平成20年9月16日
於:英国外務省
(英文はこちら)
マロック=ブラウン外務・英連邦閣外大臣、
ご列席の皆様、
まず、日英外交関係150周年を記念して、このような盛大なレセプションを英国外務省で最も由緒あるここロカルノ・ルームにおいて開催していただいたことにつき、マロック=ブラウン外務・英連邦閣外大臣に心より感謝を申し上げます。
また、日頃、日英関係の強化にご尽力を頂いている本日お集まりの皆さまに感謝申し上げます。
今日、日本と英国は、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済という基本的価値を共有しており、国際社会が直面する諸課題に対処していく上での戦略的パートナーとなっています。今日、日英両国はかつてないほど良好な関係にあります。しかし、このような真の絆は一朝一夕にできたものではなく、150年という年月をかけて着実に積み上げられたものなのです。
今からちょうど150年前の1858年8月26日、江戸、つまり現在の東京で、日英修好通商条約が調印されました。本日、条約の原本が会場内に展示されておりますが、この条約によって、日本と英国との外交関係開設及び交流開始の基礎が築かれました。特に、19世紀後半、日本が近代化を進めた文明開化の時期に、日本人は、多くのことを英国より学んで参りました。
それ以来、両国の間では、幅広い分野で交流と協力が進んでいます。日本の近代文学の基礎を築いた夏目漱石について触れたいと思います。漱石は、1900年から2年間、英文学を学ぶためにロンドンに留学しました。異国の地における生活は幸せなことばかりではなかったようでしたが、この経験により後に漱石は日本において最初の近代小説を執筆し、ウィリアム・シェイクスピア、チャールズ・ディケンズ、ジョージ・メレディスといった英国を代表する卓越した小説家を日本人に紹介することとなったのだと思います。皆さまご承知のとおり、シェイクスピアは日本人の間で人気が高く、学校でシェイクスピアの作品に接した多くの日本人はその後も熱心な愛好者で居続けます。
人と人の交流においても両国間では観光客の往来のみならず、留学生、研究者、JET参加者、ワーキングホリデーの青年等の人数が増加しています。
1858年の節目の年から150年が経過し、両国の関係は極めて緊密になり、今日、気候変動、エネルギー問題、安全保障等の分野において国際社会が大きな懸念を有する重要なグローバルな課題に共に取り組んでいます。
このようなグローバルな課題への対処において、我々はどの方向に進むべきなのでしょうか。21世紀の世界と日本が進むべき方向性に関して、やや哲学的ではありますが、私の考えを申し上げたいと思います。20世紀は、資本主義と市場経済が共に勝利を収めた時代であったと言う人もいます。しかし、私はそれほど単純なものではないと考えております。現在の世界の状況を見れば、そのような考えに疑念を抱かせる状況が生まれつつあるといえます。どんな思想や制度も、人間が作ったものである限りは完全無欠なものではなく、また時間と共に陳腐化を生じていく運命にあります。そうした不完全性や陳腐化の現れが、増大する経済格差や貧困問題や、気候変動問題をはじめとする環境問題の顕在化であり、更には冷戦後も頻発する地域紛争であるといえます。
私は、21世紀の国際社会には、人類の更なる進歩のためのパラダイム・シフトが必要であると考えます。資本主義や共産主義に代わる、新たな理念や制度、統治システムが求められているのです。私は、現在の政治は、最大公約数の人を幸せにする新たな価値システムの創造であるべきだと考えており、私自身、その創造に向けて取り組んで参りたいと考えています。私は、21世紀の国家の命題は領土やイデオロギーとの戦いではなく、むしろ、自らの内なる強欲、すなわち自分(自国)との戦いであると思います。その上で皆様に申し上げたいのは、日本は、古来より政治・社会制度にせよ、宗教にせよ、元来相矛盾する様々な要素をも統合(integrate)し独自のものを生み出してきた国であります。特に、東洋のベースに西洋社会システムのツールを使って近代化を果たし、現在の繁栄を築いてきた国であります。
産業革命の発祥の地であり、その後資本主義が生まれた国である英国と、長い歴史を経て著しい変貌を遂げた日本が、新たなアジェンダを設定し、よりよい世界の創造に向けて協調していくことは、私には至極自然なことに思われます。日本は常に英国の知的コミュニティーに尊敬の念を抱いて参りました。日本が近代化を遂げる過程において、英国との交流は物質的な面のみならず、思想面でも重要な意味がありました。
さて、皆さまご承知のとおり、本年は、日英外交関係開設150周年を記念し、日本及び英国において、様々な文化交流事業が展開されています。日本では本年1月にマロック=ブラウン閣外大臣のご出席の下、「UK-JAPAN 2008」の開幕式が行われ、日本各地において、「芸術・科学・クリエイティブ」をテーマに現代英国の創造性と革新性を紹介しながら日英のコラボレーションを促進するための多彩なイベントが展開されており、多くの日本人が英国への認識を一層高め、興味を深めています。
英国においては、本日、この場におきまして「JAPAN-UK 150」のオープニングを宣言致します。
これから来年末にかけて英国全土において様々な交流事業が実施される予定となっております。Art and Design, Theatre and Music, Film, Academia and Scienceなどの幅広い分野で既に100を超える行事が既に登録されており、また、今後、ますます多くの行事が登録されることを期待しています。多くの皆さまに足を運んでいただき、150年間の両国の長い交流の歴史を振り返りつつ、日本をますます身近な存在と感じていただく機会となれば幸いです。
日英双方における事業を通じて日英両国の相互理解が一層深まり、未来に向けて更なる協力関係が進展していくことを期待したいと思います。
ありがとうございました。