~現状と模造品・海賊版拡散防止条約(ACTA)構想
日本の商品が多くの被害を受けている模倣品・海賊版。これらを防止するための国際的な枠組み「ACTA構想」が、日本のイニチアティブによって実現しようとしています。模倣品・海賊版の被害の現状と、それに対する取組について解説します。
■模倣品と海賊版とは
近年、本物に真似て作られたコピー商品が、アジアを中心に大量に出回っています。このコピー商品には、「模倣品」と「海賊版」と呼ばれる2種類があります。「模倣品」とは、広義には、商標権や意匠権、特許権、実用新案権などを侵害する製品のことをいい、偽ブランドバッグや電化製品、バイク、医薬品などが該当します。例えば、東南アジアでよく見るホンダの偽のバイクは、商品のデザインを真似ている点で意匠権侵害、ホンダという会社の名前を勝手にバイクに貼り付けて売っている場合は、商標権侵害になります。また「海賊版」とは、主に著作権や著作隣接権を侵害する製品のことで、音楽CDやDVD、ゲームソフトなどを違法コピーした商品などが該当します。

■模倣品・海賊版による被害総額年間約80兆円
模倣品・海賊版による被害総額は、世界で年間約80兆円(世界税関機構及び国際刑事警察機構資料より)、国際貿易に限定しても20兆円以上にのぼると言われています(OECD資料より)。日本のコピー商品の多くはアジア地域に集中していますが、特に中国における被害の状況は拡大傾向にあり、2006年の特許庁のアンケートによると、海外で模倣品・海賊版による被害を受けた日本企業の約7割が、中国で被害を受けています。

■犯罪組織の資金源にも繋がる模倣品・海賊版
模倣品・海賊版は、どちらも人間の創造的活動によって生み出される知的財産権を侵害する商品です。模倣品・海賊版の流通は、企業が本来得るべき利益を損失させたり、創作者の開発と創造意欲を減退させるだけではありません。例えば偽の薬品など、商品によっては、消費者の安全や健康を脅かす危険もあります。さらに、こうしたコピー商品は、犯罪組織・テロ組織等の資金源にもなっており、見過ごすことのできない犯罪です。コピー商品を作る方も、それを買う方も模倣品・海賊版が社会悪であることを自覚する必要があります。

■国際的枠組みの必要性
こうした知的財産権を保護するため、世界貿易機関(WTO) のTRIPS協定や、世界知的所有権機関(WIPO)の諸条約等が定められており、これらに基づいて各国で対応策を講じています。しかし被害の急速な拡大に加え、インターネットによる拡散、模倣ラベルと本体の分割輸入、国際分業など巧妙化、国際化する手口に効果的に対応するためには、主要国が連携して新たに強力な法的枠組みを作ることが必要です。
■ACTA構想の経緯
日本は2002年以来、「知的財産立国」を目指して様々な取組を行ってきました。そして2005年7月のG8グレンイーグルズ・サミットにおいて、当時の小泉総理が、模倣品・海賊版拡散防止のための国際的な法的枠組みの必要性について発言。これがきっかけとなってスタートしたのが「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)構想」です。2008年6月には、日本、米国、欧州連合(EU)、スイス、カナダ、韓国、メキシコ、シンガポール、豪州、ニュージーランド、モロッコが参加した関係国会合が開催され、条文案をベースとした本格的な議論が始まりました。
■志の高い条約を目指すACTA構想
ACTA構想は、特定の国の間で議論を進めており、知的財産権を侵害している主要な国が入っていないので、その効果は期待できないのではないかという指摘があります。しかし、ACTA構想はまずは、知的財産権の保護に高い志を有する国を中心として、権利の侵害をなくすために必要な措置を整備し、新たな侵害にも対応できるようなしっかりした枠組みを作ることを目標としています。その上で賛同してくれる国を増やしていく、関係する国に働きかけていく、という方針です。知的財産権はその保護が難しい権利です。妥協を許さず、その保護のためにはどうあるべきかという志の高い国際的な枠組みが必要と考えています。
■ACTA構想、3つの柱
ACTAにおいて検討されている事項は、大きく分けて3つあります。1つめは、各国の税関が行った取締の成功例やコピー商品に関する情報の交換を行うなど執行機関間における協力を推進したり、途上国の取締体制を強化するための能力構築や技術支援を推進する「国際協力の推進」、2つめは、知財専門家の育成、消費者意識の向上、企業と政府が一体となって対策を検討するなどの「執行の強化」。3つめは、侵害品の輸出入の禁止などの水際措置、模倣ラベルに対する刑事罰、権利者への十分な損害補償、インターネット上の海賊版対策など、各国の国内法の整備を進めるための「法的枠組みの構築」です。2008年10月、東京にてACTAの関係国会議が開催され、日本や米国をはじめとする11の国・地域が参加し、刑事執行や民事執行など、知的財産権侵害への対処のあり方を中心とした議論が行われました。

■外務省知的財産室の新設と大使館等における企業支援
日本は、ACTAの早期実現に向け最大限努力していますが、被害は現在も拡大し、新たな被害が発生しています。このため、2008年4月、外務省は「知的財産室」を新設し、知的財産分野における外交政策を総合的観点からとりまとめ、推進することにより、我が国の知的財産に対する国際的取組を更に強化するよう努めています。例えば、日本企業が海外において模倣品・海賊版の被害に遭った際、企業レベルでは解決できない場合に相手国政府に対して働きかけを行う必要があります。その際、海外にある日本大使館等と連携して行うと効果的な場合があります。このため、外務省では全ての大使館等に知的財産担当官を配置して相談窓口を明確にし、大使等を先頭に館が一体となって迅速に模倣品・海賊版の問題に対応できるよう体制を整えています。
■今後の日本の取組
今後も日本は、ACTA構想の早期実現に向けて、関係国をリードしていきます。さらに、国際的な枠組強化のみならず、国内の消費者や産業界の意識向上にも努めるとともに、中国などの侵害が起きている主な国に対しても、二国間の対話や、官民合同でのアプローチなどを通じて、模倣品・海賊版の撲滅に向けて積極的に働きかけていく方針です。