[16]ヨルダン

1. 概   説

(1) ヨルダンは、シリア、イラク、サウジアラビアといったアラブの大国とイスラエルのはざまに位置した小国ながら、伝統的に西側世界との協調を重視した現実的な対外政策を追求するなど、重要な穏健勢力として当該地域の安定確保に大きく貢献してきている。特に、94年には、イスラエルとの間に平和条約を締結するとともに国交を樹立し、現行の中東和平プロセスの推進に大きく貢献した。更に、同国は、パレスチナ(ヨルダン川西岸地区)に隣接し、同地域との歴史的関係が深いことに留まらず、国内に多くのパレスチナ難民を抱えるとともに国民の少なからぬ部分もパレスチナ系といわれることから、引き続き中東和平プロセスに大きな役割を果たしている。
(2) 経済面では、同国が非産油国であり有力な外貨獲得手段のない脆弱な経済構造を有していることから、特に2001年9月に発生した米国における同時多発テロにより、同国の基幹産業である観光業が大きな打撃を受けた。また、同国政府は、96年以降経済成長が鈍化していることを受け、様々な経済改革努力を実施しており、その成果が期待されているが、同国周辺の地域情勢等の影響から、依然経済情勢は予断を許さない状況にある。
(3) 我が国は、地域の平和と安定の確保における同国の重要性にも鑑み、これまで友好協力関係を維持・増進してきた。両国間の活発な要人往来及び知的交流の進展等を通じて両国の関係は一層発展し、両国政府首脳の間には強い信頼感が醸成されてきているほか、同国王室と我が国皇室との間には、アブドッラー国王来日時の天皇皇后両陛下との御会見等を通じて親密な関係が培われており、二国間関係を支える重要な柱となっている。

(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標


2. 我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) ヨルダンに対する政府開発援助の基本的考え方
 我が国は、ヨルダンが中東和平プロセスの当事国として同プロセスにおいて積極的な取組み及び貢献を行っており、同国の政治的・経済的安定が中東地域の平和にとって重要であること、特に、民主化及び経済改革に関し積極的に努力していること、我が国との関係が良好であること等に鑑み、インフラ整備、人的資源開発等幅広い分野で各形態による援助を積極的に実施してきた。近年では、湾岸戦争時の緊急経済支援(7億ドル)をはじめ、99年12月のアブドッラー国王来日の際に発表した3年間で4億ドルの支援パッケージの実施、2002年6月の同国王来日の際に発表した20億円のノン・プロジェクト無償資金協力の実施、更に同年7月のパリクラブにおける同国の公的債務の第6次繰延に関する合意等、積極的な支援を行ってきている。我が国は、ヨルダンにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び96年3月に派遣した経済協力総合調査団及びその後のヨルダン側との政策対話を踏まえ、以下を援助の重点分野としている。
(イ) 基礎生活の向上
(a) 水供給
 ヨルダンは乾燥地域に属しており、水供給源が少ないことから、水の効率的活用に留意しつつ、特に深刻な問題となっている生活用水及び農業振興のための灌漑用水の確保を支援する。
(b) 食糧
 ヨルダンは、水資源の制約から国土に占める農耕地の割合が低く、農業生産性が低いことから農産品の輸入依存度が高い。ヨルダンの安定的食糧供給を確保するため、農業機械、肥料等の供与、灌漑事業、品種改良等への支援を行う。
(c) 基礎的保健・医療
 都市と地方の公共医療施設の整備状況に大きな格差が存在するところ、地方における医療施設の質的改善に重点を置いた支援を行う。
(d) 基礎教育
 ヨルダンが現在取り組んでいる初等教育に重点をおいた教育改革を支援していく。
(ロ) 産業振興
(a) 輸出産業発展を目的とした人的協力及び資金協力
 天然資源及び有力産業を有さないヨルダンの自立的発展には輸出志向型産業の育成が必要であるが、今後、人的協力及び資金協力を含む包括的な輸出産業支援策を推進していく。
(b) 観光及び中継貿易のためのインフラ整備
 歴史的建造物や観光資源に恵まれたヨルダンの有望産業である観光産業及び交通上の要衝に位置する同国の貴重な外貨獲得源である中継貿易を含む産業分野の基盤整備を支援する。
(ハ) 環境保全
 急激な都市化及び人口増加による水質汚濁、大気汚染、廃棄物の増加等の環境問題が深刻化しており、これらの問題へのヨルダンの対応を支援していく。また、ヨルダンの地域的な環境問題への取り組みへの支援を検討する。
(2) 2001年度の援助実績
(イ) 総論
 2001年度のヨルダンに対する援助実績は49.06億円。うち、無償資金協力は33.99億円(交換公文ベース)、技術協力は15.07億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力は2,377.90億円、無償資金協力は345.05億円(以上、交換公文ベース)、技術協力204.75億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
(ロ) 有償資金協力
 従来より農業、通信、教育、運輸等の分野に対し円借款を供与してきており、2001年度までの累計(交換公文べース)は2,377.90億円(うち、同国に対する円借款に係る債務繰延額333.65億円)で、中東域内ではエジプト、トルコに次ぐ規模である。新規円借款については、同国の累積債務状況にも鑑み、慎重に判断する方針である。同国の債務問題については、国際的枠組みの中で対処していく方針であり、IMFプログラムに基づく同国の経済改革努力を注視していく方針。
(ハ) 無償資金協力
 93年度より、民生環境、保健医療等の基礎生活分野において、中東和平に資する案件を中心に実施しており、99年度に「キングフセイン橋架け替え計画」を実施した他、各種の案件を実施している。更に、94年度以降、経済構造調整支援のためのノン・プロジェクト無償資金協力も実施している。文化無償は82年度よりほぼ毎年供与を行っている。
(ニ) 技術協力
 保健・医療、情報、通信、産業振興、水資源等の分野を中心に実施しているほか、IT分野における支援にも重点を置いており、近年では、同分野での世銀との初めての連携案件となる遠隔教育センター(DLC:Distance Learning Center)への技術協力を実施した。また、92年度からは域内周辺国及びアフリカ、94年度からはパレスチナ人を対象とした第三国研修を実施している。

3. 政府開発援助実績

(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)2001年度実施草の根無償資金協力案件

前ページへ 次ページへ