2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) 我が国は、79年の大平総理(当時)訪中の際、中国の近代化努力に対して我が国としてできる限りの協力をすることを表明して以来、積極的に経済協力を促進してきており、中国は我が国援助の最重点国の一つに位置付けられている。
 現在、我が国は、以下の点を踏まえて、中国への援助を実施することを基本的立場としている。
(イ) 中国は、我が国と地理的に隣接し、政治的、歴史的、文化的に密接な関係にある
(ロ) 我が国と中国との安定した友好関係の維持・発展が、アジアひいては世界の平和と安定につながる
(ハ) 経済関係において、二国間政府ベースの経済・技術協力、民間の投資・貿易、資源開発協力などを含む幅広い分野にわたってその深さと広がりを増して発展してきている
(ニ) 経済の近代化を最優先課題として位置付け、経済改革及び対外開放政策を進めている
(ホ) 広大な国土面積と多数の人口を有し、一人当たりGNPが780ドル(99年)と低く、援助需要が高い
(2) 89年1月、JICA国際協力総合研修所に「中国国別援助研究会」(座長:大来外務省顧問(元外務大臣))が設置され、広く各界の専門家、研究者、その他有識者の参加を得て、対中国援助のあり方について検討が進められた。
 更に、92年3月に我が国は、大来外務省顧問を団長とする経済協力総合調査団を中国に派遣し、中長期的経済協力のあり方について意見交換を行った。一連の協議において、当方からは、対中国国別援助方針(重点地域、重点分野等)についての基本的考え方を伝えるとともに、今後の協力実施上の課題として、中国側関係機関間の調整の強化、環境配慮の強化、我が国の援助の中国側における広報努力等の問題を提起し、基本的に中国側と意見の一致をみた。また、我が国のODA4指針(現在のODA大綱の「原則」第3、第4)についても言及し、中国側の理解を求めた。
(3) また、2000年5月に東京で行われた日中外相会談において、河野外務大臣は我が国の対中援助が本年で20年を経過し、また中国側でも第10次5カ年計画を策定中であること等から、我が国として2001年度以降の対中経済協力のあり方を検討する方針であることを表明した。同発言を踏まえ、日本政府としては2000年度中に対中国国別援助計画を策定する予定であるが、同計画策定プロセスの一環として、外務省は2000年7月に各界の有識者から構成される「21世紀に向けた対中経済協力のあり方に関する懇談会」を発足させた。政府としては、同懇談会の提言等を踏まえ、2000年度中に2001年度以降の対中経済協力の基本指針となる中国国別援助計画を策定する予定である。((注)懇談会の提言は2000年12月に発表された。詳細については上巻本編第2部第1章を参照。)
(4) 2000年10月には、中国政府主催により、日中経済協力20周年記念式典が開催され、野中自民党幹事長(当時)を特派大使とする日本側代表団が訪中した。同式典では、我が国の経済協力に対し、中国側からの謝意の表明がなされた。
(5) 我が国のこれまでの援助の重点分野は、中国における開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び前述の経済協力総合調査団及びその後の中国側との政策対話を踏まえ、以下のとおりとしているが、2001年度以降は、前述の国別援助計画を踏まえ、対中援助を実施していく予定である。
(イ) 重点地域
 有償資金協力を中心に、経済インフラ整備に資する協力を行うとともに、中国のバランスのとれた発展を支援するとの観点から、相対的に開発余地の大きい内陸地域にこれまで以上に配慮し、農業・農村開発への協力、豊富な資源を活用した開発への協力を進める。また、無償資金協力及び技術協力については内陸部を重視することとし、主として貧困地域に対する基礎生活分野の充足のための協力を実施する。
(ロ) 重点分野
(i) 環境
 我が国の経験と技術を活かして、省エネルギー、廃棄物リサイクル、煤煙処理、排煙脱硫等の大気汚染防止、下水道等の水質汚濁防止対策について、中国側のニーズを踏まえつつ援助を進める。また、96年5月、無償資金協力により設立した日中友好環境保全センターを核に各種協力を展開するとともに、97年の日中首脳会談において発表された「21世紀に向けた日中環境協力」構想の具体化を図る。
(ii) 農業
 農業生産、特に食糧の安定的供給の確保へ向けた一層の農業生産性の向上を図ることが必要である。灌漑・排水施設の建設、機材の供与等農業基盤整備への援助、肥料、農業用資材供与、試験研究機関の充実を通じた農業技術の水準向上及び農村への技術の普及への援助等を実施する。
(iii) 経済インフラ
 中国の経済発展のボトルネックとなっている運輸、通信、電力等の経済インフラの整備の遅れの解消に向け援助を行う。
(a) 運輸・交通施設建設による輸送能力の増大、輸送の効率化のための維持・管理技術の向上に資する援助を行う。
(b) エネルギー供給不足に対応するための発電所建設に対する援助を行う。その際に、十分な大気汚染防止対策を図る。
(c) 通信基盤の整備に資する協力、維持・管理面を考慮した人材養成への援助を行う。
(iv) 保健・医療
 農村地域等では、依然として保健・医療水準の底上げが必要である。地域格差是正の観点から、農村地域等におけるプライマリー・ヘルス・ケアや予防保健事業への波及を念頭に置いた地域保健・医療水準の向上に資する協力を行う。
(v) 人造り
 教育用機材の供与や学校施設の建設への協力等による基礎教育の普及・充実を図る。機材供与、研修員受入、専門家派遣等による中堅技術者・管理者の養成等に資する人造りへの協力を行う。
(6) 我が国の対中経済協力は、ODA大綱の「原則」を踏まえ実施されている。中国側では、経済の改革・開放路線を積極的に進め、「社会主義市場経済」を確立するとの方針が憲法に明記され、99年3月の憲法改正では、個人経済、私有経済等の公有制以外の所有形態も社会主義市場経済の重要な一部分とする規定が加えられる等、市場指向型経済の導入という観点からは好ましい動きが継続している。人権分野では、依然として種々の懸念材料はあるが、憲法改正による法治の明記、基本法制の整備、司法改革、人権白書の発表など人権に配慮した前向きの動きもあり、我が国としても、日中人権対話などを通じ、それら前向きの動きを促している。我が国は、95年8月、中国の核実験停止が明らかにならない限り、対中無償資金協力を原則凍結するとの措置をとったが、96年7月より中国が核実験のモラトリアムを実施し、CTBT(包括的核実験禁止条約)に署名したこと等を踏まえ、97年3月より無償資金協力を再開している。なお、軍事費については、2000年5月の日中外相会談、同年6月の日中安保対話等において、国防費の増加に対し我が国内に懸念の声が強く存在することを表明し、国防政策の透明性を高めるよう求めている。
(7) 93年以降ほぼ毎年中国は我が国二国間ODAの最大の受取国となっている(支出純額ベース、96年及び99年は第2位)。また、中国にとり我が国がDAC諸国中最大の援助国である(シェアは67%、98年実績)。
(8) 中国に対する有償資金協力については、これまで複数年度に亘る総枠方式をとってきており、現在は第4次円借款(1996~2000年度)を供与中であるが、98年12月に後2年(1999~2000年度)分の28案件に対する計3,900億円を目途とした供与につき合意した。そのうち、環境分野が16件、農業分野が4件を占めることに示されるように、これらの分野への協力を引き続き重視するとともに、民間資金導入の期待が薄い内陸部の案件(18件)に配慮している。初年度分として2000年3月に19案件、総額1926.37億円の供与に関する交換公文(E/N)の署名を行った。なお、2001年度からは、これまでの総枠方式にかえて、ロングリスト(3~5年にわたる候補案件のリスト)に基づく単年度供与方式をとることとなっている。
 無償資金協力においては、農業、医療、環境、人造りを中心に協力を実施しており、80年度以降「日中友好病院建設計画」(160億円)、「日中青年交流センター建設計画」(101.1億円)「日中友好環境保全センター設立計画」(102.56億円)等を実施してきた。
 技術協力においては、農業、工業、経営管理、保健医療等の広範な分野で研修員の受入れや専門家の派遣が行われている。また、プロジェクト方式技術協力も実施されている。更に、開発調査も78年度より実施されている。中小企業振興については、98年の日中首脳会談で協力の推進が確認されたことを受け、2000年度から中国モデル都市中小企業振興計画調査を行っている。これは、中国の中小企業支援対策を支援することを目的とし、中国国内の代表的・特徴的な都市を複数選択し、各モデル都市毎の中小企業振興計画を策定し、併せて現地でセミナー等を開催し、人材育成等の技術移転を行うものである。緊急援助については、98年6月、中国南部、東北地方等で大規模な洪水が発生し、死者3004人、被災者2億2300万人、倒壊家屋497万戸という甚大な被害が生じた。このような状況の下、我が国は、緊急援助物資や緊急無償資金の供与及び民間より寄贈された援助物資(毛布約11000枚)の輸送支援業務の総額約5億円相当の援助を行った。また、98年11月の中国雲南省における地震災害に対して、緊急援助物資(1766万円相当)及び緊急無償資金(20万ドル)を供与した。
(9) 環境分野への協力では、我が国としては、政策対話を通じて中国側の一層の自助努力を促すとともに、その努力を支援するため、環境分野を協力の重点分野と位置付け、さらに案件実施の際の環境配慮を十分に行ってきている(99年度の対中円借款供与額1926.37億円(約束額ベース)のうち金額ベースで約65%が環境案件)。
 一方、中国の極めて広い国土と人口及び我が国協力の限界を考慮すると、我が国協力が中国全土の環境対策に直接関与していくことは現実的ではなく、我が国としては、日中友好環境保全センターなどの拠点を中心とした協力を通じ、環境関連技術・施設の中国側努力による全国的な普及を側面的に支援していくこととしている。
 日中友好環境保全センターは、環境保全に係る人材育成及び中国の環境改善に即効性のある公害防止技術の研究を目的とするもので、施設整備に対して無償資金協力を実施してきているほか、プロジェクト方式技術協力として、中国側が実施する同センターの研究活動、技術者の養成訓練に対して技術的側面からも協力している。
 更に、97年9月の橋本総理(当時)訪中時には、(1)中国内に環境対策のモデル都市を定め、大気汚染・酸性雨対策、循環型産業・社会システムの形成、温暖化対策を実施する「日中環境開発モデル都市構想」、(2)中国における環境情報の収集・把握を図るため中国地方各都市の各環境情報センターをネットワークで結ぶ「環境情報ネットワーク整備計画」、という2つの柱からなる「21世紀に向けた日中環境協力」構想を提案し、中国側より基本的な合意を得た。
 このうち、「日中環境開発モデル都市構想」については、具体的な検討のために日中双方に専門家委員会(日本側座長:渡辺利夫元東京工業大学大学院教授(現拓殖大学教授)、中国側座長:王揚祖元国家環境保護局副局長)を設置し、具体的な協力の在り方について検討を行った。99年4月に開催された専門家委員会第3回合同会合において、貴陽、大連、重慶の3都市をモデル都市とすることとし、各都市における環境対策のあり方及び具体的なプロジェクトに関する提言がなされた。なお、本プロジェクトの一部は2000年3月に交換公文(E/N)の署名が行われた第4次円借款99年度分に含まれている。また、「環境情報ネットワーク整備計画」についても、中国各地方都市に対し、無償資金協力により、環境情報の速やかな収集及び共有を図るためのコンピューター等の機材供与が実施された。
(10) 中国経済の急成長に伴い地域間格差が拡大しており、96年3月に策定された国民経済・社会発展のための第9次5カ年計画及び2010年までの長期計画において、地域格差の是正が主要課題の一つとして取り上げられた。また、現在第10次5カ年計画(2001~05年)の策定作業が進められている。同計画では、沿岸部と内陸部の格差是正を図るための「西部大開発」戦略が盛り込まれ、当面経済インフラの整備、生態系の保護、産業構造の調整、科学技術と教育の発展等が重点となるものと思われる。
 我が国の対中援助の実施にあたっては、第4次円借款後2年分で内陸案件を18件とり上げる等地域配分にも留意している。

前ページへ 次ページへ