ODA評価 年次報告書2020
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【南アのリンポポ州マラリアコントロールセンターにて】マラリア予防の普及活動に使用する紙芝居の説明を受ける評価チーム評価者(評価チーム)評価主任佐藤 仁 東京大学東洋文化研究所教授アドバイザーマエムラ ユウ オリバー東京大学工学系研究科講師コンサルタント株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル評価対象期間2008年度~2018年度評価実施期間2019年9月~2020年3月現地調査国タイ王国(以下「タイ」)及び南アフリカ共和国(以下「南ア」)評価の実施体制評価の背景・対象・目的 SATREPSとは、2008年以降、外務省及び文部科学省の所轄下で、JICA(国際協力機構) 、JST(科学技術振興機構)、AMED(日本医療研究開発機構)が共同で実施している、開発途上国の研究者と共同で研究を行う3~5年の研究プログラムである。科学技術の競争的資金とODAを組み合わせることにより、開発途上国のニーズに基づき、地球規模課題の解決と将来的な社会実装(注: 研究成果の社会への還元)に向けた国際共同研究を推進している。本件評価は、過去10年の実績を踏まえ、SATREPSの研究成果や社会実装という観点のみならず、ODAとしての有効性や日本外交への貢献も加味した評価を実施し、評価結果を今後のODA政策及び国際科学技術協力分野の政策に活かすことを目的とする。評価結果のまとめ開発の視点からの評価(1)政策の妥当性 SATREPSは、日本の科学技術政策及び開発協力大綱と整合している。相手国の開発ニーズや国際的な優先課題との整合性については、SATREPSは公募の段階で応募者がこれらと整合的な内容を確保する必要があるため、採択された案件は相手国の開発ニーズや国際的な優先課題との整合性が高いものが基本となる。タイ及び南アのケーススタディからも、両国におけるSATREPSの実施は開発ニーズと整合しており、両国が所属する地域共同体の方針とも整合することが確認できた。(評価結果 : 極めて高い A)(2)結果の有効性 SATREPSの政策目標に対するインプットは、日本での「委託研究費」をはじめとし、技術協力プロジェクトの枠組みによる「在外研究員(日本側研究者)の派遣」、「外国人研究員の受入」、「機材の供与」と十分に行われている。また、投入に対するアウトプット、アウトカムの有効性に関しては、JICAとJSTの評価報告書を俯瞰すると、一部低評価の研究課題がありつつも、全体的に高い評価を得ていることが確認できた。(評価結果 : 極めて高い A)(3)プロセスの適切性 実施プロセスにおいて、日本側研究者と相手国側研究者の長年にわたる信頼関係を下地に実施されたことにより、様々な課題を乗り越えて成功した例が確認された。しかし、SATREPSの採択プロセスにおいて、申請した案件が不採択になった理由について日本側から相手国側援助窓口機関に詳しく説明されていないなど、相手国のオーナーシップを弱める懸念のあるプロセスが一部見られる点が明らかとなった。また、実施国ごとの受入れ体制に大きな違いがあり、実施上の課題もそれぞれ異なることから、各国の事情に個別に配慮する必要があることが明らかになった。(評価結果 : 高い B)(注)レーティング: 極めて高い A / 高い B / 一部課題がある C / 低い D外交の視点からの評価(1)外交的な重要性 SATREPSは、国家安全保障戦略という日本の外交分野の上位政策に合致するとともに、科学技術外交のうち「外交のための科学」と「科学のための外交」を推進する具体的取組みであるという重要性を持つ。(2)外交的な波及効果 日本と相手国との共同研究を通じて科学技術の活用による持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献し、国際社会における日本のプレゼンスを向上させるとともに、科学技術分野の交流促進や研究者間のネットワーク構築を通じた二国間関係及び地域内友好関係の強化に大きく貢献していることが確認できた。評価結果に基づく提言(1)案件形成における「相手国側の研究者を起点とする回路」の設置 現在のSATREPSでは、日本側の研究代表者の研究人脈を起点として、相手国研究者の同意の下にプロジェクトが形成されている。相手国側にオーナーシップを持たせ、相手国の政策ニーズや市場動向を案件形成に反映させるためには、「相手国側の研究者を起点とする回路」の設置が必要である。相手国のニーズを反映させるために、相手国に精通する地域研究者や社会科学系研究者を「準備調査」として派遣するパイロット事業を実施することも一案である。(2)相手国のオーナーシップの醸成に向けた、適切な情報共有 案件採択において、相手国側運営機関に対し、特に不採択となった理由が十分に説明されていないため、相手国側がSATREPSに参画するモチベーションに悪影響を与えると同時に、相手国における制度の改善が促進されない可能性がある。どのような基準で不採択に至ったのか、今後どのような改善を施せば採択の可能性があるかなど、未来志向的な情報提供をすべきであり、相手国側への適切な情報共有により、オーナーシップを醸成することが重要である。(3)「社会実装」の共通認識と長期的なフォローアップメカニズムの確立 社会実装について、定義や目指すべき方向があるものの、創設後10年を経過した現在でもSATREPSプロジェクト期間内で目指すべき到達点に関する共通認識が不十分であり、具体的な推進策を打ち出しにくい。今後は、JST及びJICAのそれぞれのプロジェクト資料において具体的に目指す社会実装の相違点を関係機関間で徹底して共有するなど、社会実装に関する共通認識を関係機関で確立する必要がある。社会実装化を具体的にするための仕掛けとして、相手国側から「フォローアップ案件」をJICAに申請できるような枠組みの新設を提案する。また、SATREPS事業が終了してから数年後の効果を調査して分野・領域ごとに俯瞰的な教訓を抽出する長期的なフォローアップが必要である。(4)国ごとに異なるSATREPS実施上の課題の把握と整理 SATREPSの受入国側の課題は国別に異なるため、日本側は個別の課題に柔軟に対応することが重要。JICAは国ごとに異なるSATREPS実施上の課題と柔軟な対応方針をとりまとめて、JSTやAMED、現地タスクフォースと共有する必要がある。SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)の評価<概要>(注)下記は,評価チーム作成の評価報告書に基づき,外務省ODA評価室が作成したものです。全文はこちらからご覧いただけます。 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100052430.pdf15

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