第5章 外交体制

   1.外交実施体制

【外交実施体制の強化の必要性】

 相互依存が深まる今日の国際社会において外交の重要性はますます高まっており、外務省の業務量は、近年、増加の一途をたどっている。また、海外の在留邦人数、海外旅行者数の増加に伴う事務も増えており、この状況に適切に対処していく必要がある。
 このような通常業務の増大に加え、日本が世界全体の平和と繁栄の確保に向けて積極的に参画している今日、新しい時代にふさわしい、より能動的な外交を展開し得るような外交実施体制の整備・強化を図ることが必要不可欠である。具体的には、主要先進国に比べて未だ不十分な外務省定員等の増強、種々の外交課題に適切に対応するための機構の拡充、在外公館の機能強化(在外公館施設等の強化、危機管理体制・海外邦人安全対策の強化)、一層の情報化の推進を速やかに実現する必要がある。

【機構・定員、予算面での努力】

 このような認識の下、外務省は、98年度に機構・定員、予算の面で外交実施体制の強化に向けて次のような努力を行った。
 機構については、上記のような状況を受けて業務が激増している外務大臣を補佐する外務政務次官を1人から2人に増やし、より機動的な対応を可能にするとともに、日米地位協定室を新設して、95年9月の沖縄における少女暴行事件を契機に業務が更に増加している在日米軍基地問題への対応を強化する等の措置を取った。また、在外公館については、108社の日系企業が進出し、4720名の在留邦人が居住する米国中西部において領事業務の必要性が高まっていることに鑑み、在デンヴァー総領事館を新設することとした。これにより98年度末における日本政府の在外公館(実館)の数は大使館113、総領事館66及び政府代表部6の合計185となる。
 人員の増加については、政府に早急な対応が求められている危機管理・安全体制の強化の面に重点を置いて取り組んできている。この結果、厳しい予算、定員事情の下、98年度には外務本省22名、在外公館50名の合計72名の増員を行い、定員数は合計5169名(外務本省2010名、在外公館3159名)となった。定員の増加を図る一方、外務省としては、定員の有効活用及び事務合理化の努力を行うとともに、人材の採用・育成等の分野で必要な改革を実施してきている。
 予算面においては、財政構造改革の集中改革期間の初年度に当たる98年度当初予算において、前年度比3.5%減(269億円減)の7479億円を計上した。その中で以下の二本柱を掲げてメリハリのある予算配分に努めた。

  • 外交実施体制の強化(定員等の増強、機構の拡充、危機管理体制・海外邦人安全対策の強化を含む在外公館の機能強化、本省及び在外公館の情報・通信及び連絡網の整備)
  • 外交施策の充実強化(二国間援助等の質的改善、国際の平和・安全、軍縮及び開発のための協力、国際文化交流の推進)
 情報化の推進については、「外務行政情報化推進計画」に基づき、「省内・在外LAN」システムの構築や情報提供機能の強化等の外務行政の総合的かつ計画的な情報化を推進し、外交機能の強化及び国民等への行政サービスの向上を図るための努力を行っている。

   2.領事体制と海外安全対策

【日本人の海外渡航と邦人保護】

 97年の海外渡航者数は、前年比0.6%増の史上最高1680万人を記録した。また97年10月1日現在で海外に3か月以上滞在している長期滞在者は50万7749人、在留国から永住資格を得ている永住者は27万4819人に達し、海外在留邦人総数は前年比2.4%増の78万2568人に達し、過去最高となった。
 海外渡航者の増大に伴い、邦人が海外で事件・事故に巻き込まれるケースが増大していることを踏まえ、外務省は、97年12月に渡航情報及び退避に関する情報を5段階の「海外危険情報」に統合した(98年12月中旬の時点では、危険度1「注意喚起」が52件、危険度2「観光旅行延期勧告」が37件、危険度3「渡航延期勧告」が21件、危険度4「家族等退避勧告」が4件、危険度5「退避勧告」が11件発出されている)。5月のインドネシア危機もあり、「海外危険情報」に対する国民の関心は高まりつつある。外務省は、海外の安全に関する情報の国民に対する提供に努めており、外務省インターネット・ホームページに「海外危険情報」の全文を掲載しているほか、外務省海外安全相談センターによるFAX・テレフォンサービスや「海外安全週間」の実施などを通じて広報している。さらに、海外安全面での官民の対話や協力の推進にも努めている。

【在外選挙】

 5月に在外選挙実施のための「公職選挙法の一部を改正する法律」が公布され、これに伴い、99年5月から在外選挙のための登録関連業務が開始されることとなった。そして、2000年5月以降の国政選挙(ただし比例代表選出議員選挙に限る)の際に在外投票が行われることになる。具体的には、在留邦人は、原則として、投票所を設置している在外公館に出向き投票することができ、一部の遠隔の地に在留している邦人等は、郵便による投票も行うことができるようになる。外務省としては、自治省とも協力して在外選挙が円滑に行われるよう体制整備を含めた各種準備を行っている。

【領事体制の強化】

 海外在留邦人数の飛躍的増加、その活動の多様化等に伴い在外公館における領事業務はますます複雑多岐にわたっている。新規業務である在外選挙関連業務も含めた領事業務を円滑かつ迅速に行うためにも、外務省として領事専門官の育成や領事事務のOA化等による合理化に積極的に取り組んでいる。

【旅券の偽変造法事対策】

 近年、旅券等の渡航文書が国際犯罪組織や国際テロリストによって偽変造され、悪用されていることから、渡航文書の偽変造対策の強化がグローバルな課題としてサミット等の国際会議の場で取り上げられている。外務省としては、各国との効果的な協力体制の構築が不可欠であるとの観点から、98年11月アジア7か国の旅券発行当局者及び偽変造対策専門家を招聘し、「旅券偽変造防止セミナー」を開催するなど、アジア地域諸国の旅券偽変造技術の向上及び情報ネットワーク作りに努めているほか、サミット等においても先進各国との積極的な協力体制作りを推進している。

【日系社会の世代交代への対応】

 今日、移住者及びその子孫である日系人により形成される中南米の日系社会は150万人に達すると推定されている。日系社会では世代交代が進んでおり、現在は日系二世・三世がその中心となりつつあり、日本で就労する者も多い。これら日系人は、居住国の各界で活躍して各国の発展に貢献し、また、日本との架け橋として貴重な役割を果たしている。外務省としてもこうした日系人の活動への支援に引き続き積極的に取り組んでいる。

【在日外国人】

 97年に日本に入国した外国人の数は466万人(95年424万人)、また、97年末の外国人登録者数は148万人(96年142万人)と漸増傾向にあり、今後も、日本の国際化の更なる進展とともに漸次増加していくものと考えられる。一方、近年日本を訪れ滞在期限を超過して不法に残留する外国人は、98年1月現在で約27万6千人と93年5月のピーク時に比べれば約2万2千人の減少となっているものの依然大きな数字である。このような不法滞在者が犯罪を引き起こす場合も多く、日本国内において一部に在日外国人に対する偏見を生むと同時に、これら外国人の出身国における日本のイメージを損なうことがあるなど健全な国際交流の妨げとなっている。
 外務省は、不法就労等を目的とする者をできるだけ入国させないようにする一方で、人的交流促進の観点から規制緩和推進計画の一環として査証手続きの簡素化及び迅速化を継続して推進してきている。98年には、一部の中・東欧諸国及び豪州に対する査証免除措置を含む簡素化及び迅速化を行った。