演説

高村外務大臣演説

外務省、防衛省、日本国際問題研究所、英国国際戦略問題研究所(IISS)共催有識者会合

高村外務大臣主催夕食会(平成20年6月2日)
高村大臣スピーチ「『アジアの世紀』の実現に向けて」

平成20年6月2日
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(冒頭)

 今般、英国国際戦略問題研究所(IISS)、日本国際問題研究所、防衛省と共に、国内外の著名な有識者の方々の御出席を得て我が国で国際会議を開催できることを、誠に喜ばしく思います。

 まずIISSが、設立50周年を迎えられたことにつき、チップマン所長他関係者の皆様に心よりお喜び申し上げます。

 IISSは、1958年の設立以来、世界の安全保障問題に関して重要な知的貢献を行い、アジアの安全保障についても、シャングリラ・ダイアローグ等を通じて積極的な発信を続けてきた実績を有しておられます。我が国としてもIISSの活動を高く評価し、従来より様々な形で協力を行ってきているところです。今回の会議もそうした協力関係の一つの証左に他なりません。

 明日からの会議では、7月の北海道洞爺湖サミットに向けて、アジアの抱える諸課題について、世界の賢人ともいうべき皆様に活発に御議論頂くことになっております。本日は私から、会議開催に先立ち、最近のアジア情勢を概観するとともに、アジアが21世紀を「アジアの世紀」とするためにどう歩んでいくべきか、そして我が国の果たすべき役割は何か、について思うところを述べたいと思います。

 なお、今回の会議では、議題の一つとして、アジアの環境問題についても御議論頂くと承知しておりますが、我が国では地球温暖化対策に向けた意識改革の一つとして、夏の間、ネクタイ及びジャケットを着用しないことにより、冷房設定温度を28度から下げなくても済むようにする「クールビズ」というキャンペーンを実施して、世論を喚起しております。本日の夕食会でも、ドレスコードとして「クールビズ」としております。外国からおいでになった皆様の中には、戸惑われた方もおられるかもしれませんが、日本の気候変動対策に向けた真摯な姿勢の現れと、ご理解下さい。

(アジア情勢)

 IISSが誕生した50年前、アジアは冷戦の真っ只中にありました。しかし近年、冷戦構造の崩壊とグローバル化の進展を背景に、アジアは市場経済と国際協調により、空前の経済成長を謳歌しています。アジア全体のGDPは10兆ドルを超え、欧州や米国と共に世界三大経済圏の1つへと成長しました。また、東アジア首脳会議のメンバー16カ国に台湾、香港を加えたアジアの域内貿易率は、2006年で58%と、NAFTAの42%を上回り、EUの66%に接近するレベルに達し、同様の経済的な緊密化が進んでいると言っても過言ではありません。

 更に、経済発展に伴い、アジアでは中産階級の増加や市民社会の成熟とともに、民主的プロセスによって指導者が選出される国々が増えてきています。昨年の11月にASEANが「ASEAN憲章」を採択しましたが、その中には、ASEANの基礎となる諸原則として、民主主義、法の支配、人権尊重等が盛り込まれております。ミャンマーや北朝鮮などの人権問題は依然存在しておりますが、民主主義の伸張は、昨今のアジアの好ましい特徴の一つであります。

 しかも、こうした好ましい動きが、アジアという民族、宗教、文化などの多種多様な国家が共存する地域において実現したことは特筆すべきであります。そして政治、経済双方の面で、アジアの諸国の国づくりに我が国の開発援助が重要な役割を果たしたことは、我が国の誇りとするところです。

 その一方で、アジアには、依然として朝鮮半島情勢や、両岸関係などの不安定要因が存在しています。北朝鮮によるミサイル発射や核実験実施の発表は、特に深刻な影響を与えました。更に、順調な経済成長を背景に、我が国を除くアジア各国では軍事費の増加傾向が顕著です。

 加えて、アジアも他の地域と同様に、テロや大量破壊兵器とその運搬手段の拡散、気候変動問題をはじめとする環境問題、エネルギー問題、あるいは新型インフルエンザ等の感染症など、国境を越える新たな脅威に直面しております。

 また、残念ながら、アジアの目覚ましい経済発展は必ずしも、地域各国・各地域に平等に行き渡っているわけではありません。国と国の間、あるいは、同じ国の中の経済格差の克服も、アジア地域の直面する大きな課題であります。

 30年後のアジアは、米国や欧州を上回る、世界最大の経済圏として一層の繁栄と安定とを謳歌し、「アジアの世紀」を体現することができるのでしょうか、それとも、不安定な情勢と国家間の対立・緊張に特徴づけられる地域になってしまうのでしょうか。その帰趨は、アジア諸国自身、特に我が国をはじめとする地域の主要国の努力にかかっております。

(「アジアの世紀」の実現に向けて)

 不安定な地域情勢や軍事費の増加傾向という点から見れば現在のアジアは、未だに冷戦期の「ゼロサム・ゲーム」的な世界が残存していると言えるかもしれません。しかしながら、その一方でグローバリゼーションや地域協力の進展により、各国が協力することによって共に更なる利益を獲得することが出来るという、「ポジティブサム・ゲーム」、即ち「ウィン・ウィン」の世界が確実に出現しつつあります。

 私達はこうした流れを強化し、21世紀のアジアを、共に発展、共に繁栄するアジアとしていかなければなりません。

 アジア最初の近代国家であり、経済成長の先駆者である我が国は、これまでも地域の核としてアジアの安定と繁栄のためリーダーシップを発揮してきましたが、今後も新しい時代のアジアの構築、アジアの持続可能な発展と安定の構築に向けて、一層積極的な役割を果たしていく所存です。

 持続可能な発展という観点からは、地球環境問題、とりわけ気候変動問題への取組が喫緊の課題であり、我が国はアジアの果たすべき役割を踏まえ積極的に貢献して参ります。米国、中国、インドといった全ての主要経済国が責任ある形で参加する実効的な将来の枠組み作りに向け、イニシアティブを取る所存です。気候変動問題は、北海道洞爺湖サミットの主要課題であり、我が国は議長国として積極的にリーダーシップを発揮し、建設的に議論を進めて参ります。

 更に、成長著しいアジアにおいては、成長に伴い生じる歪みや格差の是正に取り組むことが重要です。ミレニアム開発目標の達成は、アジア諸国にとっても残された課題です。貧困削減や、保健、水・衛生、教育等の分野での開発協力において、発展の目覚ましい域内諸国と共に我が国に相応しい責任を果たして参ります。また、ASEANの中の後発地域であるメコン地域を「希望と発展の流域」とするべく、重点的に取り組んで参ります。1月に行った日メコン外相会議では、ベトナム、ラオス、タイをつなぐ東西回廊について、2000万ドルを投じることになりました。日本は、引き続きアジアの発展のため、ODAや民間投資の拡充を通じ貢献していく考えであります。

 また、アジアの安定の構築という観点からは、テロや大量破壊兵器の拡散問題に積極的に取り組み、特に北朝鮮の核問題については、米国、韓国、中国等六者会合の関係国と共に、核の放棄を強く求めていきます。更に、我が国は、「平和協力国家」として、アジアをはじめとする国際社会の平和構築のための人的協力、人材育成、資金協力を推進していきます。我が国は、1992年カンボジアの国連PKOに自衛隊や警察官を派遣して以来、PKOをはじめとする国際的な平和協力活動に積極的に参加して参りました。PKOの派遣については、日本の国力に比してまだ努力の余地があると考えており、国連ミッションへの参加を積極的に進めていきたいと思います。また、昨年開始した、平和構築の現場で活躍する日本人およびアジア人の文民育成を、今後も進めていきます。

 加えて重要なことは、アジアにおいて台頭する大国が共に積極的役割を担っていくことであります。帝国主義や経済ブロックといったゼロサム・ゲームを基本としたかつての国際社会とは異なり、今の時代においては、一つの国が自らの発展のために他国を犠牲にする必要などありません。台頭する大国は、既存の秩序を破壊することなく、繁栄を実現することが可能であり、むしろ既存の秩序の活用により、より大きな利益を得ることができます。我々が、中国の台頭はチャンスである、と常々申し上げるのも、中国の台頭は日本にとってもさらなる発展に向けた大きな機会をもたらすからであります。中国、インド、そしてロシアといった国々には、アジア地域の持続的な発展や安定、「ウィン・ウィン」のアジアに「共通の利益」を見出し、「共通の課題」に対する「共通の責任」を認識し、我々と共同で対処していくことを求めたいと思います。大局的に見れば、これらの諸国にとっても、アジア全体の安定と繁栄を維持・発展させることが、自らにとって最も利益になるのであります。

 幸い、我が国と基本的価値と戦略的利益を共有するインドは、アジアの新たなダイナミズムを積極的な方向へと進めるために我が国と協働することを約しています。中国についても、胡錦濤国家主席と福田総理との間で、アジアの安定及び発展に向けての共通の責任が確認され、共にアジアと世界の良き未来を創り上げるべく「戦略的互恵関係」を包括的に推進していくことで一致しました。我が国は、今後、中国が、自国の軍事面や対外援助のあり方等について、透明性を確保し、国際社会の規範に則った行動をとることにより、アジア周辺諸国の不安を払拭して、より一層地域と国際社会に貢献することを希望しております。ロシアとの間においても、アジア太平洋地域の安定と繁栄に資するような関係を構築すべく、関係をすべての分野で高い次元に引き上げることで一致しており、ロシアが同地域において建設的な貢献をしていくことを期待します。

 地域の共通の課題についての具体的な協力を進展させ、共通の価値観・利益を醸成するためには、EAS、APEC、ASEAN+3、ARFといった地域協力の枠組みがそれぞれに果たす役割が重要であり、我が国としてはこれらの枠組みを重層的に推進して参ります。また、同時に、日中韓三国間協力の一層の強化に向け、本年、日中韓首脳会議を、ASEAN関連会合の枠外で初めて、我が国において開催します。

 最後に、しかし決して忘れてはならないのは、日米同盟、更には米韓同盟や米豪同盟などを通じ、米国のアジアへの継続的関与が維持されることであります。日米同盟は、我が国の安全を保障するのみならず、アジアのいわば「公共財」として、地域の安全、自由貿易、資源・エネルギーへの自由なアクセス、民主主義の伸張といった、アジアの安定と繁栄の基盤を提供してきました。

 今後とも、アジアが共に発展、繁栄するために、日米同盟を引き続き強化して参ります。日米同盟の強化と積極的アジア外交を「共鳴」させ、良い循環をもたらすことが、我が国外交の重要な柱であります。来年1月に発足する米国の新政権に対しても、アジアへ引き続き積極的に関与するよう、呼びかけたいと思います。

(結語)

 我が国は先週、アフリカ41か国の首脳級の参加を得て、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)を開催しました。福田総理よりも、アジアの成長の知恵と経験を、アフリカ開発に活かしていきたい旨、アフリカの首脳達に申し上げたところであります。アジアの成功の物語は、世界の他の地域にとって希望の松明としての輝きを放っております。今後とも、アジアがそうした輝きを失うことがあってはなりません。

 私は、各国がアジアの安定と繁栄という「共通の利益」を共に認識し、「共通の責任」を以て「共通の課題」に共に取り組めば、開放的で透明性が高い、安定し、繁栄したアジアは必ずや実現し、今世紀が、まさしく「アジアの世紀」となるものと確信しています。我が国としてもそのための努力を惜しまぬ方針です。

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