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Vol.148 2016年8月25日
核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)とは

2016年6月28日から30日の3日間,「核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)第3回全体会合・作業部会会合」が東京で開催され,26か国及びEUから約100名が出席しました。今回は,この国際パートナーシップについて解説するとともに,核兵器のない世界のために,国際社会は,日本は,何をしなくてはいけないのかについて考えていきます。

「核兵器のない世界」の実現に向けて

2016年5月,オバマ大統領は現職米国の大統領として初めて広島を訪問しました。オバマ大統領は平和記念公園での演説で,「私自身の国と同様,核を保有する国々は,恐怖の論理から逃れ,『核兵器のない世界』を追求する勇気を持たなければならない」と述べ,安倍総理も,「『核兵器のない世界』を必ず実現する。その道のりが,いかに長く,いかに困難なものであろうとも,絶え間なく,努力を積み重ねていくことが,今を生きる私たちの責任」と語り,両首脳から核軍縮に関する力強いメッセージが,広島の地から発信されました。

平和記念公園での献花後握手する両首脳(左)と,ステートメントを実施する安倍総理大臣(右)(写真提供:内閣広報室)
 

世界の核兵器の現状

核兵器とは,核反応が起こるときのエネルギーを利用した兵器のことで,原子爆弾や水素爆弾などのことを指します。核兵器は,通常の爆弾とは比較にならないほどの破壊力を持ち,爆発すると大量の放射線を発生させる兵器です。現在世界にある,核兵器として利用できる核弾頭の数は,約1万6千個にのぼると言われています。核兵器不拡散条約(NPT)において「核兵器国」と位置づけられているのは,米国ロシア英国フランス中国の5か国です。その他にも,インドパキスタンが核兵器の保有を宣言しており,イスラエルは宣言していませんが,事実上の保有国とみなされています。これらの国のうち,米国とロシアの二国で世界の核兵器のほぼ9割を保有している状況です。

世界の核兵器の状況
 

米国,ロシアの「核軍縮」への道

世界の核保有数を年次別のグラフで見てみると,米国に続き,第二次世界大戦後,ソ連,英国,フランス,中国が相次いで核実験を実施。核の保有数も右肩上がりに増加していきました。このような状況の中で1970年に発効したのが,“核の憲法”と位置づけられる「核兵器不拡散条約(NPT)」です。NPTでは,前述の5か国を「核兵器国」と位置づけ,核兵器国が核兵器を減らす取組(核軍縮)をすることを約束するとともに,それ以外の国々が核兵器を保有することを禁止しました(核不拡散)。また1991年に米国とソ連の間で調印された「戦略兵器削減条約(START: Strategic Arms Reduction Treaty)」は,冷戦期に増大した両国の戦略核戦力を,大幅に削減するプロセスになりました。このように時代が進むに従い,米国と,ソ連崩壊後のロシアは,揃って核軍縮の道を歩んでいくことになりますが,現在でも米国とロシアの二国で世界の核兵器の大部分を保有している状況に変わりはなく,両国による核兵器の削減は,世界の核軍縮にとって大きな意味を持っていると言えます。

核保有数(1945-2015)
 

核軍縮プロセスにおいて検証の果たす役割

核軍縮を進めるにあたっては,相手国も確実に合意を遵守しているとの確信が得られなければ,自分の国だけが核軍縮を進めることとなり,安全保障上の不利益を受けることになります。したがって,安全保障上の不安を抱えずに,核弾頭や運搬手段(ミサイル)を削減・廃棄できるような環境を作るためには,相手国も核軍縮のための約束を遵守していることを確認する作業,すなわち「検証」が重要な役割を果たします(※)。 国際的な約束に規定される義務を締約国が遵守していることを明らかにする「検証可能性」は,核軍縮措置によって削減された核兵器が解体・廃棄された後,再び軍事目的に戻されないようにする「不可逆性」,そして核戦力の「透明性」とともに,核軍縮のプロセスを進める上で重要だとされています。この「検証可能性」,「不可逆性」及び「透明性」は核軍縮の「3原則」として位置づけられ,核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の合意文書を含む多くの軍縮関連の文書で言及されてきています。
※核弾頭や運搬手段の削減・廃棄が,条約上の義務や約束にしたがって適切に行われていることを二国間で又は国際的に確認することを「核軍縮検証」と呼びます。

 

核軍縮における検証の課題

一方で,核軍縮の検証を実施していく上で,多くの課題を克服する必要があることも指摘されてきました。核兵器は,一般的に国家安全保障における最高機密に当たるため,その国が実際にどれだけ核兵器を保有しているのかも含め多くの機微な情報の扱いに配慮しながら,削減・廃棄のプロセスを検証する作業を進めなければなりません。こうした検証作業は核兵器国同士であっても技術的に大変難しいと言われています。ましてや,非核兵器国も関与する核軍縮の検証について検討する場合,核兵器国は非核兵器国に対して核兵器の製造や取得につき援助や奨励を行ってはならないと規定するNPT第1条の義務,また,非核兵器国は核兵器国の製造・取得について何ら援助を受け取ってはならないとする同第2条の義務に違反しない形で進めなければなりません。

 

「核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)」とは

このような流れの中,2014年12月に米国の提唱によって始まったのが,「核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)」です。IPNDVは,核軍縮検証(※)のための方途や技術について,核兵器国と非核兵器国が一緒になって議論・検討する多国間のイニシアティブです。2015年3月にワシントンDCで第1回会合,同年11月にオスロで第2回会合が開催され,当面の目標として,核兵器のライフサイクル(核物質の生産・管理,核弾頭の製造・配備・保管,削減・解体・廃棄等)のうち,今まで行われていなかった「核弾頭の解体及び核弾頭解体に由来する核物質」の検証の方途や技術に焦点を当てた検討を進めることで合意されています。

核兵器のライフサイクルの概念図(出典:Nuclear Threat Initiative(NTI))
 

東京で開催されたIPNDV第3回全体会合

2016年6月28~30日,東京でIPNDV第3回全体会合が開催され,核兵器国,非核兵器国を含む30カ国近い国から,約100名もの人々が参加しました。6月28日の全体会合開会式の後,具体的な議論は3つの作業部会において行われました。作業部会1ではIPNDVの目標設定を含む政策的側面について議論し,核軍縮検証を進めていく上での考え方の枠組みとなる様々な文書の作成作業を進めました。作業部会2では実際の検証である現地査察の方法について議論し,鍵となる要素や,これまでの軍縮条約における現地査察のベスト・プラクティス,将来の現地査察のアプローチ等についての洗い出しを行い,関連文書の作成作業を進めました。作業部会3では現地査察を実施する上で適用可能な各技術についての議論を進め文書作成を行い,また,技術的課題について議論しました。6月30日には再び全体会合を行い,それぞれの作業部会からの報告を受けて東京会合は終了しました。

東京で行われたIPNDV第3回全体会合(左)と作業部会会合(右)の様子
 

IPNDVの意義

IPNDVは,核軍縮の進め方において異なるアプローチを有する国が一堂に会し,核軍縮検証について真剣に議論を繰り広げることに大きな特徴があります。核軍縮検証は,例えば,新戦略兵器削減条約(新START条約)における米国とロシア両国政府による相互査察など,二国間では今までも行われてきました。しかし,核兵器国のみならず非核兵器国も交え,多国間の検証体制のあり方について検討を始めることは,更なる核軍縮の進展のための新たな試みとして大きな意義があると言えます。また今まで米国・ロシア間の核軍縮プロセスにおける検証の対象となっていなかった「核弾頭の解体」について,技術的な側面から検討することは,IPNDVのひとつの成果と言えます。IPNDVには,核兵器国と非核兵器国を協調的枠組の下に団結させる役割があります。核兵器国に限定されず,核の検証や関連科学の分野で技術的専門性を持つ国々が集まり,課題解決のためのより幅広い知的基盤を提供し合う環境を作ることは,世界の核軍縮を大きく進展させる契機になると考えられています。

 

日本の取組

日本は唯一の戦争被爆国として,「核兵器のない世界」の実現に向け,様々な多国間の枠組みや二国間の機会を使って,積極的な核軍縮外交を進めてきました。具体的には,国連総会で過去20年以上にわたって核兵器廃絶決議を提出し,圧倒的多数の賛成で採択されてきています。また,G7や軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)といったグループを通じた軍縮外交を行ってきています。また,核兵器国を含む主要な国との間で二国間協議を開催し,核軍縮に関する密接な意見交換を行うとともに,必要に応じて個別の働きかけを行っています。また,日本は国際原子力機関 (IAEA)による厳格な保障措置を受け入れており,検証技術について多くの知見を有しています。日本は今後も,IPNDVを始めとした,核軍縮に関する国際的な議論の場で積極的に発言していくとともに,「核兵器のない世界」を実現するために,核兵器国,非核兵器国双方と連携しながら,国際社会をけん引する役割を担っていきます。

 
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