囲み I-1 インフラに関する議論・研究の概要
1990年代を通じて、インフラに対する支援は減少し、開発援助の焦点が社会セクターにあてられてきた。しかしながら、近年、インフラ整備が成長や貧困削減に果たす役割が見直されており、国際機関や日本を含むドナーによりインフラに関する議論や研究が活発に行われている。以下では、その中から主なものの概要を紹介する。
●インフラ行動計画(世界銀行)
2003年9月の世界銀行/IMF合同開発委員会において、世界銀行により提示された行動計画。同年4月の世界銀行/IMF合同開発委員会において、民間セクターによるインフラへの投資が大きく減少し、インフラ・ギャップ(インフラの必要量と供給量の差)が顕在化したこと、また、インフラの建設により中低所得国の投資環境が改善されるなど、インフラが開発に必要な条件を整備し、持続可能な成長ひいてはMDGsの達成に資することなどが議論された。これを機に、世界銀行は、インフラ支援への積極路線に転換し、今後の方向性として、以下を主な内容とするインフラ行動計画を提示した。
・インフラ・プロジェクトのための予算増加や、PRSPや国別援助戦略(CAS:Country Assistance Strategy)へのインフラ整備の取り込みを推奨。
・インフラに関わる標準的データベースの構築や、国別分析業務の導入。
・インフラ建設を効果的にすすめるための世界銀行内の機構・仕組みの見直し。
・インフラと貧困削減の関連の実証研究。
●貧困削減ネットワークでの議論(OECD-DAC)
OECD-DACの貧困削減ネットワーク(POVNET)において、「経済成長を通じた貧困削減」とのテーマのもとで、インフラ分野についても具体的な議論が活発化。具体的には、POVNETの下に設置されたインフラ・タスク・チームが、インフラ分野においてドナーが実践すべき「行動規範(ガイディング・プリンシプル)」をまとめている。「行動規範」では、概ね以下の論点が強調される方向で検討が進められている。
(1)被援助国のインフラ・セクター分野の開発戦略にのっとったインフラ支援計画の立案及び実施。
(2)適切な裨益者層の設定、貧困層のインフラ・サービスへのアクセス改善などを通じたインフラ支援の貧困層へのインパクト拡大。
(3)開発途上国におけるインフラ分野全体の運営管理。
(4)インフラ整備のための資金動員の重要性。
●東アジアのインフラ整備に向けた新たな枠組
(共同研究:JBIC、ADB、世界銀行)
インフラが東アジアの経済成長と貧困削減に貢献したことを積極的に評価し、今後のインフラ・ニーズにどのように対応すべきかについて研究を実施。具体的には東アジアにおける経済発展の経験やアジア通貨危機によって顕在化した問題点、課題を踏まえながら、以下の4点に関して、経済発展におけるインフラの役割、インフラ整備の官民の役割分担、インフラ需要と資金調達、将来の社会構造の変化の影響などについて調査した。
(1)東アジアのインフラ整備の課題
(2)すべての人々が裨益する開発
(3)関係主体間の相互調整
(4)説明責任とリスク管理
さらに、インフラ整備における中央政府の計画・調整機能の重要性、インフラ整備のための公的財政手当、民間資金の必要性、国内金融市場の整備の重要性、ドナーがインフラ整備において触媒機能を果たし得ることなど今後の方向性について12にわたる政策を提言している。
●貧困削減のためのインフラ活用研究プロジェクト(調査中)
(共同研究:日本、UNDP)
開発途上国におけるコミュニティレベルでのインフラへの取組についての調査。具体的には、小規模インフラと貧困とガバナンスの相互関係を分析し、小規模インフラの貧困削減に果たす役割について研究を進めている。
この研究では、ケース・スタディとして、バングラデシュ、セネガル、タイ、ザンビアの4か国の国別研究を実施した。例えば、バングラデシュの国別研究では、道路や橋梁の整備が進み、女子が安心して学校に通えるようになったり、病院へのアクセスが便利になったという事例などが取り上げられ、小規模インフラのMDGsに果たす役割が調査されている。
また、ザンビアの国別研究では、水供給プロジェクトを事例に、貧困削減に果たす効果と、コミュニティ関与の程度の関係分析について研究がなされている。