2016年,包括的核実験禁止条約(CTBT)は国連での採択から20周年を迎えます。日本は2015年9月から2年間,CTBT発効促進共同調整国としてCTBTの早期発効に向けた取組を主導する役割を担い,国際的な期待も高まっています。今回は,CTBTの概要とともに,CTBTの検証制度である「国際監視制度(IMS)」の意義,そして日本がこれまで行ってきたIMSへの貢献について解説します。
■包括的核実験禁止条約(CTBT)とは
包括的核実験禁止条約(CTBT)は,宇宙や地下を含むあらゆる空間での核実験を禁止する条約です。1996年9月に国連で採択され,2016年2月現在,183か国が署名をし,批准した国は164か国にのぼります。ただし発効には核保有国と,潜在的な核開発能力があるとされる44か国(※)の批准が必要であり,米国,中国,エジプト,イラン,イスラエル(以上5か国は署名済),北朝鮮,インド,パキスタン(以上3か国は未署名)の8か国が未批准のため,未だ発効にはいたっていません。
(※)発効要件国(44か国)
ジュネーブ軍縮会議の構成国であって,IAEA「世界の動力用原子炉」の表に掲げられ,かつ,IAEAの「世界の研究用原子炉」に掲げられている国。
■国際監視制度(IMS)の存在
しかし,CTBTは未発効の状態でも,核軍縮において大きな意義を果たしていると言えます。そのひとつが「国際監視制度(IMS)」です。IMSとは,包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)が整備を進めている,核実験の実施を24時間監視するシステムです。具体的には,全世界337か所に監視施設(地震波,放射性核種,水中音波,および微気圧振動の監視を行う4種類の観測所321か所+放射性核種実験施設16か所)を設置し,核兵器の実験的爆発,または他の核爆発が実施されたか否かを監視しています。このシステムを活用すると,地球上のいかなる地域で行われる1キロトン以上の核爆発実験も,検知可能とされています。

■日本におけるIMS整備
日本国内においても,10か所のIMS監視施設が設置されています。これらの施設が探知した地震波などのデータは,ウィーンにあるCTBTOの国際データセンター(IDC)に送信され,日々解析が行われています。IDCが集約した観測データや解析結果はデータベースで管理されるとともに,要求のあったCTBT締約国の国内データセンター(NDC)に対して配信されます。各締約国は,IDCから入手したこれらのデータをさらに解析・評価し,核実験の実施を疑わせる事態が発生した場合は,現地査察の必要性につき発議し,現地査察の実施を決定する仕組みになっています。


■IMSの有効性~北朝鮮による核実験の検知
IMSはCTBT採択以降,20年の間に着実に進展をもたらしており,現在では全体の9割強(300か所)の設置が完了しています。一方でIMS自体の有効性も確認されており,直近では2016年1月6日の北朝鮮による核実験を含め,特に地震学的監視と放射性核種監視に関して効力を発揮してきました(放射性核種に関しては2013年時のみ)。IMSは国際的にも,そして日本にとっても,大変重要な検知システムとして認知されているのです。
■IMSのさらなる可能性
またIMSは,全世界に張り巡らされたネットワークとして,民生や科学分野における貢献が期待されています。例えば,2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故の際には,IMSの観測ネットワークが放射性核種を検知。特に,事故を起こした原発に最も近い群馬県高崎市の観測所では,高濃度の放射性核種が検出され,その旨を世界に向けて発表しました。またCTBTOの事務局によって2年に1回開催される科学技術会議は,世界科学会議のひとつとされており,世界中の研究者や専門家,外交関係者,様々な学術機関の代表が集まり,軍縮・不拡散,そして包括的核実験禁止における科学技術の役割に関して話し合いを行っています。

■日本の貢献
世界で唯一の戦争被爆国である日本は,これまでCTBTの推進とIMSをはじめとした核実験検証体制の確立を重視し,技術面,資金面,人材面など,様々な形で貢献を行ってきました。2002年11月には,国内にCTBT運用体制が成立。事務局を務める(公財)日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターと,2つの国内データセンター(NDC)との三者が一体となって運用を行っています。また,ODAの一環としてJICAによるグローバル地震観測研修を実施(1995年度~現在)。CTBT体制やIMSにおいて重要な役割を果たせる人材を育成するため,核実験探知に必要な観測技術や核実験を識別するデータ解析技術に関する研修などを行っています。さらに日本政府はCTBTOの大気輸送モデル強化プロジェクトなどに対し,任意拠出を行っています(2012年,2013年)。


■IMSの未来とCTBT発効に向けて
このように,検知システムの有益性,そして様々な分野への発展性を含め,国際的に大きな意義を持つIMSは,今後100%完成させることにより,核実験探知網という核実験実施の抑止力として,さらなる効果が期待されています。2016年は,CTBTが採択されてからちょうど20周年を迎えます。日本は2015年9月より,カザフスタンとともに「CTBT発効促進共同調整国」に就任。ニューヨークで行われた第9回CTBT発効促進会議で岸田外務大臣は,共同議長として (1)発効要件国を中心に未署名・未批准国への政治的働きかけの促進,(2)核実験検知のための国際監視制度の構築の促進,そして,(3)核兵器使用の惨禍を市民社会に一層広めていくことの促進という「3つの促進」を呼びかけました。日本は今後も,条約の早期発効のための努力と取組を継続・主導していくとともに,IMSの有効運用に向け,技術面,人材面,財政面など,様々な側面からCTBTに対し効果的な支援を続けていきます。
