開発協力トピックス
日本の環境技術のODAへの活用
現在、国際社会は気候変動など、様々な環境問題に直面しています。その多くは、多数の国に影響を及ぼす国境を越えた地球規模の課題であり、これらへの取組は世界共通の課題ですが、途上国の多くは十分な対応が行うことが出来ずにいます。経済発展を目指す途上国は、知識や技術の不足から、環境を顧みずに経済成長を推進しようとする傾向があります。また、中国やインドといった急速に成長を遂げている新興国では、既に大気汚染などの問題が深刻になりつつあります。日本は、1960年代以降の高度経済成長期に自らが直面した公害から多くの教訓を学び、今では世界をリードする有数の環境技術先進国となっています。日本の優れた環境技術を活用し、ODAを通じて途上国の持続可能な開発の実現に貢献していくことは、日本の科学技術外交を推進し、同時に地球規模課題への取組を強化することにつながります。
気候変動についていえば、日本は2009年の国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)において、「気候変動分野における途上国支援」を表明し、気候変動対策に取り組む途上国や、気候変動の影響を受けやすい途上国を対象に、2009年から2012年2月末までに官民で合わせて約132億ドル規模の支援を実施しています。この支援の一環として、ケニアにおける地熱発電設備の設置事業やモルドバにおける太陽光発電設備の設置事業など、日本企業の技術・製品を活用したODAプロジェクトを実施しています。また、日本は、このような再生可能エネルギー導入に対する支援に加え、石炭火力発電効率の向上などの省エネルギー化への支援も行っています。現在、世界全体の発電量の4割が石炭によってまかなわれており、石炭の効率的利用のような低炭素技術の促進は気候変動対策にとって大変有効な手段になります。日本は、クリーンコールテクノロジーと呼ばれる、石炭を効率的に利用し、環境負荷を抑える技術を有しており、インドネシアなどでこの技術を活用した支援を行っています。そのほかにも、日本の環境技術は、たとえばベトナムにおける「天然ゴムを用いる炭素循環システムの構築プロジェクト」において、天然ゴム増産に伴う環境負荷低減への取組や基盤技術の確立に用いられるなど、様々な分野で活用されています。
加えて、2012年6月の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で、日本は「緑の未来」イニシアティブを表明しました。その中には、環境分野の知識・経験や技術を持つ専門家などで編成する「緑の未来協力隊」や、「再生可能エネルギー等の気候変動分野と防災分野へのそれぞれ30億ドルの支援」など、日本の優れた環境技術を活用した施策が含まれており、これらを着実に実施していきます。このイニシアティブでも構築を表明した「二国間オフセット・クレジット制度」は、日本の低炭素技術などを相手国に提供することなどを通じて、相手国の温室効果ガス削減に貢献し、その貢献分を日本の温室効果ガス排出削減目標の達成に活用する制度です。京都議定書で認められている現行のクリーン開発メカニズム(CDM)は承認手続きが煩雑で時間を要するなどの課題があるとの指摘がなされています。この制度はCDMを補完するものであり、制度の早期実現に向け、現在、アジア諸国を中心にプロジェクトの実現可能性調査事業などを行うとともに、各国との協議を積極的に進めているところです。
また、日本は2008年から、地球規模課題の解決および科学技術水準の向上につながる新たな知識・経験を得るとともに、国際共同研究を通じて途上国の自立的研究開発能力の向上と課題解決に役立つ持続的な活動体制づくりを目的に、日本と途上国の研究者が国際共同研究を行う「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)」をマレーシアにおける「アジア地域の低炭素社会シナリオの開発」、インドネシアにおける「泥炭・森林における火災と炭素管理」プロジェクトなどで実施しています。
精製天然ゴムラティックスを作る様子。この協力を通じて天然ゴムの高機能化をもたらす技術と炭素循環の基盤技術の開発を支援する(写真:JICA)