2015年,青年海外協力隊は発足から50周年を迎えました。国民が参加する「日本の顔の見える援助」の代表であり,国際的にも高い評価を得ている青年海外協力隊とは,どのような事業なのでしょうか。今回は,青年海外協力隊50年の歩みとこれまで世界各地で実施してきた事例を振り返り,改めて本事業の意義について解説します。
■青年海外協力隊とは
「青年海外協力隊」とは,国際協力の志を持つ日本の人々を開発途上国に派遣し,途上国の人々とともに生活し,異なる文化・習慣に溶け込みながら,草の根レベルで途上国の抱える課題の解決に貢献する日本のODA(政府開発援助)により独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施するボランティア事業のひとつです。開発途上国からの要請に基づき,それに見合った技術や知識,経験を「開発途上国の人々のために活かしたい」20~39歳の人達が参加しています。JICAによる募集・選考後,派遣前訓練を受けた上で,青年海外協力隊の隊員として各国に派遣されます。これまで青年海外協力隊が派遣された国の数は世界88か国,隊員数は約4万人にも達します。現在は,世界69か国で約2,000人の隊員が,青年海外協力隊として活動しています(2015年1月末現在)。派遣期間は原則2年間ですが,1か月から参加できる短期ボランティア制度もあります。

■青年海外協力隊の歩み
青年海外協力隊はJICAボランティア事業の中で最も古く,その主な目的は,(1)開発途上国の経済・社会の発展,復興への寄与,(2)友好親善・相互理解の深化,(3)国際的視野のかん養とボランティア経験の社会還元です。1965年4月,青年海外協力隊の前身である「日本青年海外協力隊」が創設され,同年12月に初めて5名の隊員がラオスに派遣されたほか,初年度である1966年3月末までにラオス,カンボジア,マレーシア,フィリピン,ケニアに合計35名の隊員が派遣されました。1974年に現在の「青年海外協力隊」と改称しました。その後,青年海外協力隊の他に,日系社会青年ボランティア,シニア海外ボランティア,日系社会シニア・ボランティアが創設され,ボランティア参加者の年齢層や派遣国も多様化しています。近年では企業や大学など,民間との連携も活発に進められており,ボランティア参加者は広がっています。
青年海外協力隊 50年の歩み | |
1954年 | 日本の政府開発援助(ODA)スタート |
1965年 | 「日本青年海外協力隊」発足/初の協力隊員派遣(ラオス) |
1966年 | アフリカに協力隊員派遣開始(ケニア) |
1968年 | 中米に協力隊員派遣開始(エルサルバドル) |
1972年 | 大洋州に協力隊員派遣開始(西サモア(現在のサモア)) |
1974年 | 国際協力事業団(JICA)設立/「青年海外協力隊」に改称 |
1978年 | 南米に協力隊員派遣開始(パラグアイ) |
1990年 | 協力隊派遣数1万人を突破 |
1992年 | 東欧に協力隊員派遣開始(ハンガリー) |
2000年 | 協力隊派遣数2万人を突破 |
2007年 | 協力隊派遣数3万人を突破 |
2015年 | 協力隊派遣数4万人を突破 協力隊発足50周年 |
■バラエティ豊かな活動分野
各国に派遣された隊員たちは,現地でどのような活動を行っているのでしょうか。青年海外協力隊というと,一般的には井戸掘りなど,現地のコミュニティに入って活動をするイメージが強いかもしれませんが,自動車整備,コンピュータ技術,野菜栽培,看護師といった専門知識や経験を要する技術支援系の職種から,理科教育,小学校教育,各種スポーツ競技の職種など,学校やコミュニティでの教育・普及活動といったソフト系のものまでさまざまな職種があり同じ職種でも派遣国や配属先によって活動内容はそれぞれ異なります。

■青年海外協力隊の活動例(1):セネガルの村で野菜の流通を改善
これまで最も多くの隊員が派遣されてきた職種の一つに,コミュニティ開発があります。一例を挙げると,乾燥地帯にあるセネガルのチャメヌ村へ村落開発普及員(※)として派遣された澤田霞さんは,現地での生活を通して,住民の生活改善に取り組みました。澤田さんは市場から離れた村落部では野菜の消費量が少なく,「野菜を食べたいが,高価なうえ貴重な食材のため手に入れることができない」という住民が多いことに気がつきます。一方で,そのような状況の中でも,給水塔付近で商店を経営している家庭が,野菜を多く食べていることに着目。この家庭は,市場へ店の商品を仕入れに行くついでに野菜をまとめ買いをしていたことを知ります。さらに給水塔には,生活用水を汲みに来る住民,家畜に水を与えるためにやってくる遊牧民,給水塔の電動ポンプの電源を使って携帯電話の充電に訪れる人々が頻繁に訪れていました。そこで澤田さんは,この商店に野菜販売を依頼し,給水塔に集まる人々が,野菜にアクセスできる環境を作る「給水塔ビジネス」を立ち上げ,住民の「野菜を食べたい」という希望を叶えたのです。このように,村の人々の暮らしに自ら入り込み,自身の足を使って綿密に調査し,住民の立場になって課題解決を考えるという草の根レベルの支援は,青年海外協力隊ならではの活動と言えるでしょう。
(※)現在の職種名はコミュニティ開発。

■青年海外協力隊の活動例(2):スポーツ分野における協力
日本はこれまで多くの開発途上国に対し,柔道やバレー,野球などの競技指導や学校での体育教育普及を目的とした活動に,青年海外協力隊を派遣しています。また,車いすバスケットなどの障がい者スポーツの支援にも,積極的に取り組んでいます。こうしたスポーツ分野における青年海外協力隊の派遣は,2014年からは,「Sport for Tomorrow」プログラムの一環としても認定されています。「Sport for Tomorrow」プログラムとは,2013年9月,国際オリンピック委員会(IOC)総会でのプレゼンテーションにおいて,安倍総理が発表したスポーツ分野における日本政府の国際貢献策であり,東京オリンピックが行われる2020年に向けて,スポーツ指導者の派遣がさらに重点的に行われます。青年海外協力隊の派遣などの日本のスポーツ分野における支援は,競技指導にとどまらず,道具を大切にする文化や,スポーツを通じてルールやチームワークを守ることの大切さを伝えるといった情操教育面の効果という観点からも,受入国側から高い評価を得ています。


■青年海外協力隊の活動例(3):民間企業,自治体,大学などとの連携
近年におけるもうひとつの傾向として,企業や大学,自治体などとの連携が挙げられます。具体的には,2012年度から事業の国際展開を目指す中小企業など民間企業のグローバル人材育成に対するニーズに応えるプログラム「民間連携ボランティア」を実施しています。また,ボランティア派遣に係る覚書を大学と締結し,学生などのボランティア事業参加を促進しています。例えば,経済の発展に伴いスポーツへの関心が高まるペルーでは,3年ほど前から野球の競技人口が増加傾向にあり,ペルー野球連盟を中心に,国内の野球競技のさらなる普及に取り組んでいます。このような状況の中,2013年3月及び2014年2月,近畿大学産業理工学部硬式野球部の部員22人が短期ボランティアとしてペルーに派遣され,少年達に対する野球指導や大学生以上の選手との合同練習,選抜チームとの試合などを行いました。

■国際社会からの評価と期待の声
開発途上国の人々と生活をともにし,相互理解を図り,様々な課題を同じ目線でとらえながら,人々の自助努力を促進する形で展開していく日本の青年海外協力隊の活動は,受入国である途上国側からも高い評価と信頼を得ています。例えば2014年11月,国際協力シンポジウムに出席するため訪日したケニアの運輸インフラ省長官マイケル・カマウさんは,子どもの頃に交流を持った青年海外協力隊員との再会を希望し,40数年ぶりに当時ケニアで活動していた青年海外協力隊員OBとの再会を果たしました。「様々な国際協力事業がありますが,大切なのは人と人との心に橋をかけること」(カマウ長官)という言葉通り,これまで青年海外協力隊が伝えた想いと絆は,今も世界各国に根付いています。

■青年海外協力隊創設50周年を迎えて
2015年に,青年海外協力隊事業は発足50周年を迎えます。これまで述べ4万人を超える隊員が行ってきた“草の根外交官”としての活動は,開発途上国における社会や経済の発展,そしてそこに暮らす人々の生活改善に向けて,様々な形で貢献し,浸透しています。この50周年という大きな節目を盛り上げようと,青年海外協力隊をテーマとした映画の製作や記念切手の発行をはじめ,各種関連事業が行われる予定です。青年海外協力隊による支援は,各国との外相会談の場でも継続を要請されるなど,相手国側からの関心も高い事業です。また,各隊員が青年海外協力隊で得た個々の経験は,その後それぞれが活躍する日本や海外での社会活動の場でも,大きな財産となっています。近年のグローバル化の進展に伴い,青年海外協力隊は,国内の民間企業,地方自治体,地域社会などからも多くの期待が寄せられています。今後も一人一人の活動が途上国の発展にしっかりと貢献できるよう,事業を推進していきます。