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Vol.134 2015年11月12日
“誰一人取り残さない”世界の実現-「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択

2015年9月25日,ニューヨークの国連本部にて,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。このアジェンダは2015年で終了する「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継となるもので,途上国だけでなく,先進国も含めたすべての国が取り組むべき目標を示しています。人々の生活のあり方にまで踏み込んだ,斬新かつ高い理想を掲げる同目標について解説します。

ミレニアム開発目標(MDGs)とは

2000年9月,国連ミレニアム・サミットに参加した147の国家元首を含む189の国連加盟国代表は,21世紀の国際社会の目標として,より安全で豊かな世界づくりへの協力を約束する「国連ミレニアム宣言」を採択しました。この宣言と,1990年代に開催された主要な国際会議やサミットでの開発目標をまとめたものを「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」と呼びます。MDGsは2015年までに達成すべき8つの目標と21のターゲットを掲げており,日本もMDGsの達成のために様々な取組を行ってきました。

わかる!国際情勢 Vol.13「ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた日本の取組

 

MDGsの成果と課題

15年間におよぶ国際社会のMDGsに対する取組は,幾つかの分野で大きな成果を上げました。例えばMDGsのゴール1に掲げられた「極度の貧困と飢餓の撲滅」では,極度の貧困状態(※1)に置かれている人の数は,1990年のおよそ19億人から2015年にはおよそ8.4億人と,半分以下に減少しました。またゴール6で掲げられた疾病対策においても,エイズ感染は40%減,マラリア感染からは約620万人,結核からは約3700万人もの命が救われています。このように明らかな進展がみられる分野がある一方で,未達成の課題が残されていたり,達成度について地域的なばらつきがあるなど,すべての分野において成功を収めたとは言いきれない状況であることも事実です。またこの15年間で,環境問題や気候変動問題への対応,国内の格差及び国と国との格差の拡大,開発協力アクターの多様化(※2)など,国際環境も著しく変化しており,これらの複雑な問題についても考慮した「ポストMDGs」の策定への取組が進められてきました。

(※1)当時の世界銀行による定義では「1日1.25ドル未満で暮らす人」
(※2)政府や担当省庁,ODA実施機関のほか,企業,NGO,大学,地方自治体など,開発協力に関わる様々な主体のこと。

ミレニアム開発目標(MDGs):2015年プログレス・チャート
 

ポストMDGs=「持続可能な開発のための2030アジェンダ」

MDGsからSDGsへMDGsの達成期限が迫る中,MDGsの後継として議論されてきたのが「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」です。この中には,保健や教育などMDGsの残された課題や,環境問題や格差拡大など新たに顕在化した課題に対応すべく,「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」が掲げられています。SDGsは,もともと2012年6月にリオで開催された「国連持続可能な開発会議(「リオ+20」)」で提唱され,その後2013年3月から立ち上げられた作業部会で加盟国間の交渉を経て2014年7月にとりまとめられ,同年9月に国連に提出されたものです。MDGsと SDGsは,その成り立ちに大きな違いがあります。MDGsは国連の専門家主導で策定されたゴールでしたが,SDGsは国連加盟193カ国による8回に及ぶ政府間の交渉で策定され,かつNGOや民間企業,市民社会の人々等も積極的に議論に参加して作られたものです。またMDGsが8ゴール・21ターゲットだったのに対し,SDGsでは格差や貧困,気候変動をはじめ,人々の生産や消費のあり方にまで言及した「17ゴール・169ターゲット」という多岐にわたる目標が設定されており,2030年までの“完全実施”を目指しています。2030アジェンダでは,冒頭の前文及び宣言とともにSDGsとこれを実行するための実施手段,フォローアップの考え方が一つの文書としてまとめられており,2014年1月から8回におよぶ政府間交渉を経て2015年8月に実質合意され,同年9月に各国首脳が参加した国連サミットで採択されました。

 

2030アジェンダの採択

2015年9月25日から27日の3日間,ニューヨーク国連本部において「持続可能な開発のための2030アジェンダを採択する国連サミット」が開催され,「2030アジェンダ(PDF)」が全会一致で採択されました。オバマ米大統領を始め,国連加盟国の首脳及び閣僚等が参加したほか,2030アジェンダに関連する多様なテーマのサイドイベントが開催され,国際機関,民間企業,研究機関,市民社会等から多くの人々が参加し,ニューヨークの街は祝福する空気に包まれました。日本からも安倍総理が出席し,今後のアジェンダ実施に向けた日本の考え方や貢献策等を発信(PDF)しました。特に,旧来の南北二分論を超えて,すべての国,民間企業,市民社会等あらゆるステークホルダーが役割を果たす,新たなグローバル・パートナーシップの構築が不可欠である点を強調しました。

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミットの様子(写真提供:内閣広報室)

採択当日の国連本部ビルは,SDGsのゴールカラーで彩られた
 

お互いにリンクし合うゴール群

今回採択された2030アジェンダの最大の特徴は,途上国だけではなく先進国を含むすべての国が取り組むという「ユニバーサリティ」にあります。そして多くの国や国際機関が様々な課題を挙げ,アジェンダに取り入れようとした結果,MDGsと比べてゴール・ターゲットが大幅に増えたことも,特筆すべき点のひとつです。ただしこの「17ゴール・169ターゲット」は,決してバラバラに設定されたものではありません。例えば「水と衛生」分野のモデルのひとつとして,コミュニティー内に井戸や安全で清潔なトイレを作るという支援がありますが,これにより病気の蔓延を防ぎ,「貧困をなくす」「健康と福祉」分野に貢献するだけではなく,1日5時間近い水運びの労働から解放された結果,女児たちが学校に通う機会を創出することができます。そしてあるインドの村で実際に行われているように,女性たちを井戸の修理工として育成することで「ジェンダー平等」に貢献し,収入の向上に寄与することも可能になります。つまりSDGsは独立した課題の集合体であると同時に,相互に関連し合っている包括的な目標でもあるのです。

SDGs(持続可能な開発目標)

インドの井戸修理
 

2030アジェンダが目指すもの

このようにSDGsには,特定の課題に絞るよりも,様々な課題を俯瞰的な視点の下で統合的に課題を扱う方が,より望ましい成果を生み出すだろうという考え方が反映されています。また,「0.7%目標及び後発開発途上国(LDC)向け0.15~0.20%目標」というODAの対GNI比の数値目標の重要性を再確認する一方で,途上国の持続開発のために必要とされるリソースは,ODAだけではなく,国内資金の動員や民間資金・送金等,様々な資金の活用が以前にも増して重要になっていくことを強調しています。2030アジェンダとは,国際機関や各国政府などから発信する従来の“縦割り型”の目標ではなく,民間企業や市民社会を巻き込んだ“全員参加型”の目標です。2030アジェンダが提唱するこの姿勢は,今世界で起きているあらゆる問題に対応するには,これまでのやり方を一新し,すべての人々が結束しなければ乗り越えられないという,国際社会の強い危機感と決意が表れていると言えるのかもしれません。

 

日本の取組とその成果

日本は,国際社会の議論が本格化する前から,MDGsフォローアップ会合の開催や非公式な政策対話(コンタクト・グループ)の主催,国連総会サイドイベントの開催,第3回国連防災世界会議の開催等を通じて新しいアジェンダの策定を主導し,本年1月から行われていた政府間交渉にも積極的に参加をしてきました。その結果,今回採択されたアジェンダのスローガンである“人間中心(people-centered)”,“誰一人取り残さない(no one will be left behind)”などに,日本が重視する人間の安全保障の理念が反映された他,グローバル・パートナーシップ,女性・保健・教育・防災・質の高い成長等,日本が提唱してきた要素や取組が多く盛り込まれています。

 

日本に期待される役割

日本は2030アジェンダの採択に合わせて,保健,教育のイニシアティブ(「平和と健康のための基本方針」「平和と成長のための学びの戦略」)を発表しました。2015年2月に閣議決定された開発協力大綱に示されている「人間の安全保障の推進」という概念の下,これらのイニシアティブを通じて,途上国のSDGs達成に向けて協力していきます。同時にリデュース(Reduce),リユース(Reuse),リサイクル(Recycle)の“3R”をはじめとした,日本が誇る循環型社会形成の知見や取組を世界と共有し,国際社会に日本発の持続可能な開発モデルを発信していこうとしています。これにより,日本は持続可能な開発の実現に向けて今後さらなる貢献を行うとともに,2016年からの新たなるスタートに向けて,官民一体となって取り組んでいく予定です。

 
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