開発協力トピックス 02
円借款をより効果的に
「円借款」とは、途上国の経済的自立のために必要な経済社会基盤の整備を目的に、途上国に対し、低金利で返済期間の長い緩やかな条件(譲許(じょうきょ)的な条件)で開発資金を貸し付ける協力のことをいいます。返済義務を課すことにより自助努力を促す効果も期待されています。
この円借款について、日本の強みを活かしつつ、途上国から見てさらに魅力的なものにしたのが2013年4月に発表された「円借款の戦略的活用のための改善策」です。日本の優れた技術やノウハウを途上国に提供し、人々の暮らしを豊かにする、その一方で、特に日本と密接な関係を持つアジアを含む新興国の成長を取り込み、日本経済の活性化につながるよう、円借款を戦略的に展開するのが狙いです。このコラムでは、この改善策のうち、二つの施策を具体的に紹介します。
■ 日本の技術の一層の活用
2002年、途上国への技術移転を通じて日本の「顔の見える援助」を促進するため、日本企業に受注を限定した「本邦技術活用条件(STEP)」※を導入しました。
STEPは、主契約者を日本企業とすること、また、事業を実施する際に使用する資機材の30%以上が日本製であること(本邦調達比率)を義務付けている点が特徴です。この条件から、当初途上国側に、STEPはコストが高いのではないかとの懸念がありました。しかし、この10年間で企業を取り巻く世界の環境は大きく変化しています。日本企業の海外進出が進み、メーカーは地域ごとに製造の拠点を設け、たとえば、イギリスでアフリカ向けの商品を製造するなどの対応もとられるようになっています。STEPは日本企業を通じて途上国の開発を支援するための円借款ですが、「日本企業」の定義も変わってきているのです。こうした点を踏まえ、今回の制度改善では、多様な「日本企業」に応札の機会が与えられるように、主契約者の範囲を海外にある日本企業の子会社に広げたり、本邦調達比率の算定ルールに関して、海外の子会社からの調達も日本製とするなど、その範囲を広げました。これらの取組を通じて、STEP案件に応札する日本企業が増加して競争原理が働き、また、使用する資材も本邦からの調達だけでなく、海外の子会社からの調達を可能とすることで、製造コストや輸送コストの低下、ひいては応札価格の低下を実現できるのです。コストが高いとの途上国側の懸念も払拭することが期待されています。
STEP案件は日本企業受注が確実に見込まれることから、国内の需要や雇用の創出に結びつけることができます。たとえば、国際港湾整備事業に対する約1,400億円のSTEPによる円借款支援により、国内の需要創出効果は約1,876億円、国内の雇用創出効果は約12,000人が期待できます。途上国の経済成長を支えるだけでなく、その成長を日本企業の受注を通じて日本経済の活性化につなげていくことができるのです。
※ 本邦技術活用条件(STEP): Special Terms for Economic Partnership
ベトナム・ホーチミン市に円借款により建設されたタンソンニャット国際空港ターミナル(写真:久野真一/JICA)
■ 災害復旧スタンドバイ借款の創設
日本は、開発協力において防災を主流化し、国際社会において、それに向けた努力を主導していく方針です。途上国における災害発生後の支援において、ODAでは従来から被災直後の緊急支援(緊急無償資金協力等)や復興段階でのインフラ整備支援(円借款)を行ってきましたが、緊急支援と復興をつなぐ復旧段階での資金需要に即応できる仕組みの導入を行ったのが、「災害復旧スタンドバイ借款」の創設です。災害が起きてから必要な資金需要を見積もり、そのための資金要請を海外に行うことは、途上国にとって大きな負担です。また、支援を行う側からすると、支援要請があってから自国内で一定の検討のための時間が必要です。
一方で、復旧段階に必要とされる物品(食糧、燃料等)やインフラ(簡易な水道、小規模な道路の復旧や仮設住宅)は、災害発生後緊急に必要とされ、被災した人々の生命にかかわります。そこで、日本は災害の発生が予想される途上国に対して、事前に円借款の契約を締結しておき、災害が発生した際に迅速に資金を融通できる仕組みを作りました。また、災害への対応能力を強化することは、被害を少なくするためにも重要との観点から、円借款の供与にあわせて、災害管理能力強化のための技術協力も実施できるようにしました。こうして、日本がこれまでの被災国として得た経験を他国に伝えることを通じ、途上国の災害対応能力強化を目指しています。
これらの取組は、日本がアジアをはじめとする途上国のニーズを的確にとらえ、また日本も途上国と共に成長していくための施策のごく一部です。今後も、より効果的な円借款の実現に向けて不断の改善に努めていきます。
円借款により建設された第二メコン友好橋(第二メコン国際橋架橋事業)は、タイとラオスを結び、全長約1,600mに及ぶ(写真:奥野安彦/JICA)