文化交流

無形文化遺産条約の発効

平成18年4月

 1972年に採択された世界遺産条約により、世界各地の遺跡や歴史的都市、あるいは雄大な自然といった、いわゆる「有形」の文化・自然遺産については、「顕著な普遍的価値を有する」人類共通の遺産として、国際的な体制が整えられ、保護が図られてきました。日本でも「世界遺産」という言葉がすっかり定着してきていることはご存じのとおりです。しかし、伝統的な音楽や舞踊、演劇、祭礼、あるいは工芸技術のような、形を伴わない「生きた文化」については、世界遺産条約ではカバーされていません。このような「無形文化遺産」は、有形の遺産と等しく人類にとって重要な文化遺産でありながら、伝え手がいなくなれば永遠に失われてしまうこととなります。そこで、無形文化遺産を保護する国際的協力体制を整え、次の世代に伝えていくため、「無形文化遺産の保護に関する条約」が2003年のユネスコ総会で採択されました。2006年1月には締約国が発効の要件である30カ国に達し、条約の規定に基づき、その3ヶ月後である4月20日、無形文化遺産条約が発効しました。締約国は47ヵ国(4月20日現在)、わが国は2004年6月に締結しています。

 わが国は、このような伝統芸能や工芸を守っていこうとする取組みにおいて、国際的にみても他国をリードする先進国です。急激な社会や国民生活の変化を背景に、すでに1950年に「文化財保護法」を制定し、いち早く国内の無形文化財保護への取組みを本格的に開始しました。いわゆる「人間国宝」という制度も、文化財保護法で定められているものです。このような豊富な経験と高い知見を活かし、わが国は、無形文化遺産条約の作成過程でも交渉を主導してきました。また、1993年からユネスコ内に無形文化財保存・振興日本信託基金を設立し、信託基金からの拠出を通じ、途上国を中心とする世界各国における無形文化遺産保護を積極的に支援してきています。

 無形文化遺産条約の発効により、各締約国には、それぞれの国内の無形文化遺産の目録を作成し、記録機関を設置するなど、必要な措置をとることに努める義務が課されます。また、締約国の間で政府間委員会が設置され、人類の無形文化遺産の代表リストを作成するとともに、締約国の分担金及び拠出金からなる基金を設立して専門家の派遣、人材育成、機材・ノウハウの提供などの必要な援助を行う等、国際的な水準での無形文化遺産保護体制が整うこととなります。しかし、条約は整ったものの、どのように実施していくか、実際の運用はこれから政府間委員会を立ち上げ、議論していくこととなっています。ひとくちに無形文化遺産といっても、その内容は多様多彩であり、条約の運用には柔軟性が求められることが予想されます。効果的に条約の精神を実現していくためにも、運用のルール作りは重要な課題であり、わが国のこの分野での知見と実績を活用することは国際的な利益ともなります。一層の貢献を果たすため、わが国は政府間委員会委員国として立候補する予定です。

 保護の対象となる無形文化遺産の具体的な内容については、ユネスコが2001年から2005年にかけて「人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言」を行っており、3回にわたり計90件が傑作として宣言されています。その中には、日本の能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎の3件も含まれています。これらは条約発効後、条約に基づいて作成される無形文化遺産代表リストに統合される予定となっています。

 いわゆるグローバル化の加速する現代社会であるからこそ、その土地や民族の伝統を伝える無形文化遺産のもつ重要性は高まっているのではないでしょうか。これを次の世代にしっかりと受け継いでいくことは、今を生きる我々の世代に課せられた義務であり、無形文化遺産条約の精神の実現に努める所存です。

麻生大臣演説「文化外交の新発想」(平成18年4月28日)

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