現在,ASEAN諸国の中学や高校などの教育現場では,“日本語パートナーズ”と呼ばれる多くの日本人が活躍しています。現地で高い評価を受けている“日本語パートナーズ”とはどういう人たちなのか,そして今アジアで求められている“日本らしい”文化交流や支援の形とはどういうものなのかについて,解説します。
■“日本語パートナーズ”とは
経済成長著しいASEAN諸国では,日本の文化や科学技術などについての関心が高く,近年のポップカルチャーに対する人気も相乗効果となり,日本語を学びたいと考える若い人たちが急激に増えています。現地では日本語教育が盛んに行われており,中学,高校の授業に取り入れている国も多いのですが,その反面,日本語の先生の数と経験の不足が課題となっています。そのため日本政府は,独立行政法人国際交流基金を通じて,現地の日本語の先生をサポートしながら,“生きた日本語”を教えられる人材を派遣する事業を,2014年より開始しました。その人材が“日本語パートナーズ ”です。
■“日本語パートナーズ”の役割
“日本語パートナーズ”は,ASEAN諸国の中学・高校などで,文字通り先生や生徒の“パートナー”として行動します。現地の日本語の先生のアシスタントとして授業をサポートするほか,教室内外で生徒たちの日本語での会話のパートナー役を務めたり,地域の人たちに日本語と日本文化の魅力を伝える交流活動を行ったりしています。また“日本語パートナーズ”自身も現地の言語,文化,習慣などを学び,その体験を日本に発信するという重要な任務を担っています。


■“文化のWAプロジェクト”の一環として
日本語パートナーズ派遣事業は,現地のニーズに応える形で開始したプロジェクトであると同時に,日本とアジアを結ぶ文化交流政策の大きな柱のひとつでもあります。2013年12月に東京で開催された日・ASEAN特別首脳会議において,安倍総理は「アジアにおいて,お互いの固有の文化や伝統を受け入れ,知り合うことにより,この地域は更に大きな力を発揮できると確信する」とし,新しいアジア文化交流政策「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト~知り合うアジア~」を発表しました。このプロジェクトを進めるために国際交流基金の中にアジアセンターを立ち上げ,東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までの7年間を目途に,3000人以上の“日本語パートナーズ”を派遣することを目標にしています。

■ASEAN10か国に3000人以上を派遣!
“日本語パートナーズ”に参加できるのは,満20歳から満69歳までの,日本国籍を有する人です。日常英会話ができるとともに,心身ともに健康であること,派遣前研修に参加できることなどが主な条件になっています。日本語を教えた経験がない人でも,アジアとの交流に熱意を持った人であれば応募ができるため,老若男女問わず,様々な経歴の人たちが活躍しています。派遣期間は1年未満で,国際交流基金から,生活費が支給され,住居が提供されます。2014年度は,インドネシア,タイ,マレーシア,ベトナム,フィリピンの5か国に計100名を派遣しました。2015年度は8か国に200人以上を派遣し,その後もさらに人数を増やしていく予定です。

■派遣先での活動の様子
派遣先では,現地の人々と同じように生活をしながら,生徒たちや先生たちと日本語や現地語でコミュニケーションをとることが日々の活動になります。「日本語を勉強したい」と本気で思っている人々に接しているうちに,彼らから刺激を受け,“教える”だけではなく様々なことを“学ぶ”機会にもなります。実際に“日本語パートナーズ”に参加した人からは,「“日本語パートナーズ”の活動は,これまでの人生とあまりに違った。日本ではできない体験だった」「今後どのような仕事をする際にも支えてくれる,貴重な学びだった」「自分の人生の中で最も楽しく充実した6か月間だった」などの声が多く寄せられています。
“日本語パートナーズ”からの感想 | |
インドネシア3期 / 横田奏子さん | タイ2期 / 村田千弥さん |
授業のアシスタントに加えて,文化紹介も行っています。先日の授業では,「右,左,上,下,折る」などの日本語を学びながら,新聞紙でかぶと作りをしました。できあがったら写真撮影会となり大賑わいに。生徒たちは毎日元気いっぱいです。 | 高校2年生に「浴衣」を紹介しました。ほとんどの生徒が初体験のようでとても興味を持ってくれました。 「ピンクの帯が可愛くて大好き!」とはしゃぐ女子生徒,チャンバラごっこを始める男子生徒達…。いつかまた浴衣を着る機会に思い出してもらえると嬉しいです。 |
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■現地の98%が「有意義な活動」と評価
現地での“日本語パートナーズ”に対する評価は高く,およそ98%の派遣先機関が“日本語パートナーズ”の活動を「有意義だった」と評価しています。生徒の学習意欲の向上に貢献するだけではなく,授業アシスタントとしても期待ができ,さらに生徒たちの日本語や日本文化への理解を促進する機会を創出するととらえられているようです。今後は,現地のニーズをひとつひとつ丁寧に把握し,それぞれの派遣先に適したサポートを行うことで,さらなる先生のスキルアップと生徒の日本語能力の向上を目指していこうとしています。

■同じアジアで暮らす人々として
これから日本を含むアジアがさらなる成長を目指していくには,アジアで暮らす人々がお互いのことをよく知り合い,ともに生きる隣人として共感や共生の意識を育んでいくことが重要です。その橋渡し役の一端を担っているのが,この“日本語パートナーズ”であり,“日本語パートナーズ”たちから学んだ現地の人たちです。日本はアジアの国々に対し,単に交流の機会を設けるだけではなく,「対等の立場」「双方向」を重視した“日本らしい”コミュニケーションの場の創出に尽力してきました。今後日本は,この日本語パートナーズ事業を通じて,ASEANを中心とするアジアとの間の文化交流を一層促進するとともに,アジアにさらなる“日本ファン”を増やしていきます。

