[3]ネパール

1.概 説

(1) 長年続いてきた国王親政体制が90年の民主化運動を経て転換を迫られ、同年11月に主権在民、複数政党制を明記した新憲法が公布された。91年新憲法下で初の下院総選挙が行われ、コングレス党政権が発足したが、94年の第2回総選挙以降、下院で単独過半数を制する政党がないために連立の動きが活発になり、また政党内部の派閥争いも加わり、頻繁に政権が交代するなど不安定な政局が続いた。99年5月の総選挙では、バッタライ首相を首班とするコングレス党が国会において過半数を占め、安定政権が発足したものの、マオイスト(毛沢東主義過激派)対策の不備や国内経済の低迷等の批判を受け、バッタライ首相は辞任した。その後コングレス党内の議会首班交代により、2000年3月コイララ政権が誕生した。今後、経済再建、汚職対策、マオイスト対策等、山積する政治・経済課題を果断に処理できるかが注目される。
 外交面では、中印両大国に挟まれているという地政学上の事情もあり、非同盟中立主義及び近隣諸国との友好関係の維持を基本方針としている。南アジア地域協力連合(SAARC)の常設事務局をカトマンズに誘致したことにも示されるように、ネパールは地域協力の推進に積極的である。また、58年から国連PKOに参加しており、2000年4月現在で1018名と第10番目の貢献国となっている。
(2) 経済面では、政府は92年の産業企業法及び外国投資・技術移転法の制定等を通じ経済自由化政策をとり、様々な規制撤廃、外資導入、国内産業振興を図っている。この結果、高い経済成長率、インフレ率の低下、輸出増といった形で成果が現れた面があるものの、財政・貿易赤字等の構造的な問題は依然未解決であり、必ずしも経済自由化政策が十分な成果を上げているとは言えない。
 ネパールは後発開発途上国(LLDC)であり、農業部門にGDPの約4割、就業人口の約8割を依存しており、各年毎の成長率はその年の農作物の収穫に左右されている。近年の経済は概ね堅調であったが、98/99年度は農業の不振に加え、高成長を続けていた非農業部門の伸びが低迷したこともあり、実質GDP成長率は3.4%にとどまった。
 国家財政は慢性的な赤字構造にあり(歳入欠陥が歳出総額の半分以上を占め、97/98年度財政赤字の対GDP比約21.8%)、赤字を外国援助が補う形になっている。開発支出を維持していくため外国援助が不可欠である(開発予算の約6割を外国援助で充当)が、援助依存体質脱却に向け、徴税能力の強化、課税基盤の拡大による歳入強化が重要となっている。
 97年から第9次5カ年計画が開始され、経済の活性化を促す投資、環境整備に重点が置かれており、開発政策の新たな視点として外国投資の促進、環境保全、初・中等教育改革、水資源・電力開発等が挙げられている。また、97年には、貧困撲滅、地方開発に重点を置き、土地改革、農業設備の近代化灌漑整備を通じた農業生産性の向上に取り組むべく、今後20年の長期的視野に立った「農業展望計画(APP)」が開始された。
(3) 我が国との関係では、ネパール王室と我が国の皇室の間の往来も盛んであり、両国関係は伝統的に極めて友好裡に推移してきている。97年2月には、日・ネパール外交関係40周年記念行事の一環として秋篠宮同妃両殿下がネパールを御訪問された。98年11月にはコイララ首相が訪日し、99年3月には橋本元総理が、2000年8月には日本の首相としては初めて森総理がネパールを訪問している。

(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標

2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) 我が国は、ネパールが、南西アジアで最も所得水準の低い国でLLDCであること、内陸国としての厳しい条件の下で社会・経済開発に努めており開発ニーズが大きいこと、及び90年の民主化以降、民主主義の定着と経済の自由化を進めつつ経済開発に取り組んでおり、その方針はコイララ現政権にも引き継がれていること等を踏まえ、積極的な協力を行っている。援助に当たっては、ネパールにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及びJICAにおける「ネパール国別援助研究会」の成果を基に、92年11月に派遣した経済協力総合調査団及びその後の政策協議等によるネパール側との政策対話を踏まえ、次の分野を重点分野としている。
(イ) 人材資源開発
 自立的発展、効率的な資源管理・活用のためには人材育成は必要不可欠であり、プロジェクトの実施・運営、技術の移転等を通じた協力を実施していく。
(ロ) 社会分野
 ネパールにおいては不衛生な水の摂取による下痢症疾患が極めて多く、高い乳幼児死亡率の原因ともなっている。我が国としては、従来より、安全な水供給、保健・医療等の協力を実施してきており、今後は家族計画の推進、特に母子保健をはじめとする基礎保健・医療の拡充に努めていく。
(ハ) 農業開発
 農業はネパールの基幹産業であり、農業開発は雇用機会の創出、低所得農民の所得向上に繋がるとの点を踏まえ、農業生産基盤の整備と農産物生産技術の開発・普及等への協力を行っていく。
(ニ) 経済基盤整備
 上記三分野の経済協力をより効果的にするため、特に、電力、道路、橋梁、水供給、通信等の基礎的な経済インフラの整備が重要である。また、これら施設を維持するためには、土砂崩れ防止等防災対策が不可欠であり、これを含めた維持管理についての協力も併せ進めていく。
(ホ) 環境保全
 ネパールでは、人口増加、貧困等を背景として、環境劣化が進んでおり、特に森林減少は深刻な問題となっている。我が国としては、天然資源の適切な利用と環境改善のための協力を重視していく。
 対ネパール援助を実施する上での留意点としては、内貨費用負担能力等ネパール側の援助吸収能力が極めて限られていることから、案件採択の際には人的・資金的負担能力について慎重に見極める必要があり、一方でネパール側においても援助に関する手続を迅速に進める等、実施体制の一層の強化が重要である。
 また、マオイストが中西部の山岳地帯を中心に銀行・警察署等を襲撃しており、援助関係者の安全確保にも留意する必要がある。
(2) 我が国は、80年以来、88年を除き、ネパールに対する最大の二国間ODA供与国となっている。
 無償資金協力については、同国がLLDCであることを踏まえ、農業(食糧援助、食糧増産援助を含む)、保健・医療、上水道等の基礎生活分野に加え、運輸・交通、電力等の基礎インフラ整備及び防災分野に対して協力を実施している。
 技術協力についても、保健・医療、農業、社会基盤を中心に各種形態により協力を行っている。プロジェクト方式技術協力では、保健・医療分野、農林水産業分野等における協力を実施してきている。また、開発調査においては水資源開発、農業、運輸分野を中心に協力実績がある。
 有償資金協力については、電力分野(水力発電)を中心に協力を実施している。
 緊急援助については、98年の干ばつ災害に対して、緊急援助物資(955万円相当)を、また、2000年の洪水災害に対して約3,200万円を供与した。

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