約は,サイバー犯罪から社会を保護することを目的としており,違法なアクセスや傍受など,コンピュータに関連して行われる一定の行為の犯罪化や,犯罪人引渡しなどに関する国際協力の諸手続きなどを規定しています。現在のところ,サイバー空間の利用に関する唯一の多国間条約であり,2018年9月現在,日本を始め全てのG7諸国を含む,合計61か国が締結しています(日本については2012年に同条約の効力が発生)。 また,2015年7月に公表された,国連における政府専門家会合(国連サイバーGGE(Group of Governmental Experts))報告書では,25か国の政府専門家により,「国連憲章を含む国際法が一般にサイバー空間に適用される」ことが確認されています。

 

日本のサイバー外交“3つの柱”

日本では,2014年11月に「サイバーセキュリティ基本法」が制定され,翌2015年9月に,同法の規定に基づく「サイバーセキュリティ戦略」が閣議決定されました。この中で日本政府は,「自由,公正かつ安全なサイバー空間」の創出に努め,「経済社会の活力の向上及び持続的発展」,「国民が安全で安心して暮らせる社会の実現」,「国際社会の平和・安定と我が国の安全保障」に寄与することとしています。2018年7月には新たなサイバーセキュリティー戦略が閣議決定され,我が国の基本的立場等と2018年~2021年の諸施策の目標及び実施方針を国内外に示しました。こうした目的を達成するため,外務省は,「(1)サイバー空間における法の支配の推進」,「(2)信頼醸成措置の推進」,「(3)能力構築支援」の“3つの柱”からなるサイバー分野における外交を,関係省庁のみならず幅広い民間関係者とも連携しながら,積極的に推進しています。

日本のサイバー外交 3つの柱
 

サイバー分野に関する日本の取組

具体的には,「(1)法の支配の推進」では,サイバー空間に適用される国際法や規範に関する議論の深化に貢献するため,これまで国連サイバーGGEや,サイバー空間に関する国際会議(GCCS)などに積極的に参加してきました。「(2)信頼醸成措置の推進」では,見込み違いなどによるエスカレーション(段階的拡大)を防ぐための,サイバー分野に関する二国間協議・多国間協議を実施。また,地域的枠組みにおいては,マレーシア,シンガポールと共に,サイバーセキュリティに関するARF会期間会合(ARF-ISM on ICTs Security)を立ち上げています。さらに「(3)能力構築支援」では,一部の国や地域における対処能力の不足が,世界全体にとってのリスク要因とならないよう,ASEAN諸国を中心に意識啓発や重要インフラ防護,サイバー犯罪対策,CSIRT(Computer Security Incident Response Team)や法執行機関の能力強化などの支援を進めています。

日本のサイバー外交(信頼醸成措置・二国間協議の実施
 

国ごとに異なるサイバーに関する立場

しかしながら,サイバー空間に対する国家の在り方は,各国の間でも相違があります。中東・北アフリカ地域の多くの国において起こった「アラブの春」と呼ばれる民主化運動では,インターネットやソーシャルメディアが大きな役割を果たしました。これを受けて,新興国・発展途上国においては,国家によるインターネットの規制や管理を強化する動きが強まり,サイバー空間における既存の国際法の適用について慎重な立場をとる国が存在します。一方で,日本や欧米諸国は,前述のとおり,「サイバー空間においては国連憲章などの既存の国際法が適用される」との考え方や,「マルチステークホルダーアプローチ」(複数の異なる立場の関係者による対話)や「情報の自由な流通」が基本原則であるとしています。

 

「Society5.0」と今後の展望

2017年11月,インドのニューデリーにおいて行われた「サイバー空間に関するニューデリー会議」において,堀井学外務大臣政務官は,日本がアベノミクスの下,情報通信技術の活用により「必要なモノ・サービスを,必要な人に,必要な時に,必要なだけ提供する」ことで様々な社会課題を解決する「Society5.0」を目指していることに言及するとともに,“3つの柱”からなる日本政府の「サイバー外交」の取組について紹介しました。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控えた日本にとって,サイバーセキュリティ確保のための取組は,できる限り速やかに実行すべき課題です。日本は今後も,国際社会の平和と安定及び我が国の安全保障のため、サイバー空間における法の支配を推進していきます。

サイバー空間に関するニューデリー会議の様子(2017年11月)
 
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