軍縮・不拡散

イランの核問題
(概要及び我が国の立場)

平成18年11月8日

I. これまでの経緯

1.問題の顕在化(~2003年9月)

(1)イランは、1960年代後半より原子力活動を開始し、当初は米国や西独(当時)、その後、中国やロシア等より協力を得てきた。1995年以降は、ロシアの協力の下、ブシェールに100万キロワット級の軽水炉の建設を進めるなどの活動を行ってきた。しかしながら、2002年8月、反体制派組織の暴露により、ナタンズ及びアラクにおける大規模原子力施設の秘密裏の建設が発覚したことを皮切りに、イランの核問題が国際原子力機関(IAEA)等の場で大きく取り上げられることとなった。

(2)その後、IAEAによる検証活動等を通じて、イランが長期間にわたり、ウラン濃縮やプルトニウム分離を含む原子力活動をIAEAに申告することなく繰り返していたことが明らかとなり、2003年9月、IAEA理事会は過去の活動の解明、ウラン濃縮活動の停止などを求める日・豪・加共同提案決議を採択した。しかしイランが決議を遵守しなかったため、2003年11月のIAEA理事会で問題の安保理への報告の要否が審議される見通しになった。

2.EU3による外交努力とイランの対応(2003年10月~)

(1)2003年10月、英・仏・独(EU3)の外相は、問題のIAEAの枠内での外交的解決のため、テヘランを訪問しイラン政府と交渉した。その結果、イランが濃縮関連活動の停止と過去の解明のためのIAEAとの協力を約束する一方、EU3は経済面での協力を約束するテヘラン合意に達した。2003年11月のIAEA理事会は、イランの保障措置協定上の過去の不備及び違反に対して強い遺憾の意を表明する決議を採択したが、安保理への報告は決定しなかった。

(2)IAEA理事会決議のすべての要求事項の履行を求める国際社会の要求に対し、イランは、一貫して核兵器開発の意図はなく、すべての原子力活動は平和的目的であると主張してきており、2003年10月にIAEAに対して、自らの原子力活動に関する包括的かつ正確と期待される申告書を提出するなど、保障措置に関する是正措置をとり、また、2003年12月には、追加議定書に署名するなど前向きな対応を見せた。(注)

(注)イランは、1970年に核兵器不拡散条約(NPT)に加入し、1974年にはIAEAとの間で包括的保障措置協定を締結した。

(3)しかし、イランは追加議定書の実質的な適用(暫定実施)を行ったものの、批准せず、また、テヘラン合意に反してウラン濃縮関連活動を行ったことから、国際社会の懸念が高まった。こうした中、EU3がイランと交渉を行った結果、2004年11月、パリ合意に達し、イランはウラン濃縮関連活動を停止し、それと同時に、EU3とイランの間で長期的取り決めに向けた交渉が開始された。

3.イランによるウラン転換活動の再開と保障措置協定違反認定(2004年8月~)

(1)EU3は2005年8月初旬、長期的取り決めに関する提案をイランに対して提示したが、直後に、イランは同提案を受け入れられない旨EU3に伝達した。また、パリ合意に基づき停止していたウラン濃縮関連活動のうち、ウラン転換活動の一部を再開するに至った。

(2)こうしたイランの対応を受け、8月11日、IAEA特別理事会は、イランに対して深刻な懸念を表明するとともに、ウラン濃縮関連活動の完全な停止を再度行うこと等を求める決議を採択した。

(3)しかしながら、こうした国際社会からの要請にもかかわらず、イランはウラン転換活動を再停止しなかったこと等から、9月24日、IAEA理事会は、IAEA憲章上、国連安保理への報告が必要とされているIAEA保障措置協定の「違反(non-compliance)」をイランに関して認定するとともに、イランに対してIAEAへの更なる協力とウラン濃縮関連・再処理活動の再停止等を求める内容を含む理事会決議を、理事国の多数の支持を得て採択した。その一方で、同決議は、国連安保理への報告の時期と内容については、以後の理事会に決定を委ねた。

4.イランによるウラン濃縮関連活動の再開と国連安保理報告(2006年1月~)

(1)その後、事態の打開に向けて関係国が外交的努力を継続したが、本年1月3日、イランは、IAEA事務局に対して、信頼醸成措置として停止していた「平和的原子力エネルギー計画に関する研究開発」活動を1月9日に再開することを決定した旨通知。1月10日、イランは、IAEA査察官の立ち会いの下、ナタンズにおけるウラン濃縮関連の研究開発活動再開のため封印を撤去。

(2)イランによるウラン濃縮関連活動の再開を受け、EU3外相及びソラナEU共通外交・安全保障政策担当上級代表は、本件を国連安保理に報告する方針で一致し、そのためにIAEA特別理事会の開催を求めることを含む声明を発出。1月31日未明(現地時間)、ロンドンにおいて、EU3及び米国、中国、ロシアの外相が非公式会合を行い、共同声明を発出。同共同声明では、2月2日から開催されるIAEA特別理事会で本件を国連安保理に報告することで原則一致する一方で、IAEA3月理事会の結果が出るまで国連安保理での具体的な行動を行わないことで合意。

(3)2月2日からウィーンにおいてIAEA特別理事会が開催され、2月4日、本件を国連安保理に報告すること等を内容とする決議を、賛成多数(賛成27、反対3、棄権5)で採択。これを受け、イランは、2月5日、今後は包括的保障措置協定に基づく保障措置のみを履行すること、及び、これまで自発的かつ法的拘束力を持たないものとして行ってきたすべての措置を停止すること等をIAEAに通報したのに続き、2月14日、ナタンズのウラン濃縮施設で小規模のウラン濃縮活動を再開したことを発表し、現地のIAEA査察官もこれを確認した。

(4)その後、ウラン濃縮をイラン国内ではなくロシア国内に設立する合弁企業で行うとのいわゆるロシア提案をめぐって、ロシアとイランとの間で集中的に協議が行われ、それと並行して、関係国からイランに対する働きかけも行われたが、イランは、自国内での研究開発目的のウラン濃縮活動の継続に固執したため、事態に進展は見られなかった。

(5)3月6日から開催されたIAEA理事会は、既に2月4日の理事会決議によって国連安保理への報告が行われていたことから、理事会決議の採択は行わず、3月8日、各国の立場等を踏まえた議長総括を発出して終了し、同日、2月27日のIAEA事務局長報告が国連安保理に伝達された。これに伴い、イランの核問題は国連安保理においても議論が行われることになった。

5.国連安保理での対応とEU3+米中露による交渉再開努力(2006年3月~)

(1)3月29日、国連安保理は、我が国を含む全理事国が一致して、イランの核問題に関する議長声明を採択し、イランに対して、IAEA理事会の要求事項を履行するよう求めるとともに、特に研究開発目的の活動も含めて、すべての濃縮関連活動及び再処理活動の完全かつ継続的な停止を再度行うことの重要性を強調した。また、同議長声明は、IAEA事務局長に対し、30日以内に、IAEA理事会が求めている措置のイランによる遵守の状況につき、IAEA理事会に対して、また、同時に検討のために国連安保理に対して報告するように求めた。

(2)しかしながらイランは、4月11日に3.5%の濃縮ウランの製造に成功したことを発表するなど、その後もウラン濃縮活動を継続・拡大した。こうした中、IAEA事務局長は、3月29日の国連安保理議長声明に従い、4月28日、同議長声明及びIAEA理事会決議の要求事項の履行についてイラン側が十分満たしているものはないとの内容を含む報告を国連安保理及びIAEA理事会に提出した。これを受け、5月に入ってから、安保理決議の採択を目指し、国連安保理において協議が行われ、5月8日には、NYにおいてEU3及び米国、ロシア、中国の外相が対応を協議した。

(3)その後、5月31日、米国は、イランがウラン濃縮活動及び再処理活動を完全かつ検証可能な形で停止次第、EU3とともに交渉のテーブルにつく用意がある旨の提案を行った。6月1日、ウィーンにおいてEU3及び米国、ロシア、中国の外相会合が再度開催され、それに続く6月6日、ソラナEU共通外交・安全保障政策担当上級代表、EU3、ロシアの代表がテヘランを訪問し、EU3、米国、ロシア、中国の6か国が合意したものとして、イランが国際社会の懸念を十分に払拭した場合に行いうる協力を含む包括的な提案をイランに提示した。

(4)しかしイラン側からは、7月11日に行われたソラナ上級代表他との協議を含め、6カ国提案の内容に真摯な対応がなされなかった。こうしたイラン側の対応を受け、7月12日、パリで会合を行った上記6か国の外相(中国は代理が出席)は、国連安保理での議論を再開し、IAEA理事会決議等がイランに対して要求しているウラン濃縮関連活動の停止等を義務的にする安保理決議の採択を目指すこと、及び、イランが同決議に従うことを拒否する場合には国連憲章第7章第41条に基づく措置の実施に向けて作業を行うことに合意した旨の声明を発表した。7月16日、ロシアのサンクトペテルブルクで開催されたG8首脳会議も、12日の6か国外相声明を支持する旨の文書を採択した。

(5)7月31日、安保理は、イランの核問題に関するものとしては初の安保理決議である決議1696を採択(賛成14、反対1)し、イランに対し研究開発を含むすべてのウラン濃縮関連・再処理活動の停止を義務づけ、8月31日までに同決議を遵守しない場合には国連憲章第7章第41条下の適当な措置を採択する意図を表明した。イランは、8月22日、EU3及び米中露に対し、包括的提案に対する回答を提示したが、ウラン濃縮関連活動の停止をはじめとする安保理決議1696の要求に応えるものではなかった。8月31日、このようなイランの対応を踏まえた内容のIAEA事務局長報告が発出された。

6.最近の動き(2006年9月~)

 9月に入ってから、ラリジャニ・イラン国家安全保障最高評議会書記とソラナEU上級代表が累次にわたって会談するなど、イランとの交渉再開に向けた関係国の外交努力が行われたが、ウラン濃縮活動等の停止をめぐる立場の相違を埋めるには至らず、交渉再開には結びつかなかった。これを受けて、10月6日、EU3及び米中露の外相会合が開催され、交渉による解決策を引き続き模索しつつも、国連憲章第7章第41条下の措置を含む安保理決議に関する議論を開始するとの方向性につき合意。現在、安保理決議案の具体的内容について、関係国間で協議が行われている。

II. 我が国の立場

1.我が国を含む国際社会からの呼びかけにもかかわらず、イランが依然としてウラン濃縮活動を継続・拡大していることは極めて遺憾である。イランが、安保理決議1696を重く受け止め、真摯に対応することを強く期待する。安保理決議1696にもあるとおり、イランは、本年2月4日のIAEA特別理事会決議(GOV/2006/14)の主文第1パラグラフにおいて求められている措置(注)を講ずることが求められている。我が国としても、イランが、安保理決議1696に従い、速やかにすべてのウラン濃縮関連活動及び再処理活動を完全かつ継続的に停止した上で、交渉に戻ることを強く期待する。

2.我が国としては、イランが世界の声に耳を傾けるように国際社会が一致して働きかけていくことが重要と考えており、今後とも、G8の一員として、また、国連安保理理事国として、本件の平和的・外交的解決のために積極的役割を果たしていく考えである。また、我が国としては、これまで問題解決のために外相レベル等での外交的努力を行ってきているが、引き続き、あらゆる機会をとらえ、イランに対して強く働きかけていく考えである。

(注)本年2月4日のIAEA特別理事会決議(GOV/2006/14)主文第1パラグラフの要求事項

(1)研究開発活動を含め、すべての濃縮関連活動及び再処理活動の完全かつ継続的な停止を再度行い、この停止がIAEAによって検証されること。

(2)重水減速研究炉の建設を再考すること。

(3)追加議定書を早期に批准し、かつ、完全に履行すること。

(4)追加議定書の批准を完了するまでの間、引き続き、イランが2003年12月18日に署名した同議定書の規定に従って行動すること。

(5)IAEA事務局長によって要請されている透明性についての措置を実施すること。この透明性についての措置は、保障措置協定及び追加議定書の正式な要求事項を超えるものであり、進行中の調査活動を支えるためにIAEAが要求しうる一連のアクセス(個人、調達に係る文書、汎用品、軍が所有する一部の作業場や研究開発(区域)に対するアクセス)を含む。

(参考)2003年8月には、IAEA追加議定書に関する日・イラン実務者協議を開催し、我が国の追加議定書締結・実施に関する経験をイラン側に説明することによって、具体的な協力を行ってきている。

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