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Vol.153 2017年5月17日
世界と取り組む核テロ対策

核テロリズム(以下「核テロ」)は,現代社会において依然として,地球規模の安全保障に対する最も緊急かつ最大の脅威として存在しており,国際社会はこれまでにも様々な取組を行ってきました。2016年の核セキュリティ・サミット,IAEA核セキュリティ国際会議に続き,2017年6月には日本で初めて核テロ対策国際会議(GICNT全体会合)が開催されます。ここでは改めて,国際的な核テロ対策の現状と,日本の取組について紹介します。

核テロの脅威

2001年9月11日の米国同時多発テロ以降,国際社会は喫緊の課題としてテロ対策を見直し,取組を強化してきました。その一方でテロ組織は,科学技術の発展とグローバル化された現代社会の特性を最大限に利用し,テロ行為や資金・武器の調達,宣伝行為などの活動を,国境を越えて一層高度化させつつあります。原子力技術は現在のところ,発電,医療,農業,工業など,広範な分野で平和的に利用されていますが,もし核物質や放射線源がテロリストなどの手に渡り,悪用された場合には,人々の生命や身体,財産に対して甚大な損害がもたらされることが予想されます。さらに近年は核関連施設へのサイバー攻撃に関する懸念も高まってきており,コンピューター・セキュリティの強化が求められています。

わかる!国際情勢 Vol.56 「核セキュリティ・サミット~核テロ対策の強化に向けて」

IAEAが想定する核テロリズム
 

核セキュリティに対する国際社会の動き

このような核テロの脅威が現実のものとならないようにするために講じる様々な措置のことを「核セキュリティ」と言います。国際原子力機関(IAEA)では,同時多発テロの翌年,2002年に開催された理事会において,核テロ対策を支援するために実施すべき核セキュリティ計画(2002年~2005年)(※)が承認され,この計画を実施するための核セキュリティ基金(Nuclear Security Fund)が設立されました。また,核テロ対策に関わる条約としては,2007年に核テロリズム防止条約が発効。IAEAでは2016年に核物質の防護に関する条約の改正が発効しています。2010年4月には,米国の主導で首脳級の核セキュリティ・サミットが初めて開催され,2016年まで合計4回開催されました(2010, 2012, 2014, 2016年)。その後,2016年12月にIAEA主催で開かれた閣僚級の核セキュリティ国際会議では,核セキュリティ・サミットを引き継ぎ,IAEAが核セキュリティ強化の取組において中心的な役割を果たすこと,また,各国が今後も核セキュリティ強化に向けて努力していくことが確認されました。

(※)以降,4年ごとに計画の見直しが行われ,2017年現在,IAEAでは2013年9月に承認された核セキュリティ計画(2014年~2017年)に基づいた活動が行われています。核セキュリティ計画(2018年~2021年)の策定作業が進行中です。

第4回米国核セキュリティ・サミット(2016年3月31日~4月1日)(写真提供:内閣広報室)
 

5つの国際機関・枠組み

現在の核テロ対策は,大きく分けて5つの国際機関・枠組みが牽引しています。IAEAは前述の通り,核セキュリティ強化の取組における中心的な役割を担っています。国際連合(UN)は,グローバルな核セキュリティ強化のために,国際的な法基盤の整備のほか,様々な支援や調整,協力などを行っています。国際刑事警察機構(ICPO)は,テロ及び核物質やその他放射性物質が関与し得る犯罪行為への対処に向けた能力構築や情報共有,捜査への支援などを実施しています。2002年6月に開催されたG8カナナスキス・サミットで立ち上げられた大量破壊兵器・物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ(GP),さらには核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)も相互に連携しながら,核セキュリティのより一層の強化を目指しています。

核テロ対策に関する5つの国際的枠組み
 

核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)とは

核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)とは,2006年7月,G8サンクトペテルブルク・サミットにて米露両国の大統領が主導し,核テロリズムの脅威に国際的に対抗していくことを目的として提唱されたものです。ワークショップや訓練などの活動を通じて,有志国が不拡散やテロ対策などの情報・専門知識を共有する機会を提供しています。2017年5月現在では,88か国と5機関(オブザーバー)が参加しています。このイニシアティブの最大の特徴は,数ある核テロ対策の中でも特に「核検知」と「核鑑識」が優先分野となっていることです。2年に一度,政府高官レベルで行われる全体会合(2017年は東京にて開催)では,この(1)核検知,(2)核鑑識に加え,(3)対応・緩和という3つの作業グループからの報告を受けた上で,今後のGICNTの活動に関する方向性や優先分野を確認することになっています。

 

「核検知」と「核鑑識」

ここで「核検知」と「核鑑識」という2つの技術について解説します。「核検知」とはその名のとおり,核物質を検知し,計測する技術のことです。「核鑑識」は,押収された核物質や放射性物質の組成を分析することによって出所や経緯を明らかにする技術であり,その分析結果をデータベースや数値シミュレーションと比較することによる解析なども含まれます。当初,核鑑識は,ソ連崩壊後,ソ連が所持していた核物質がヨーロッパに流出したケースをきっかけに研究がスタートしたもので,2001年の同時多発テロ以降は米国もこの核鑑識に力を入れています。核鑑識技術を用いれば不正取引やテロなどで使用された核物質の起源を特定できるため,犯人を特定し刑事訴追できる可能性が高まります。また,核鑑識技術を保有し向上させることで,核テロ等に対する抑止効果を高めることも期待されます。日本でも原子力研究開発機構(JAEA)が中心となって核鑑識に関する研究開発を進めるとともに,同分野の人材育成等を行っています。

 

世界の核セキュリティ強化についての日本の取組

日本は国内の核テロ対策に加え,国際社会における核セキュリティ強化へ積極的に貢献しています。IAEAに設置された核セキュリティ基金に対し,2017年3月までに94万ドル及び436万ユーロを拠出し,積極的な支援を行っています。また,IAEAと共催でアジア諸国における核セキュリティ強化に関する国際会議を開催したほか,ベトナム,タイ等における核物質防護の強化や放射線検知能力向上のための事業を実施するなどの取組を行っています。核テロ対策に関する国際的なイニシアティブに関しては,2016年の米国核セキュリティ・サミットの際に発表した大量破壊兵器・物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップによる声明は日本がリード国として取りまとめを行いました。また,GICNTについても,日本はこれまでに開催された全ての全体会合に参加しています。人材育成に関する国際協力としては,2010年12月にJAEAの下に設立された核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)が積極的に活動を展開。アジアの専門家などを対象に原子力の平和的利用に関するセミナーや核セキュリティに関する研修などを数多く実施し,これまでの受講者は約3300人になります。

核不拡散・核セキュリティ総合支援センターでの研修の様子
 

次回の核テロ対策国際会議は,東京開催!

2017年6月1日と2日の2日間,核テロ対策国際会議(GICNT全体会合)が東京で開催されます。GICNTは軍縮・不拡散分野において米露が協調する大変貴重な枠組みです。同会議は,核兵器国やNPT非締約国(イスラエル,インド,パキスタン)を含む88もの国々と5つの機関(IAEA,EU,ICPO,国連薬物犯罪事務所(UNODC),国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI))から200人規模の参加が見込まれる大型国際会議であり,2016年に開催された核セキュリティ・サミットとIAEA核セキュリティ国際会議に続き,この分野における今年最もハイレベルの会議となる予定です。

 

日本開催の意義 - 他人事ではない核テロ対策

今回,米露が共同議長を務める核テロ対策国際会議を日本で開催することで,日本は引き続き核セキュリティ強化に向けた取組で世界をリードしていく姿勢をアピールする方針です。また,2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控えて,核テロ対策に関する日本のイニシアティブを国際社会に発信すると同時に,同会議の開催を通じて,核セキュリティの重要性についての国内の意識向上を図っていきたいと考えています。核テロの脅威は決して他人事ではなく,私たちの身近で起こり得るものです。各国で保有している核関連物質をしっかり管理することはもちろん,不法に悪用しようとする者の手に渡らないようにすることは,国際社会にとっても私たちの生活を安全に守るためにも,大変重要なのです。

 
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