開発協力トピックス
ポスト釜山と新興国
近年、開発援助を取り巻く世界の構造に大きな変化が起こっています。世界経済における新興国の影響力が急速に拡大し、また、気候変動、感染症対策、食料安全保障等の国境を越えたグローバルな開発課題への対応がますます必要になってきています。これらの課題やニーズに対応するには伝統的な援助国である先進国のみならず、民間セクターや市民社会、そして新興国などの新たな開発の担い手の果たすべき役割が注目されるようになっています。実際、途上国への資金の流れの7割ほどを民間資金が占めているといわれています。また、OECD開発援助委員会(DAC(ダック))の推計によると、中国、サウジアラビア、ブラジル、インドといった新興援助国の2008年の援助額は同じ年のDAC加盟国のODA総額の10%にも上ります。
このように援助を取りまく環境が変わりつつあることを背景に、2011年11月末、韓国・釜山(プサン)において、「第4回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム」(以下、釜山HLF)という大きな国際会議が開催されました。釜山HLFとは、今後の開発における効果向上の取組や援助国・国際機関間の協調のあり方を議論することを目的として開催された閣僚級の会合です。釜山HLFでは、国際社会の開発目標を達成するため「途上国側の主体性を尊重すること」「成果を重視すること」「援助の透明性と相互の説明責任を果たすこと」などが重要であることに改めて合意しました。また、特に「新興国」「三角協力・南南協力」「民間セクター」など、開発分野において幅広い主体が関わることの重要性についても確認されました。
釜山HLFの特徴の一つは開発の新たな担い手が多く参加した点にありますが、釜山HLFから半年後の2012年6月、彼らが広く参画できる新たな協力の枠組みとして「効果的な開発協力のためのグローバル・パートナーシップ」(以下、グローバル・パートナーシップ)が正式に立ち上がりました。援助効果の向上に関する議論は従来、主に先進援助国・国際機関の間で、またDACの中で行われていたのに対し、グローバル・パートナーシップは、新興国や民間セクターなど、新しい開発の担い手も参加できる開かれた会合として、DACと国連開発計画(UNDP)の共同事務局の下で、これから活動が始まります。
グローバル・パートナーシップでは、より効果的に開発を進めていくために、地球規模の開発課題にどのように取り組んでいくか、釜山HLFで各参加主体が約束した事柄への取組がどれだけ進んでいるかについて、参加者間で話し合う予定です。このグローバル・パートナーシップは、先進援助国、新興援助国、民間セクター、市民社会、さらに、援助の対象となる途上国が一堂に会して開発を議論するという意味で、画期的なフォーラムです。閣僚級会合の共同議長には、英国のグリーニング国際開発大臣が先進国代表として、ナイジェリアのオコンジョ・イウェアラ財務大臣が途上国代表として、そして、インドネシアのアルミダ・アリシャバナ国家開発企画庁長官が新興国代表の共同議長として就任しました。新興国は、自らの成長の経験を途上国と共有すること、発展段階にある立場として途上国に寄り添ってその声に耳を傾け、先進国と途上国の橋渡しを果たすなど、ユニークな役割が期待されます。また、新興国は自身が援助国としての経験を積んでいる過程にあるため、これまで国際社会で実践されてきた援助実施のルールや手続きなどを学び、それらに沿って援助を実施していくことが求められます。同時に、先進国側も新興国の、従来の援助国・被援助国としての関係というより、水平的なパートナーとしての開発援助のやり方から多くを学ぶことができます。先進国、途上国、新興国、加えて民間セクターや市民社会が共に学び、共有していくことが必要です。多様な開発の担い手による、多様な開発援助のメニューは、援助を効果的に実施していく上でも重要です。ポスト釜山の取組においては、中国やブラジル、インドなど、特に影響力の大きな新興国のかかわりを引き続きどのように求めていくか、という点が焦点の一つでしょう。
モザンビークの稲作生産性向上プロジェクトでは、ベトナムと連携した三角協力に取り組む。現地の水利組合の研修に参加するベトナム人専門家(写真:谷本美加/JICA)