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Vol.100 2013年6月4日
パナマ~運河とともに発展を続ける国

パナマのマルティネリ大統領が2012年10月に来日したのに続き,2013年5月に岸田外務大臣が同国を訪問するなど,日本とパナマの交流が活発になっています。パナマ運河の完成100周年を2014年に控え,中南米における物流や経済の要衝として注目が集まるパナマについて紹介します。

南北アメリカ大陸,太平洋と大西洋の結節点

パナマ パナマは,北アメリカ大陸と南アメリカ大陸を結ぶ地峡に位置する共和制国家で,西はコスタリカ,東はコロンビアと国境を接しています。東西に細長い国土のほぼ中央を貫くパナマ運河が,太平洋と大西洋(カリブ海)を接続する役割を果たしており,パナマは地政学的に極めて重要な国と言えます。気候は熱帯性で,4月下旬から12月上旬にかけて雨期を迎え,カリブ海沿岸の年間降雨量は3,270ミリに達します。北海道よりやや小さい国土(7.5万平方km)の30%が国定公園や自然保護地域に指定されており,世界の鳥の約11%の種類が生息しているとされる熱帯動植物の宝庫です。約366万人(2012年IMF)の国民は,混血70%,先住民7%等で,公用語はスペイン語ですが,先住民・ヨーロッパ・アフリカ等が融合した多種多様な文化が形成されています。

 

開通100周年を迎えるパナマ運河

現在のパナマ運河 写真提供:パナマ運河庁 1914年に完成したパナマ運河は,太平洋とカリブ海を南北につなぐ,全長約80km,最小水路幅192mの閘門(こうもん)式運河です。エジプトのスエズ運河が海面を直接に結んでいるのに対し,運河中央に位置するガツン湖(人造湖)の水面が海抜26mにあるため,3段階の閘門を設けることにより,船の水位を上下させて通航させる方式を採用しています。幅32.26m,長さ294mの船舶が通航可能で,このサイズはパナマックスと呼ばれる国際的な規格の一つとされていますが,2015年に第3閘門が完成すれば幅49m,長さ366mの船舶が通航できるようになります。パナマ運河庁が管理運営しており,バルク船(7万トン,積荷満載)の場合,約3,000万円の通航料がかかります。現在は年間約14,500隻(1日平均約40隻)の船舶が通航し,コンテナ貨物や石油など年間約2億1,800万トンの貨物が運河を経由しています。

「3度の独立」によって運河を主権に

パナマ略史 パナマの国の歩みにおいて,運河は重要な役割を演じてきました。1501年にバスティーダが到達して以来,スペインの植民地支配・輸送の拠点として栄えた頃にも,すでに運河の構想はありました。1821年にパナマが最初に独立したのは,現在のコロンビア・ベネズエラエクアドルを含む大コロンビアとしてでした。スエズ運河を完成させたフランス人レセップスが海面式運河の建設に着手するも,資金難などのため挫折すると,その事業の引き継ぎをはかった米国の支援を受け,1903年にコロンビアから分離独立してパナマ共和国が誕生しました。米国は新しいパナマ政府と条約を結び,運河の建設・管理権や運河地帯(幅16km)の永久租借権を得てパナマ運河を完成させますが,その後も運河地帯は米軍が駐留し,米国の治外法権のもとにありました。クーデターや米軍の軍事侵攻などを経て,運河と周辺地域が完全に返還された1999年12月は,パナマにとって「3度目の独立」とされています。

 

サービス業を中心に高い経済成長率

パナマの経済成長率(過去10年間) 運河を中心とした特徴的な経済構造をもつパナマは,国内総生産(GDP)の約8割を運河運営,中継貿易,金融,観光などの第3次産業が占めます。うち運河の通航料収入は約24億米ドルで,国庫に納付する額は国家予算の約7%にのぼります。便宜置籍船制度によって世界の船舶の約22%がパナマ船籍であることや,コロン・フリーゾーン(免税地帯)が世界有数の中継貿易拠点として発展したことも,パナマに経済効果をもたらしています。米国とは2012年に自由貿易協定(FTA)を発効するなど,経済的にも関係が深く,通貨は1バルボア=1米ドルの固定レートです。為替変動が周辺国よりも安定しているため,パナマはラテンアメリカの金融センターとして世界各国の銀行が進出しています。一方で,消費財や生産財の大半を輸入に依存しており,輸出8.2億米ドル,輸入126.3億米ドル(2012年,免税地帯を除く)と貿易収支は恒常的に赤字です。近年のパナマ経済は,サービス業の好調に支えられ,ほぼ毎年7%以上の経済成長を続け,2011年と2012年も10%以上の成長を達成しました。

運河の拡張工事で「中南米のハブ」へ

高層ビルが建ち並ぶ首都パナマシティー 現行のパナマ運河がコンテナ船の大型化や通航需要の増加に対応が難しくなってきたのを背景に,1985年から1993年にかけて日本・米国・パナマの3か国による運河代替案調査が実施されました。その結果を踏まえて,前述の運河の第3閘門を建設する拡張工事が,総事業費52.5億米ドルをかけて2007年から進められています。パナマ運河100周年の2014年に完成する予定がずれこんで,開通は2015年になる見通しです。拡張後は,通航できる船舶の最大積載量は現在の約2.7倍となり,将来は米国からシェールガスを輸送するLNG船の通過点として日本企業などの注目を集めています。運河の拡張に並行して,パナマ政府は都市鉄道交通などのインフラ開発を推進しており,首都パナマシティーでは地下鉄の建設が進んでいます。パナマは路線網の広さ世界8位の「コパ航空」を擁しており,空港や港を整備する計画を進めていくことで,「中南米のハブ」としての機能強化を目指しています。

 

100年以上にもわたる日本との結び付き

日本庭園の開所式(左から水城在パナマ大使,ペレス・パナマ市サンフランシスコ区長,ルークス外務大臣(当時),アセベド・パナマ市長代理) 日本はパナマが独立した2か月後の1904年1月に,アジア諸国で最初に外交関係を樹立しました。それ以前にも1860年,江戸幕府の外交使節がワシントンに向かう際に,パナマで鉄道に乗って地峡を横断したとの記録が残されています。2012年11月には東日本大震災の犠牲者を追悼した日本庭園がパナマシティーに完成するなど,両国は現在に至るまで伝統的な友好関係にあります。海上物流の要衝であるパナマと日本は経済的な結び付きも強く,日本は運河の第4位の利用国,コロン・フリーゾーンの第9位の利用国であり,運河拡張工事にも国際協力銀行を通じて8億米ドルを融資しています。さらに,便宜置籍船制度のもと,2,000総トン以上の日本の外航船は約70%がパナマ船籍となっています。日本からの輸出品は家電製品などが親しまれ,2012年のパナマ国内における日本車の販売シェアは約50%を上回っています。また,パナマからは日本のプロ野球で活躍する選手を多く輩出しています。

パナマ運河建設に携わった日本人

静岡県出身の青山士(あきら)はパナマ運河の建設事業に参加した唯一の日本人技師とされています。1904年に渡航した当初は末端の測量員でしたが,能力の高さを評価されて工区の副技師長になりました。1911年に帰国すると,当時珍しかったコンクリート工法など最新の土木技術を採り入れ,荒川放水路など多くの治水事業で功績を挙げ,内務省の技官の最高ポストにも就任しました。

関係を深めていく日本とパナマ

パナマ運河を視察する岸田外務大臣 2012年10月,パナマの大統領としては17年ぶりにマルティネリ大統領が来日しました。2013年5月には,日本の外務大臣として初めて岸田外務大臣がパナマを訪問して大統領への表敬ヌニェス外務大臣との会談を行い,両国の関係は一層緊密になっています。首脳会談や外相会談では,安保理改革や太平洋同盟を通じた関係強化などについて意見を交換し,パナマシティーと郊外を結ぶ都市公共交通計画への日本企業参入に期待が寄せられました。日本はパナマに対して,「環境保全」「経済社会の持続的成長」「地方貧困の削減」を重点分野とする経済技術協力を推進しており,水質モニタリングや,地方の学校や医療の整備計画などに取り組んでいます。パナマの経済や社会の安定は,世界の海上輸送の安定と貿易の発展にとって重要であり,日本はこれからも二国間政策協議などを通じてパナマとの協力を進めていきます。

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