外務省員の声

外務省員の声
鉄道の旅を通して見たインドネシア
第3話 一人の鉄道を愛する外務省員として思うこと

平成27年6月16日

  • 特急列車の到着を見守る女性駅員。ハード面だけではなく,ソフト面・人的面での協力が今後とも不可欠です

在スラバヤ総領事館 首席領事 古賀俊行

 第一回で触れたとおり,ジャカルタ近郊(ジャボデタベック(JABODETABEK)圏)の通勤電車の規格は,日本の電車の多くが採用する規格と同じく,線路幅1,067mm,直流1,500ボルトとなっています。そのため日本からたくさんの中古電車が譲渡されて活躍しているのですが,かつて1925年にオランダの手により電化され,東南アジア最初の電車が走ったこのジャカルタの鉄道網は,その後日本政府の支援で近代化が図られてきたという歴史があります。

 現在クルマとバイクがひしめき合い,深刻な渋滞が日々続くこのジャカルタですが,都心中心部を南北に貫く通称“中央線”電鉄路線は,1993年に日本政府の円借款により高架化されました。毎日100本以上もの列車が行き交うこの区間が適時に立体交差化されていなかったら,ジャカルタ都心部の渋滞は今よりも遥かに深刻な状況であったことは想像に難くありません。

  • 我が国の円借款で建設された,ジャカルタ市内の高架線を行く1980年代日本製の電車

 高架化工事以外にも,老朽化した車両の代替・新製車両の導入(電車,気動車),信号システムの改良,車両基地の新設といった各種の協力案件が実施されてきました。
 またジャカルタ近郊圏以外でも,ジャワ島を東西に貫く“北本線”と“南本線”の二本の幹線鉄道では、軌道や橋梁の改修,複線化工事といったプロジェクトが実施され,安全運行の確保,輸送力の向上と遅延防止等に向けた協力がなされてきました。

 1970年代以降,これら鉄道分野に対する経済協力の総額は,その多くは円借款ですが,およそ3千億円に上り,インドネシアに対して過去供与して来た援助総額のおよそ1割を占めています。金銭面での支援だけではなく,そのプロジェクト実施過程においてはJICA専門家をはじめ官民問わず多くの日本人がインドネシアに赴き,あるいはインドネシア人を日本に招聘し,技術指導・技術移転がなされてきました。
 現在でも,ジャボデタベック電鉄運営会社「PT.KCJ」の車両基地や,東ジャワ州マディウン市にある国産鉄道車両製造会社「INKA」社には,日本の鉄道会社や鉄道車両製造企業から派遣された日本人が,運営やメンテナンスの支援を行っています。

  • 東ジャワ州マディウン市の鉄道学校を視察。日本人から技術指導を受けたことのある職員(左)が教官を務める

 そういった諸先輩方の献身的な活動もあってか,当地インドネシアの鉄道の関係者には前述のとおり大変に親日的な方が多く,我々が現場を訪問しても好意的に迎えてくれます。更に私が大使館・領事館関係者と知ると,「是非とも日本から専門家を派遣して欲しい,日本製の車両や施設が欲しい。」とお願いされることがしばしばあります。
 近年のインドネシア鉄道業界を取り巻く状況,特に低価格を武器にした中国や韓国といったこの分野の国際市場では新興ともいえる諸国の売込みが激しい中,是非とも日本製車両が欲しい,日本人専門家から技術を学びたいと言ってもらえることは喜ばしい限りです。

 しかし,政府や政府系機関である以上,調達は当然入札を経て行われる必要があり,どうしても額面金額の安い他国企業が落札してしまうケースが多々あります。また,日本の経済協力があくまで「要請主義」を取っている以上,このような技術協力の一環としての専門家派遣要請は,インドネシア中央政府の援助担当官庁である国家開発企画庁(BAPPENAS)を通じてスクリーニングされ,順位付けをされた上で日本側に要請されなければなりません。更には日本側にも,限られた資金や人的資源をどのように割り当てるかというマクロ的な判断がなされる必要もあります。個別の現場のニーズや要請が直ちに実現するのは容易ではありませんし,一介の外務省員としては正直忸怩たる思いをすることもあります。

  • 円借款で建設された広大な車両基地に,ラッシュアワー輸送を前にした多数の日本製電車が並ぶ

 現在ジャカルタでは,日々深刻化する市内交通悪化問題に対応するための大規模プロジェクトとして,MRT(都市高速鉄道)建設工事が進められています。市内を南北に貫く1号線のうち,都心部を走る北側半分は地下区間となり,完成すればインドネシア初の地下鉄となります。しばしば報道されるようにジャカルタ北部は地盤沈下が激しく,排水設備が十分でないため,ちょっとした大雨が降るとすぐに洪水(バンジールと呼ばれます)が起き,地下に鉄道トンネルを掘削するのは容易ではありません。そのため,このプロジェクトはSTEP(本邦技術活用案件)として採択され,日本の企業が持つ先端技術が投入されて建設されます。数年後にはこのジャカルタでも,日本やその他の先進諸国と肩を並べる水準の都市鉄道が,日本の支援で建設され,走り出すのです。

  • 2013年末,ジャカルタ市内でインドネシア初の地下鉄となる,MRTの建設工事が始まりました

 更に,1億人以上の人口が集中するジャワ島の東西に位置するジャカルタとスラバヤ間の約700kmを結ぶ高速鉄道の建設計画の第一歩として,ジャカルタ=バンドゥン(西ジャワ州)との間の高速鉄道建設にかかるフィージビリティ・スタディ調査がJICAにより実施されました。ご存じのとおり,日本が誇る新幹線は,当初世銀からの借款を得て建設され,その後日本の大動脈となって人の移動を円滑化し,日本の高度経済成長に大きく貢献してきました。各国の売り込みもある中で,実際に日本の「新幹線」が採用されるかどうかは現時点ではわかりませんが,今後,もしこのジャワ島に「新幹線」が走るようになり,インドネシア経済のさらなる発展に貢献することができれば,一人の外務省員として,鉄道を愛する者として,これほど喜ばしいことはありません。今から大いに楽しみにしています。

  • 筆者の訪問を歓迎してくれた電車区のスタッフ達

このページのトップへ戻る
外務省員の声へ戻る