第1章 政府開発援助(ODA)の目的と基本方針
1 ODA大綱の改定
 1992年に閣議決定されたODA大綱は、これまで10年以上にわたって日本の援助政策の根幹をなしてきた。この間、国際情勢は激変し、今や日本を含む国際社会にとって平和構築をはじめとする新たな開発課題への対応が急務となっている。こうしたなかで多くの先進国は、開発途上国が抱える深刻な問題に対して、ODAを通じた取り組みを強化しており、政府、国際機関以外のさまざまな主体も、開発途上国への支援を行い、相互の連携を深めている。日本としては、憲法の精神にのっとり、国力にふさわしい責任を果たし、国際社会の信頼を得るためにも、新たな課題に積極的に取り組まなければならない。そのためには、ODAに対する国民の理解を得ることが重要であり、国内の経済財政状況や国民の意見も十分踏まえつつ、ODAを効果的に実施することが不可欠である。
 このような考えのもと、ODAの戦略性、機動性、透明性、効率性を高めるとともに、幅広い国民参加を促進し、我が国のODAに対する内外の理解を深めるため、2003年8月、日本政府は、ODA大綱を改定した。
 また、2005年2月には、新ODA大綱のもとで、今後3~5年を念頭に、中期的な方針や取り組みをまとめた新ODA中期政策を策定し、ODAをいっそう戦略的に実施するための方途を示した。
2 新ODA大綱のポイント
(1) ODAの目的を明確化
 新ODA大綱は、日本のODAの目的を「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することである」と説明しており、ODAを通じた取り組みは、平和を希求する日本にとって、国際社会の共感を得られる最もふさわしい政策であると位置づけている。
(2) 「人間の安全保障」の視点を強調
  新ODA大綱は、日本のODAのあり方を示す「基本方針」を掲げており、その中で良い統治に基づく開発途上国の自助努力支援、男女共同参画を含む公平性の確保、日本の経験と知見の活用、国際社会における協調と連携のほか、特に個々の人間に着目した「人間の安全保障」の視点を強調している。
(3) 過去10年間の援助潮流の変化を重点課題に反映
 新ODA大綱は、国際社会共通の開発目標である貧困削減、持続的成長、地球規模の問題への取り組みに加え、近年、東ティモール、スリランカ、アフガニスタン、イラクなどにおいて日本が積極的に取り組んでいる「平和の構築」を「重点課題」としている。
(4) アジア重視を継続しつつ、援助需要の変化に応じた重点化を規定
  新ODA大綱は、ODAの重点地域を引き続きアジアとしつつも、アジア諸国の経済社会状況の多様性、援助需要の変化に十分留意して、戦略的に分野や対象などの重点化をはかるとしている。
(5) ODA改革の成果と方向性を示す
 新ODA大綱は、政府全体として一体性と一貫性のある援助政策の立案・実施、被援助国との政策協議の強化、関係府省間の連携、政府と実施機関との連携、内外の援助関係者との連携、現地機能の強化、国民参加の拡大、評価・監査の充実などを強調している。