御列席の皆様,
本日,第3回日本・ニュージーランド・パートナーシップ・フォーラムが開催されますことをお祝い申し上げるとともに,日本にお越しの皆様を心から歓迎いたします。ようこそいらっしゃいました。
日本とニュージーランドは,今年,大震災という大変な試練を,相次いで経験しました。2月22日に発生したクライストチャーチ地震では,日本人を含む多くの方が犠牲となり,日本も救助や鑑定のチームを派遣しました。3月11日に発生した東日本大震災の直後には,ニュージーランドから,クライストチャーチで活動していた隊員を含む,過去最大規模の救助隊を宮城県に派遣していただきました。日本国民は,自らも大変辛い状況にあったニュージーランドからの温かい御支援を決して忘れません。あらためて御礼申し上げます。
御列席の皆様
わずか16日間の間隔で起こった二つの震災は,我々に,自然の脅威の前に国境はないということをあらためて思い起こさせました。そして,両国の経験を通じて,私は,次の三つのことを痛感いたしました。
第一に,人は「生きている」のではなく「生かされている」ということです。人間は,自然に謙虚であらねばならず,自然に対抗して,災害そのものを封じ込めようといった考えは捨てなければなりません。日本はこれから,被災地の復興を進めていく際に,「減災」という考え方を重視していきます。すなわち,堅固な防波堤などの構造物で,災害そのものを防ぐという発想から,いかにしてその影響を少なくするか,フェイルセーフな安全措置を二重三重の構えで講じ,災害の影響に対する強靱(きょうじん)さを高めていくという発想への転換であります。
第二に,人は一人では生きていけないということ,そして,生きるための助け合いは,国の垣根を越えるということです。日本は,震災発生直後から,ニュージーランドをはじめとする国際社会の皆様から,多大なる支援を頂いております。その際,多くの方々が,「日本はこれまで,我々に支援の手を差し伸べてきてくれた。今度は我々が,そのお返しをする番だ」として,支援と連帯を示してくださっていることに,日本国民は大変感動しております。
第三に,ピンチをチャンスに変えることの大切さです。震災後,原発事故によるものも含め,製造業,食品産業,観光業などは,大きな被害を被っています。しかしながら,日本は今後,災害経験を踏まえた新しい社会を創っていこうとしています。特に,津波が直接到達した東北地方沿岸部は,ここにまったく新しい,将来の日本のモデル社会を作っていく場でもあります。
本日の議論に先立ちまして,ただいま申し上げたような考え方に基づき,いくつかのアイデアを提示させていただきたいと思います。
御列席の皆様
我が国は,今後,災害に負けない「強靱な社会」の構築を,より一層目指すとともに,自らの経験を国際社会と共有し,引き続き積極的な国際防災協力を行います。我が国は,来年,大規模災害に関する国際会議を開催することを検討しており,防災分野における新しいグローバルな枠組みの策定に向けた議論の出発点として,この会議を位置づけております。また,2015年に予定されている第3回国連防災世界会議を,我が国に誘致したいと考えています。こうした場を通じ,「減災」という発想を世界に発信していきたいと思います。両国は,防災にかかわる分野で国際社会に貢献を行うための十分な能力と経験があります。両国間の緊密な協力は,国際社会全体の利益になるものです。
また,我が国は,今回の震災を経て,あるエネルギー源の供給能力が低下したとしても,その影響を最小限に食い止めることの重要性を再認識しました。この認識の上に立ち,今後,資源・エネルギー源の多様化を追求していきます。その観点から,我が国は,地熱,風力を中心とした再生可能エネルギー開発が盛んな貴国との緊密な意見交換や協力を特に重視しています。
エネルギー問題との関連では,気候変動問題につきましても,その解決のために貢献していく我が国の姿勢は,震災後も変わりません。そしてその中で,交渉上立場の近いニュージーランドと,引き続き協力していきます。
御列席の皆様
次に,国と国,人と人との連帯という観点から,何点か申し上げます。
今回の震災により,我が国はあらためて,世界市場との緊密な連携があってこその日本経済であることを痛感いたしました。そして,日本の復興は「開かれた復興」でなければならないと強く感じております。昨年11月に政府として決定したEPA・FTA推進の方向性につきましても,震災後もその基本的な考え方は変わっておりません。環(かん)太平洋パートナーシップ協定,いわゆるTPPについては,今回の震災を踏まえ,交渉参加について,らためて総合的に検討し,できるだけ早期に判断する考えです。その中で,ニュージーランドとも,引き続き緊密に情報交換をしていきたいと考えております。
また,日本と世界との絆の根幹は,人と人とのつながりです。日本政府は,震災後であっても,いや震災後だからこそ,特に若い人々の国際交流を積極的に進めていきます。そしてその中で,世界の人々に,日本が力強く復興に向かっている姿を直接御覧になっていただきたいと考えています。
日本とニュージーランド両国民の間には,共通の価値観と市民レベルでの絆を基礎とした,深い関係があります。近い将来で言えば,今年9月には,ニュージーランドでラグビー・ワールドカップが開催されますので,ラグビーを通じた両国間の交流が一層深まることでしょう。特に,同じ予選グループに入っている日本代表チームとオールブラックスの試合が,両国民に元気を与えるような素晴らしい試合となり,そして願わくば,共に決勝トーナメントに進めることを期待しています。さらに,今年の両チームの試合に感動した両国の少年たちが,2019年に日本で開催されるワールドカップで対戦することになれば,こんな素晴らしいことはございません。
外交の世界でも,日本とニュージーランドの連帯を深める行事が予定されています。ニュージーランドは,本年の太平洋諸島フォーラム(PIF(ピーアイエフ))議長国として,9月に,PIF40周年を記念する総会を開催される予定であり,我が国もお招きを頂いております。我が国も,来年5月に沖縄で,太平洋・島サミットを開催いたします。これらの外交舞台においても,我が国は,太平洋島嶼(とうしょ)国(こく)の持続可能な発展という共通目標に向け,ニュージーランドと緊密に協力していきます。
御列席の皆様
最後に,ピンチをチャンスにという観点からいくつか申し上げます。
福島第一原子力発電所事故につきましては,ニュージーランドを含む各国の皆様に大変な御心配をおかけしております。事態は,引き続き予断は許しませんが,徐々に,かつ着実に収束に向かっています。日本全国で放射能汚染が広がっていることはありません。食品については,国際基準も踏まえた出荷制限を行っており,日本の食品は,震災前同様に,安心して楽しんでいただけます。
東日本大震災は,大自然が日本にもたらした千年に一度のピンチです。しかしながら,我々日本国民は,こういうときだからこそ,国際社会の皆様にもっと日本を見ていただき,日本が全体としては通常どおり活動していることを,世界に発信してほしいと思っています。その結果,日本の高い技術力や強靱(きょうじん)な活力が世界に知られることになれば,これは日本にとって大きなチャンスです。
原発事故が日本のイメージに負の影響を与えたことは,残念ながら否定できません。しかしここで,私の得意分野で一つだけ,別の例を紹介させていただきます。震災発生時,東北新幹線の線路の上を,最大1,000人規模の乗客を乗せた27本の新幹線の列車が,最高時速毎時300km走っていました。これらの車両は,最初の揺れの約10秒前には,地震波の到達を検知して,減速を開始し,脱線することなく,一人の負傷者も出さずに,安全に停車しました。これは,日本の鉄道技術の高さを端的に示した例です。こうしたことについても,もっと世界の皆さんに知っていただきたいというのが,私の強い思いです。
本日は,国としてのブランドイメージの回復についても議論される予定とうかがっています。ブランドイメージの回復のためには,何よりもまず,国際社会の皆様に,自国のありのままの姿を正確に理解していただくことが不可欠です。皆様お気づきのように,日本の多くの地域は,震災の前も後も「open for business and travel」であります。こうした日本の姿を,是非ニュージーランド国内の御友人にお伝えいただき,観光・ビジネス・留学でどんどん日本に来ていただくことが,日本にとっての最大の励ましであります。
最後に,フォーラムの御成功を祈念するとともに,来年には国交開設60周年を迎える日本とニュージーランドの友好関係の一層の強化に向けた有益な提言を頂くことを期待しつつ,私のメッセージとさせていただきます。